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死ぬこと生きることを人はどう受け入れるのか。映画『ガンジスに還る』

&w(アンド・ダブリュー)編集部がおすすめする、アートや映画の情報を随時ご紹介します!

今回ご紹介するのはこの映画!『ガンジスに還る』

(c)Red Carpet Moving Pictures


(c)Red Carpet Moving Pictures

誰かとシェアして感動を分かち合う、というよりも、自分自身をそっと見つめたくなる。瞑想(めいそう)した後のように穏やかな心を味わえる映画が『ガンジスに還る』だ。脚本も手がけたシュバシシュ・ブティアニ監督が、小津安二郎監督の名作『東京物語』に“多くの影響を受けた”というだけに、共通する静謐(せいひつ)さが満ちている。

ある日、不思議な夢を見たダヤは、ガンジス河ほとりにあるインド・バラナシで死を迎えると、一緒に住む息子家族に宣言する。バラナシは多くの信徒が憧れるヒンドゥー教最大の聖地。

しかし、困ったのは仕事人間の息子のラジーヴだ。明後日にバラナシに行くと言われても、年老いた父親ダヤを遠く離れた聖地へ一人で行かせるわけにはいかない。仕事で厳しい状況にあるラジーヴは必死にダヤを説得するが、断固として決意を曲げない。根負けしたラジーヴはなんとか上司に言い繕って付き添うことにするが……。

(c)Red Carpet Moving Pictures


(c)Red Carpet Moving Pictures

死を身近に感じられない読者の方も、仕事に追われる息子ラジーヴの姿には共感できるところは多いだろう。契約成立の行方が自分自身の肩にかかっている状況で、仕事を放り出せるのか?

ラジーヴにとってみれば、弱っているとはいえ、口が達者でまだ元気な父ダヤのために会社を長期間休むなんてあり得ない。そんな気持ちだから当然、バラナシの施設「解脱の家」に着いても満足げなダヤとは違って、ラジーヴは携帯電話は手放せず、馴染(なじ)もうとしない。

「本当に死ぬのかわからないのに振り回しやがって」「せっかく食事を作ったのに、これがメシか?と食べないなんて」……。口にせずともラジーヴの不平不満が体全体から聞こえてくるようだ。

(c)Red Carpet Moving Pictures


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家父長制で父親に絶対服従してきたと思われるラジーヴは、ダヤと同じ屋根の下に住んでいながら、コミュニケーションの時間はほとんどなかったに違いない。息子は父親に従い、父も息子が従うことが当然だと思っている。そんな二人が普段とはまったく違う時間が流れるような聖地で、少しずつ本音をぶつけ始める。ダヤが高熱で寝込んだ日を境に、互いの心が通い合い始める……。

(c)Red Carpet Moving Pictures


(c)Red Carpet Moving Pictures

誰にでも訪れる死を人はどう受け入れるのか。送り出す者はどう受け入れればいいのか。今すぐに答えを出す必要はないかもしれない。でも、せわしない日々では見つからない答えは、ある。懐深いガンジスの流れに身を委ねたくなる。

『ガンジスに還る』公式サイト

監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ 出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニほか。10月27日から東京・岩波ホールほか全国順次公開 (c)Red Carpet Moving Pictures

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『ガンジスに還る』が気になる方へ、おすすめしたいもう1本!

『ムトゥ 踊るマハラジャ』 (4K&5.1chデジタルリマスター版)

『ガンジスに還る』の静謐さとは一転、日本人にインド娯楽映画を知らしめ、空前のインド映画ブームをもたらした記念碑的作品が『ムトゥ 踊るマハラジャ』だ。DVDで紹介しようと思っていたが、公開20年を記念して4K&5.1chデジタルリマスター版が登場。11月23日から全国で公開されるので、ぜひ映画館での鑑賞をお勧めしたい。

(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.


(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.

主人公のムトゥ(ラジニカーント)は大地主ラージャー(サラット・バーブ)に仕える御者兼用心棒。誠実な人柄は仲間たちからも信頼されていた。ある日、ムトゥはラージャと芝居小屋を訪れるが、ラージャが看板女優のランガナーヤキ(ミーナ)に一目ぼれ。だが、彼女はムトゥに恋してしまい三角関係に。さらに、屋敷を乗っ取ろうとするラージャの叔父にムトゥは追い出されそうになるが……。

(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.


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インド娯楽映画の特徴は何といっても歌と踊り。くるくる変わる派手な衣装とゴージャスな背景は西洋ミュージカルとはまるで別物。観る者を徹底的に楽しませてくれる姿勢が気持ちいい。ヒロイン・ミーナの美貌と肉感的な肢体はあまりに羨ましく目が釘付けに。

(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.


(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.

しかし、何より当時この映画で衝撃を受けたことは、失礼千万ながら主演のラジニカーントがインドのスーパースターだと知ったことだった。「こ、このプヨッとしたオッサンが!?」と、スターに求められる基準の違いに大きなカルチャーショックを受けたことが懐かしい。ともあれ、お色気にアクション、涙に笑いをたっぷり混ぜ込んだカレーなる映画、未体験の方はぜひご賞味あれ。

(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.


(c)1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS PVT LTD. & EDEN ENTERTAINMENT INC.

K.S.ラビクマール 出演:ラジニカーント、ミーナ、サラットバーブ、センシル、バディべールほか。11月23日から新宿ピカデリーほか、全国順次公開。

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