このパンがすごい!

Instagramで世界のトップベイカーと交信して作りあげた最先端ベーカリー誕生/ VANER

サワードウブレッド


サワードウブレッド

「泡のように」。

発酵のとき湧きでた気泡をつぶさないよう生地をやさしく丸めることを説明したVANER・宮脇司ヘッドベイカーの言葉。それはそのまま、サワードウブレッドの舌触りを表していた。

客と話をする宮脇司ヘッドベイカー。作業台が売り場から見えるように設置され、分割や成形を見ることができる


客と話をする宮脇司ヘッドベイカー。作業台が売り場から見えるように設置され、分割や成形を見ることができる

がりっとした皮の感触が歯に響き、焼き込んだパンにしかない強靭な旨味(うまみ)・甘味がくる。そして、中身。繊細に織り成された気泡がもわんと舌に触れ、しっとりとソフトな質感がしゅわんと溶けていく感じは、本当に泡のようだ。旨味の波はじゅるじゅると豊かに舌を浸す。鼻へ抜けていく乳酸菌の甘酸っぱさがたまらず、思わず目を閉じた。

外観


外観

ノルウェーはじめ世界でパンを学んだ宮脇司さんがヘッドベーカーを務める店がオープンした。場所は谷根千。江戸情緒あふれる古民家を改装した商業施設「上野桜木あたり」内。流れだしそうにやわらかい生地を成形する場面を、ガラス越しに見ることができる。

店内風景


店内風景

「気泡をつぶさないように。テクスチャが舌触りになるし、1個1個の気泡に香りが入っている」

ミキサーを使わず手ごねするのは、生地をやわらかく作り、小麦の風味を減殺(げんさい)しないため。そこから常温で4~5時間発酵、さらに成形後は翌朝まで冷蔵庫で熟成。

「小麦が分解され、甘味や酸味、深みに変わる。長時間おくことでサワードウらしくなる」

ノルウェーのオスロ近郊でオーガニック栽培される在来種を石臼挽(ひ)きした全粒粉を使用。皮から新鮮な胚芽(はいが)の香りが放たれているのはそのせいだ。

ノルウェーから輸入された小麦


ノルウェーから輸入された小麦

さまざまな国籍の客がやってきて、いつも英語が飛び交う。目の前でパンを作る宮脇さんとすぐ会話が生まれる。いまなにをしているのか、どんなパンを作っているのか。ときには近所の観光案内まで。宮脇さんはやさしく教えてくれる。

驚くべきことに、本格的にプロとしてパンを焼きはじめてまだ1年。なぜ短期間で技術を習得できたのか? 彼の冒険は、YouTubeでサンフランシスコのタルティーンベーカリーのPVを見たことにはじまる。この動画こそ、同店のフォロワーを全世界に生み、サワードウムーブメントの発火点となったもの。宮脇さんも衝撃を受けてパンを志したが、動画にあるような自由な空気と勤務していた店はあまりにかけ離れていた。

「勤めていたパン屋さんを辞めた午後にスマホでチケットを予約、その日のうちに飛行機に乗って、タルティーンベーカリーに行きました」

そこからノルウェーへ。Instagramで、フォローしていた自宅ベイカー「イレブロ」がオスロに店を開くことを知る。朝一番で駆けつけて第1号の客となり、1週間通いつめ、スタッフになった。

「日本のパン屋さんとはぜんぜんちがってました。遊びとパン作りが直結している。こんなに楽しそうに仕事していいんだ」

朝から晩まで根を詰めて働く日本のパン屋とは大違いのスタイルに驚きつつ、サワードウの技術を学んだ。

冒険はここで終わらない。「日本人がそっちに行くけどいい?」。Instagramでつながるパン職人に、イルブローの店主がメッセージを送ってくれた。ドイツ、ベルギー、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ロンドン、ポーランド、そしてアメリカ。Instagramのメッセージで次から次に紹介してもらいながら世界のベストベイカーを4カ月巡った。

「秘密とかなくて、なんでも教えてくれる。みんな好きでパンを作っている。みんながそれぞれ突き詰めていて、個性があるし、フィロソフィーがある。そういう人たちがインスタを通じて情報交換しあっている。うまくパンが焼けないときも、みんなが教えてくれる。それぞれベストのパンがあって、アプローチもちがうけど、でもぜんぶおいしい。そういう人たちにたくさん出会えたのが収穫でした」

パンは新次元に入った。世界中のあらゆるベイカーがInstagramで自信作をアップし、製法や工夫をコメント。世界中のパン職人が情報交換しあい、協働して、世界全体でレベルアップさせている。秘密主義の個人同士による競争とどっちが早く進歩できるか、結果は明らかだろう。

宮脇司ヘッドベイカーがリスペクトする、世界のパン職人たちの本


宮脇司ヘッドベイカーがリスペクトする、世界のパン職人たちの本

特にベルギーの女性パン職人の言葉は、宮脇さんの背中を力強く押した。

「私たちはみんな大きなパン屋家族(ベイキングファミリー)だから、私がわかることはぜんぶ教えてあげる」

最後に、カルダモンロールを紹介したい。シェフがスウェーデンで出会った、サワードウを派生させたカネルブッレ(シナモンロール)の系譜に属する。香りにくらくら。北欧の森に立ち込めるような神秘的なカルダモンの香りが、麦の焼き込んだ香ばしさとマリアージュしている。中身は泡のようにもっちりとして溶け、バターの甘い風味が湧きあがると、カルダモンとのあいだで2度目のマリアージュが立ち上がる。

今後も世界で出会ったおいしいパンをぞくぞくと紹介していきたいと宮脇さんは言う。彼はInstagram時代の新しいパン職人であり、VANERは世界に開かれた窓だ。

店内風景


店内風景

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■VANER(ヴァーネル)
東京都台東区上野桜木2−15−6 上野桜木あたり2
9:00~18:00
月火休み
https://www.facebook.com/vanertokyo/
https://twitter.com/VanerTokyo
https://www.instagram.com/vanertokyo/

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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