東京ではたらく

書店員:太田千亜美さん(38歳)

職業:「代官山 蔦屋書店」書店
勤務地:東京都渋谷区
仕事歴:5年目
勤務時間:朝8時~夕方5時(不定期)
休日:不定期

この仕事の面白いところ:著者さんなど、普段なかなか会えない方々と一緒に仕事ができるところ
この仕事の大変なところ:最近外国人の方が増えて、言葉の壁に直面しています

東京の代官山 蔦屋書店で書店員として働いています。今年で5年目になりますが、今は人文コーナーのスポーツのジャンルを担当しています。

仕事内容は、毎日届く新刊書籍や雑誌をチェックして本を配置したり、お客様のお探しの本をご案内したり、レジを打ったりと、いわゆる書店員らしい仕事ももちろんありますが、代官山 蔦屋書店ならではの仕事もたくさんあります。

代官山 蔦屋書店では本と一緒に関連した雑貨や食品、衣料品などを販売しておりまして、そういった関連グッズをセレクトするのも書店員の大切な仕事です。

また店内ではトークショーやサイン会などのイベントを開催していますので、出演者との交渉やイベントの段取り、司会進行役を務めることもあります。一般的な書店員よりも仕事内容が多岐に渡りますが、そこが代官山 蔦屋書店で働くだいご味だと思っています。

スポーツの棚を担当する書店員ということで、昔から本とスポーツが大好きなのかと思われがちですが、実はそんなことはなくて。この仕事に就くまでは音楽にどっぷり浸かった生活でした。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

代官山のランドマーク的存在の代官山 蔦屋書店。「近年は外国人のお客様が増えて、全体の7割くらいは海外からの方です」

私は子どもの頃から「これだ!」と思ったことに熱中するタイプで、小学生の頃は親に買ってもらったジグソーパズルにハマって、小学校時代はお小遣いで1000ピースくらいのパズルを買ってはひたすらやっていました(笑)。

小学校4年生で吹奏楽に出会ってからはトランペット一筋。気づけば22歳頃までずっとトランペット中心に生活を送っていました。

最初のうちは全然音が出せなくて泣いてばかりいたのですが、中学に入って譜面通りに曲が吹けるようになるとだんだんと楽しくなってきて。それからは持ち前の熱中力を発揮しまして、地域のマーチングバンドチームに入って本格的に習うようになりました。

トランペットの道を極めていきたいと思ったきっかけは、高校時代に参加した国際大会でした。毎年アメリカでマーチングバンドの世界大会があるのですが、私が所属していたチームも参加することになって。

驚いたのはやっぱり海外の人が出す音でしたね。同じ曲を演奏しても圧倒的に違っていて。例えば私たちもジャズっぽい曲を演奏したりするのですが、やっぱりアメリカのチームが弾くジャズを実際に聴いたら、もう全く別の曲みたいに聴こえて(笑)。

小さな頃から慣れ親しんできた音楽が違いますから仕方のないことかもしれませんが、やっぱりそこに強く惹かれました。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

「レジに立っていると、どうしてもお客様が購入される本が気になってしまって(笑)。担当以外のジャンルの本で『面白そう!』と思った本は、仕事終わりに買って帰ります」

マーチングバンド自体も日本よりずっと規模が大きくて、チームは100人規模。所属できるのは高校生から21, 22歳くらいまでですが、世界中から希望者が集まって、オーディションを経てチームに所属しているんです。

アメリカのチームで演奏してみたいと強く思ったのは、その年齢制限のせいもあったかもしれません。当時は楽器の他に園芸に興味があったので、卒業後は造園を学べる専門学校へ進学しようかとも考えていたのですが「行けるうちに行っておこう!」と、渡米を決めました。

と言っても、アメリカのチームに所属するためには、まずオーディションに合格しなくてはいけません。高校を卒業したらすぐにアルバイトを二つ掛け持ちして、現地でのオーディションのための渡航費を貯めました。

両親は強く反対はしませんでしたが、渡航費や約4カ月間の留学の生活費など、費用は自分で工面すること、さらに飛行機や宿泊先の手配なども親の手を借りないという条件がつきました。今思えば、そうすることで娘の覚悟を試していたのかもしれません。

そして、なんとか貯めた100万円で渡米。150人の受験生を前に一人で演奏するという大緊張のオーディションを経て合格の通知を受け取った時は嬉しかったですね。それからまた怒涛のアルバイトで留学費用を捻出して、18歳で単身ボストンに渡りました。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

太田さんが担当するスポーツの棚。海外トレッキングのハウツー本の横には星野道夫さんのエッセイが。太田さん曰く『海外の原野を歩くロマン、憧れ』をテーマにしたのだそう

そのプログラムは4カ月間アメリカのチームに所属して世界大会を目指すというものなのですが、4カ月間だけでも自分の実力や自信がめきめきと高まっているのが実感としてあって。大会を終えて帰国するたびに「次はもっと上を目指したい!」という気持ちが湧いてくるんです。

結局、またしても持ち前の熱中癖で、18歳から21歳までの間はアメリカと日本を行ったり来たりすることに。日本にいる間はずっとアルバイトで渡米費用を稼いでいました(笑)。

高校の同級生たちは大学生活を謳歌していたのでしょうけど、そんなことが一切目に入らないくらい、アメリカで演奏することに没頭していました。

転機が訪れたのは、27歳の頃でした。アメリカのマーチングバンドの年齢制限を過ぎた22歳頃からは渡米することもなくなり、しばらくは高校の吹奏楽部の講師をしたりして過ごしていました。

楽器を続けるにせよ辞めるにせよ、この先どうやって生きて行こうかと悩んでいた時代で、料理教室に通ったり、ウェブデザインの学校に入ったりして、自分にフィットする仕事を探していました。

本作りの情熱、作り手から読者へ伝えたい

書店員:太田千亜美さん(38歳)

客の反応を見て、日々本の配列を変更。「並びを変えた後にお客様の反応がよくなると、やった!という気持ちになりますね」

今の仕事に通じるきっかけをくれたのは、亡くなった祖父でした。遺品整理をしているとたくさんの本が出てきて、その中に画家の安野光雅さんの絵本があったんです。

開くと見返しの部分の著者のサインがあって、その横に祖父から祖母へ「ハッピーバースデー」というメッセージが書いてありました。祖母へのプレゼントとして著者のサイン本を手に入れたんでしょう。その姿を思うと「ああ、なんだかすごくいいなあ」と思ってしまって。本というものに魅力を感じ始めたのは、その出来事が大きかったと思います。

それまで本というのは、ただ文章を読むためだけのものだと漠然と思っていたのですが、よく考えてみると、著者の他にデザインをする人、表紙の紙を選ぶ人、そしてそれらを一冊の本に編む編集者など、たくさんの人が関わっているんですよね。

そう思ったら、そんなことを知らずに本を読んできたことが途端にもったいなく感じられてしまって。それで、次に仕事をするなら、私が知って「おお!」と思ったことを大勢に伝えられる職業がいいなと。それで書店員になりたいと思ったわけです。

でも、小学生からずっと音楽しかやってきていない人間がいきなり本を扱う仕事に就くというのはどう考えてもハードルが高いですよね。未経験で雇ってくれる書店なんてそうそうないでしょうし。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

注目本は内容に関連したフェアを展開し、物販を行うことも。「雑貨のセレクトや仕入れなど、普通の書店員では経験できないことをたくさんやらせてもらえて、楽しいですね」

それでもやっぱり諦めがつかなくて、いろいろな本屋さんが紹介されている雑誌なんか見ていたんですけど、その時に知ったのが今働いている代官山 蔦屋書店でした。

目に留まったのは、年配の書店員さんのインタビュー記事でした。当時でもう本屋暦20年くらいのベテランさんだったと思うのですが、すごく楽しそうに働いている雰囲気が伝わってきて。こんなに長く一つの仕事を楽しくできるなんて、ものすごく素敵な職場だなと思いました。

私はそれまで主にカフェでアルバイトをしていたのですが、カフェは主に若い人向けの場所。メニューも店の雰囲気も流行の移り変わりが(飽きられるのが)早くて。でも自分はどんどん年齢を重ねていきますから、ずっと若者文化についていけるわけではないんですよね。

でも本屋さんには若い人も家族連れもおじいちゃんもおばあちゃんも、あらゆる世代の方がいらっしゃいます。だから書店員にも色々な世代がいた方がいいし、自分の年齢に応じた仕事ができるんじゃないかなと。それで一念発起、代官山 蔦屋書店の面接を受けてみることにしたんです。

代官山 蔦屋書店の採用面接は面白くて、扱う本のジャンルごとに応募できる場合が多くて。例えば旅行代理店から転職する人は旅行コーナー、シェフをやっていた人は料理コーナーといった風に、自分の経験や知識を活かして書店の仕事につなげることができるんです。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

「書店員の仕事はまず体力」と太田さん。午前中は新刊が満載された段ボールを運び、午後は物販用の器を運びと、本当に足腰勝負

私の場合はどう考えても音楽しかないのですが、なぜ今スポーツの担当をしているかというと、人文コーナーの面接を受けたからなんです。

あえて全く知識のないジャンルを志望するなんて、面接官もびっくりしていましたけど(笑)、私としては本のことを何も知らない身で書店員を志すわけですから、まずは文学など、本の基礎中の基礎の分野で勉強したいと思いまして。

おかげで入社後2年ほどはちんぷんかんぷんで、お客さんがレジに持ってこられた本が小説なのかエッセイなのかノンフィクションなのかすらわからない始末。とにかくもう本をたくさん読むしか成長する道はありませんから、新人の頃は月に30冊は読むという目標を立てて、面白そうと思った本は片っ端から読んでいましたね。

そんな中で、書店員の先輩方はもちろんですが、一番の先生はお客様でした。レジに立って、お客様が買っていく本を毎日見ていると、みなさん本当に面白そうな本を見つけてくるんですよね(笑)。そんな風に観察していると、「こういう本が好きな人は、こっち系の本も好きなんだな」とか、色々と傾向が見えてくるようになって。

書店員にとって、お客様の好みの傾向を知るというのは本当に大切な事で、例えばスポーツの棚に本を並べるにしても、どの本の隣にどの本を置くかでお客様の反応は格段に違ってくるんです。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

最近気になった本はエッセイスト松浦弥太郎氏のマラソンにまつわるエッセイ。「内容もさることながら、美しい装丁にもハッとさせられました」

例えば登山のコーナーなら、登山のハウツー本をずらっと並べるよりも、その横にちょっと山のロマンを誘うようなエッセイを並べた方がお互いの売上が伸びることがあったりします。面白いのは、いつもその戦法で正解かというとそうではなくて、季節やアウトドア界の流行によっても大きく左右されます。

それは言うなれば「時代の空気」みたいなものです。はっきりとは目に見えないのですが、毎日レジや売り場に立ってお客様の動きを見ていると、うっすら滲んで見えるような感じで。

それをもとに日々、本の配置を変えたり戻したりするわけですが、当たりもあれば外れもあります。でも、そこが書店員の腕の見せ所ですし、面白いところです。

最近ではSNSも「時代の空気」を読むのに欠かせないツールですね。注目度の高いリトルプレスなどを見つけて入荷したり、イベントを打ったりすることも増えてきました。一般の書店では扱えないようなニッチな本をご紹介できるのも、代官山 蔦屋書店だからこそだと思います。

先日も、あるデザイナーさんが趣味として続けている登山についての小説を出版されたのですが、自費出版ということで、文庫本サイズの本の定価が2000円ほどだったんです。ご自身も「高いから売れないんじゃない?」なんて自虐交じりに仰っていたのですが、私は絶対に自分の棚で扱いたいと思って。

書店員:太田千亜美さん(38歳)

◎仕事の必需品 「本屋さんの中はなぜだかとっても乾燥しているので、保湿用のリップクリームとお水は欠かせません。本の紙が湿気を吸収しているんですかね(笑)」

代官山 蔦屋書店が好きなお客様には絶対に刺さる本だという確信もあったので、本にちょっとしたノベルティをつけて、思い切って3000円で販売しました。結果、想像以上の売れ行きで、著者の方にもとても喜んでいただきました。

この仕事をしていて一番嬉しい瞬間はそんな時で、自分が「素晴らしい本だ」と思ったものがお客様に伝わって、丹精込めて作られた本が世の中に広がっていく。それを受けて、本づくりに関わったみなさんが手応えや喜びを感じてくれたら、書店員としてこんなに嬉しいことはありません。

これからの目標は、お客様に「太田さんの本棚から選べば間違いない」と思っていただくことです。本が売れない時代と言われて久しいですが、世の中には作り手の情熱が込められ、丁寧に作られた本がたくさんあります。それがある限り、本はずっと残っていくものだと信じているんです。

私の仕事は作り手と買い手の間に立って、その橋渡しをする事ですから、日々大きな責任も感じます。少しおこがましいかもしれませんが、自分が情報発信地だと思って、決して期待を裏切らないよう、襟を正す日々です。そういう意味では、東京の代官山で働いているということは、私にとっては大切な事で、必然でもあるようにも思うんです。

これからどんどん海外からのお客様も増えてくると想像します。「日本に来たら、まずは代官山 蔦屋書店に行け」と言ってもらえるよう、これからも無限に広がる本の楽しさを発信していけたらと思っています。

■代官山 蔦屋書店

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

タクシードライバー:奥富もえさん(25歳)

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ウェディングプランナー:宇田彩乃さん(30歳)

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