パリの外国ごはん

実は初登場、ただただシンプルにおいしいイタリア料理「Alfredo Positano」

前回に引き続き、相方・室田万央里さんが出産前に2人で訪れたお店、今回はイタリア料理店をご紹介します。
    ◇
パリ1

フランス人は、出産後1週間も経たないうちに赤ちゃんを伴って外食に出たりするが、“きっとあれは無理だし、出産したら次はいつ食べに行けるかわからないよね”と2人でそれまでの分を先取りするかのように外国ごはんの計画を立てた。

これまで結構いろいろな料理を食べたことを振り返りながら、隣の国の料理を食べに行っていないことに気づく。実は隣接する主な6カ国(スペイン、イタリア、スイス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク)、どの国の料理店も訪れていない。まだまだ暑い時期だったので意識は南へ行き、ピザはどう? ということになった。

最近のおしゃれなこだわりピッツェリアもそれはそれで良いけれど、イタリア人家族が経営の古くからあるお店に行きたい気分で、昔何度か訪れた記憶に残る店をリストアップする。電話をするとバカンスのようでどの店も誰もでない。それで挙げるのをためらっていた1軒を万央里ちゃんに伝えた。学生の頃もっとも訪れていた店だ。まだ仕事を始める前のことだから、あまりにも私的なアドレスの気がしていたのだ。電話をすると、開いていた。

行けることになり、とてもうれしかった。少しはしゃいだ気持ちでお店に着くと、内装が若干変わっていた。昔は入ってすぐの左手にアンティパストの皿が並んでいたのだが、少し奥の右手に移っていた。テーブルの配置も、ピザ窯の位置も違っているように思ったけれど、店全体の雰囲気は以前と変わらない。

パリ2

昔はパスタもよく食べていたが、この日はピザと決めていた。メニューを開くとピザのページのいちばん下にSPECIALITAと囲って、この店の名前を冠したalfredoとpositanoという二つのピザが並んでいる。ポジターノには生野菜が具に使われているようなので、アルフレッドを取ることにし、もうひとつはシンプルにマルゲリータに決めた。そして懐かしのひと皿である野菜のアンティパストAntipasto di legumiもシェアするように大きなポーションで注文。

待ちながら、なんでこんなにも長い間来なかったのだろうと不思議だった。すごく好きなお店だったのに。ほどなくしてアンティパストが運ばれてきた。Alfredo Positanoの名前入りプレートは、海辺のパラソルのようなご機嫌な色彩だ。これだよこれ! とまたしてもうれしくなり、頭の中でパバロッティの『帰れソレントへ』がこだまし始めた。興奮が顔に出ていたのか「あっこちゃん、うれしそうだね」と万央里ちゃんに言われた。

パリ3

盛られた野菜は、ズッキーニ、白いんげん豆、小タマネギ、いんげん、にんじん、なす、ブロッコリー、マッシュルーム、アーティチョーク。
基本的にはグリルかマリネだが、ズッキーニは異なる調理法で3種あり、薄くスライスしてグリルしたものは酢が効いていて、薄い輪切りは揚げてあり、スティック状に切ったものはローストしたうえでマリネしているのか、身の部分に透明感があった。
ナスも揚げてあり、ズッキーニの輪切りと同じように酢を効かせたマリネだが、酸味はとてもソフト。小タマネギもローストしたものをマリネしてあり、この酢は甘みがあった。

一方、アーティチョークはしっかり酸っぱさを感じる酢漬けで、基本的な味付けはほぼ同じながら、味には少しずつ違いがある。上に散らしてあるバジルと、どこかに隠れていたミントが、たまに口の中で爽やかに香りを放ち、全体的に塩気は控えめで野菜の持ち味を生かしたひと皿は、最後、残ったオイルもパンで拭って食べたかったけれど、ピザを2枚注文していたから、がまんした。

パリ4

楽しみにしていたピザも、シンプルで飾り気がなく、期待通りだ。トマト、モッツァレラ、アーティチョーク、豚の肩肉、マッシュルーム、卵と、具材を見るとリッチな印象のアルフレッドだが、全くしつこさはなく、完璧な火の通り加減の卵にナイフを入れた途端、黄身がとろけ出しソースの役割を果たした。マルゲリータは見た目そのままにただただシンプルにおいしい。主張がなくて、全部がまとまっていて、溶け合っていた。

パリ5

私たちがピザを食べ始めるころに子ども4人連れのイタリア人家族が入ってきた。運ばれてきたものを見ると、ポモドーロスパゲティに、ステーキが2枚。すぐにパスタを取り分け子どもたちに与えると、お母さんはステーキを切って子どもたちのパスタの皿に乗せていった。もうお客さんは他にいない、のどかな午後の空気が漂う中、イタリアの食卓を見ているような気分になった。

昔いたオーナーのムッシュは引退して、いまは息子さんの代になったそうだ。この日サービスをしてくれたイタリア人の男性は、もう25年働いていると言っていた。やっぱりイタリアンは、イタリア語のアクセントを聞きながら食べるとおいしい。

パリ6

Alfredo Positano(アルフレッド ポジターノ)
9, rue Guisarde 75006
01 43 26 90 52
12時~14時30分、19時~23時30分
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

初めてなのに懐かしい。ポルトガル料理「Les Comptoirs de Lisbonne」

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