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<102>レトロなゲームで時を忘れて 「ヨミヤスミ」

京王相模原線の京王多摩川駅から徒歩6分の住宅街にたたずむ茶色い建物。その一角の小さなお店「BookCafe ヨミヤスミ」は、近所に住んでいる人以外にとっては、たまたま通りかかるようなところではなく、むしろ、わざわざ目指して訪れるような立地だ。緑色のドアをあけると、木をふんだんに使ったぬくもりのある店内で、青い天井がアクセントになっている。入り口の真正面には壁一面の本棚。人の目線が一番集まる場所に鎮座しているのはゲームブックだ。

1980~90年代に数多く出版されたゲームブックをご存じだろうか? 一見すると文庫や単行本の小説のようだが、本文を開くと数百もの段落に細かく番号が振られている。読み進めるうちに読み手自身が主人公の行動を選択する場面が幾度となく出て来て、どの選択肢を選ぶかによって物語はさまざまに展開。グッドエンド、バッドエンドと複数の結末が用意されている、ロールプレイングゲームのアナログ版といったところだ。

店内でゲームを楽しみたい人のために、店ではプレイに必要な記録用紙や筆記用具、サイコロも貸し出している。ほかにも、昔なつかしいパソコン雑誌の数々やサブカルチャー系の雑誌、マンガ、星新一のショートショートなど、男女を問わずちょっと手にとってみたくなる本や雑誌が揃(そろ)っている。

「店としての個性をどう出すかを考えた時に、自分が好きだったゲームブックやレトロボードゲームを活(い)かそうと考えました」

そう話すのはオーナーの桜井俊宏さん(47)。19歳からコンピューター系の編集者として働き始め、2017年5月にこの店をはじめてからも、二足のわらじ状態で編集者とカフェオーナーを務めている。

桜井さんが外部編集者として長く携わっていたのが、老舗パソコン雑誌の週刊アスキー。しかし、2015年に電子書籍版へとリニューアル。関わっていた連載の業務はリニューアル後も継続していたものの、今後の仕事について見直す機会となった。そして新たなことを始めるにしてもそろそろラストチャンスと思った桜井さんは、これを機に以前からやりたいと思っていたブックカフェ経営を実行に移すことにした。

「本当は古本屋にあこがれていたのですが、本だけを売り続けるのは難しい。ブックカフェなら飲食もできるし、調布にはあまりなかったというのもいいかなと思って」

自宅にほど近い場所で、今の物件に出合って一目ぼれ。ちょうど所有していたマンションを売却したお金があり、それを初期費用に当てた。40代半ばで借金を背負ってまで店を始めるのはハードルが高い。仕事を見直そうと思った時に、たまたま資金があったというのは、いいタイミングだったのかもしれない。

編集の仕事が忙しい時は店を休む、不定休というスタイルで店を切り盛りする日々が始まった。店が営業しているかどうかは、毎日、店のサイトとフェイスブックで発信している。

「店一本では到底回せていけなかったと思うので、連載の仕事が続いていてくれたことは本当によかった」

店内ではWi-Fiが自由に使え、カウンター席には電源を設置。勉強をする学生や、仕事をする社会人が時折利用するが、桜井さん自身も編集の仕事をするためのセカンドオフィスとしてこの場所を活用している。

店がオープンして1年半が過ぎ、「お客さんはちょっとずつ増えている」とのこと。近所の人が店の存在を知ってリピーターになったり、ネットで見つけてわざわざ来てくれる人がいたり、週刊アスキーの読者が訪問することもあるという。もちろん、店イチオシのゲームブック目当ての客もいる。毎月1~2回、営業終了後の店内でレトロボードゲームを楽しむイベントも開催しており、こちらも店を知ってもらうきっかけとなっている。

「そこそこでいいので長く続けるのが目標。店の存在をちょっとずつ知っていってもらうしかない。いずれはこの店だけで回せていけるようになればいいですね」

編集者とブックカフェオーナーという二つの顔と居場所ができたことを、桜井さん自身が一番楽しんでいるようだ。

「店は自分にとって居心地のいい空間にしています。自由にできるし、誰にも怒られることもない。新しいメニューを考えたり、本棚の本を入れ替えたり。一気にいろんなことをやるとテンパってしまうので、できることからこつこつやってます」

オーナーがのびのびと創り出した小さな店は、訪れた人にとっても心地よい空間として形成されつつある。

おすすめの3冊


おすすめの3冊

■おすすめの3冊

『アドベンチャーゲームブック バルサスの要塞(ようさい)』(著/スティーブ・ジャクソン、訳/浅羽莢子)
イギリスのゲームブックの日本語翻訳版。妖怪が跋扈(ばっこ)するファンタジー世界で、次々と押し寄せる危機を魔法などで乗り越えていく冒険物語。「はじめてやったゲームブックがこれ。シリーズ2作目なんですけど、とても印象的で、完成度も高かったんです。もちろんお店でプレイできますよ!」

『ワンダーJAPAN』(三才ブックス)
2005年に創刊された雑誌。「日本の《異空間》探険マガジン」がコンセプトで、巨大建造物、B級グルメ、工場、廃虚など、独自の視点でさまざまな特集を組んでいた。全20号で休刊。「変な場所がすごく好きで、そういったところがこの雑誌では毎回さまざまなテーマで一冊にまとまっています。編集者のこだわりが強く、デザイン的にもかっこいい。全20冊揃えています!」

『藤子・F・不二雄大全集 モジャ公』(著/藤子・F・不二雄)
ある日突然、空夫のもとにやって来たのは宇宙人のモジャ公と、ロボットのドンモ。2人と一緒に”宇宙へ家出”した空夫は――。「藤子・F・不二雄先生の作品が大好きで、中でも一番好きなのがこれ。人間と宇宙人とロボットという奇妙な組み合わせで、宇宙旅行をするあこがれの世界です。本当に面白いのでぜひ!!」
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BookCafeヨミヤスミ
東京都調布市多摩川3-68-1

写真 山本倫子

https://yomiyasumi.tumblr.com/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。

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