東京ではたらく

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

職業:骨盤ケアセラピスト
勤務地:東京都板橋区
仕事歴:4年目
勤務時間:フレックス制
休日:日曜

この仕事の面白いところ:いつも赤ちゃんに会えるところ
この仕事の大変なところ:スタッフ全員がママさんなので、スタッフ繰りが大変です

東京の板橋区で託児所付きの骨盤ケアサロンを経営しています。お客様のほとんどは女性で、主に産後の骨盤の歪(ゆが)みや腰痛などにお悩みの方々。赤ちゃんのお世話をしながらでも気軽にお出かけいただけるように託児所を設け、施術中は専門の保育スタッフがお子さんをケア。ママさんたちに優しいサロンを目指して活動しています。

いわばママさんに特化したサロンというわけですが、実はお客様だけでなく、私と12人いるスタッフ全員が育児中のママ。みんな妊娠・出産を経験しているので、産後の体の悩みはもちろん、育児にまつわる相談や葛藤など、心の面でもお客様に寄り添えたらと思っています。

骨盤ケアに出会ったのは、初めての出産を終えた後でした。産後の骨盤の歪みと日々の育児による腰痛に悩まされ、これはもう限界と、すがるような思いで骨盤ケアサロンに駆け込みました。

施術後は体がすごく楽になったのですが、それ以上に驚いたのが、気持ちが軽くなるというか、前向きな気分になれたことでした。育児は日々体力勝負。体の痛みがあると気持ちも暗くなってしまうんだなということに気づかされました。同時に「これはママさんたちに絶対必要なサービスだ!」と確信しました。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

サロン内は明るい雰囲気。1Fに託児所、2Fに施術室があり、子連れでも静かでリラックスした時間を持てる

とはいえ、やっぱり小さな子どもがいますから、気軽に整体に通うということはなかなかできません。私もそうでしたが、働きながら子育てをしているワーキングママさんになると、自分のための時間を確保するのは至難の業です。「子連れで行けるサロンがあればいいのになあ……」。当時はいち利用者として漠然とそんな風に感じていました。

転機となったのは2人目の子どもを出産したことでした。私は高校卒業後、化粧品関係の仕事に就き、主にドラッグストアなどで美容部員をしていました。お客様に化粧品をおすすめしたり、使い方をご説明する仕事です。

もともとメイクが好きだったので仕事は楽しく、バリバリ働いているうちに20代でマネジャーを任されるようになりました。それまではただ接客するのが楽しいという気持ちで仕事をしていたのですが、次第に後輩が増え、スタッフを管理する立場に。

そんなタイミングで2人目の出産を迎えることになったのですが、1人目の出産時とはやっぱり職場の空気も私自身の心境も違っていて。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

サロンまでは電動自転車で出勤。「自転車通勤のママさんはすごく多いですよ。前と後ろにお子さんを乗せて来るスタッフも。みんなパワフルです!」

例えば子どもが保育園で熱を出した時、やむを得ず早めに仕事を切り上げてお迎えにいくわけですけれど、スタッフの中には「なんで三浦さんだけ……」と思う人も当然います。事情はわかっていても、忙しい時間帯だったりすると、そういう気持ちになっても仕方ないですよね。

私の場合は運よく2人の子どもを保育園に預けることができましたが、それでも以前より働く時間は短くなりました。遅くとも夕方にはお迎えにいかなくてはいけないのですが、ドラッグストアの化粧品売り場というのは夜が一番売り上げが伸びるんです。会社帰りの女性がメインの顧客なので。

でも、私はその肝心な時間帯に売り場にいられないわけです。マネジャーという立場上、一番売り上げを気にしなくてはいけないのにそれができない。「もっと働きたい、売り上げに貢献したい!」。そう思えば思うほどジレンマが大きくなって、次第に「いつまでこんなことが続くんだろう……、もうこの仕事は無理かもしれないな」と思うようになりました。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

施術室とはうって変わって、可愛らしい雰囲気の託児スペース。テレビやおもちゃもたくさんあって、子どもを飽きさせない。「保育スタッフも全員ママさんなので、お客様も安心して預けてくださるんです」

そんな時に思い出したのが、以前受けた骨盤ケアのこと。育児中、つらい体の悩みを解消してくれた救世主のような存在です。あの時、漠然と抱いていた「子連れでも気軽に行けるサロンがあったらなあ……」という気持ちも思い出されて、「それなら託児所付きのサロンを自分で作ってしまおう!」と思い立ちました。

まずは産前産後の整体を学べるスクールに1年ほど通い、認定を取ってからは自宅で一人、こぢんまりとサロンを開きました。幸いにも地元の口コミで徐々にお客さんが増え、2年後にはスタッフを増やせる余裕も出てきました。そこで現在の一軒家サロンをオープンすることにしました。

施術スタッフと保育スタッフ、どちらもママさんを採用しようと思ったのは、やっぱり前職で痛感した「子どもを持つ女性の働きづらさ」がありました。さらに、サロンでママさんたちの施術をしていると、「今は専業主婦だけど、チャンスがあれば働きたい」という声をたくさん聞くんですね。

私はずっと働いてきたので、周囲に専業主婦の知り合いはあまり多くなかったんです。それもあって、「働いていないママさんたちは子育てを満喫しているんだ」と思い込んでいたところもあって。サロンでママさんたちの生の声を聴いて初めて、彼女たちが何かしらの形で社会とのつながりを持ちたいと考えていることを知ったんです。

「ママだって仕事がしたい!」 新しい女性の働き方を探して

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

施術をしながらお互いの育児の悩みや、子育てにまつわる情報を交換する三浦さん。「ご近所の方が多いので、どこの病院がいいよとか、ローカルな話題でも盛り上がります」

現在、板橋と恵比寿にある二つのサロンで働くスタッフ12名は全員が育児中のママさんたちです。中には保育園に子どもを預けられない人もいて、子連れで出勤するスタッフもいます。フルタイムで働く人もいれば、育児の合間に短時間だけ勤務する人もいて、勤務時間はそれぞれです。

私を含め、みんなが子育ての大変さをよくわかっているので、「熱が出た!」「急にインフルエンザになった!」みたいな緊急事態にも「じゃあ代わりに私が行くよ」など、臨機応変に対応してくれます。

とはいえ、特定のスタッフに負担がかかったり、あまりにも身勝手な振る舞いがあったりしてはチームとして成り立ちません。「母親同士、持ちつ持たれつだよね」というせっかくの助け合いの気持ちが悪い方向へ行ってしまわないよう注意を払うことはとても大切です。

では、そうならないためにどうしたらいいか。常に心に留めているのは、日々のコミュケーションです。「え、そんな些細(ささい)なことで職場の人間関係がうまくいくの?」と聞かれることもあるのですが、その「些細なこと」がなかなかできないんですよね。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

スタッフとの連絡やスケジュール管理はスマートフォンで。「育児と両立するにはとにかく手軽さが命なので。スタッフとの連絡も基本はLINEやショートメールです」

例えば、誰かに何かの仕事を頼む時。「これ、やっておいてね」と頼めば早いかもしれませんが、そこに「なぜ今この仕事が必要か。なぜあなたに頼みたいか」、それをきちんと説明するだけで、仕事を頼まれた人のモチベーションは高くなると思うんです。

あるいは子どもが急に熱を出してシフトを代わってもらわなければならない時。ママさんだけの職場ではよくあることで、みんな慣れっこなんですけど、そうするとだんだん「助かるわ、ありがとう!」の言葉が省略されることも増えたりして。

でもその感謝の一言があるかないかで、人の気持ちって大きく左右されるんですよね。もちろん、私からも代わってくれたスタッフへの感謝の言葉は忘れません。これは何もママさんだけの職場だからというわけではないと思います。

例えば私の前の職場の場合は、時短で働く子持ちの私とフルタイムで働く独身の女性スタッフがいました。早く帰る私の仕事のしわ寄せがどうしても他のスタッフにいってしまうのですが、そんな場面で上司から「三浦さんは子どもがいるんだから仕方ないだろう」と言われたら、誰だってムッとしますよね。「好きで子どもを産んだくせに! って」(笑)。こういうことはどこの会社でも多かれ少なかれあることだと思います。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

新しい目標を次々と話してくれる三浦さん。「ママたちの働きたいという意欲をどうにかして社会に届けたい!」。その一心で新しい事業の準備を進めている

でももしその時、上司が「悪いんだけどお願いね、ありがとう」と一言声をかけてくれたらどうでしょう。きっと少しは気分がよくなって、「じゃあ頑張ろうかな」という前向きな気持ちになれるような気がするんです。

私も含めて女性というのは「気持ち」とか「気分」にモチベーションが左右されることが多いように感じるので、そういう日々のコミュニケーションの積み重ねがやっぱり大切だなと思いますし、スタッフ同士でも実践しています。何より「ありがとう!」と素直に言い合える職場は気持ちがいいですしね。

「わざわざママさんを雇わなくても、フルタイムで働ける人を雇ったほうが楽なのでは?」というご意見もあるかもしれませんが、ママさんたちと働くことで勉強になることや喜びもたくさんあります。

私自身も現在3人の子育て中なので、スタッフに助けてもうことがたくさんありますし、何より施術するスタッフも保育スタッフもママさんということで、お子さん連れのお客様がとても安心してくれるんです。

一番うれしいのは、「体も楽になったけど、同じママさんであるスタッフさんに育児の悩みを聞いてもらったり、情報交換ができたりしてよかった。気持ちもすごく軽くなりました」と言っていただくこと。体をメンテナンスしてくれるサロンはたくさんありますが、心もケアできるのはやっぱり子育ての大変さを共有できるママさんスタッフならではだと思うので。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

サロンではオリジナルのボディケアローションも販売している。低刺激の赤ちゃん用も

もう一つ、私にとってこの仕事の大きなやりがいは、それまで子育てが中心だったママさんたちが仕事をすることで、「自分にもできることがある」「ママでもやりたいことをやっていこう!」と思ってくれることです。

実際、サロンで初めて施術という仕事を経験し、それから新たな目標を見つけて別業界に就職していったスタッフもいます。せっかく育てたスタッフを失うのは痛手ですし、寂しい気持ちもありますが、転職する時に「ここで働けてよかった」と言ってもらえると、私も「ああ、やっぱりこの仕事を始めてよかったな」と心から思えるんです。

今後の目標はサロンを経営しつつも、「働きたい!」というママさんたちをサポートできる何か別の事業を立ち上げることです。

現在、思いを同じくする仲間と一般社団法人の設立準備をしていて、働いた経験があまりないママさん向けにセミナーを開いたり、「ママさんを採用したいけど、どういう働き方ができるのか?」あるいは「どう教育したらいいのだろう?」と躊躇(ちゅうちょ)している企業向けに情報を発信したりするサービスができたらと考えています。

骨盤ケアセラピスト:三浦沙矢香さん(34歳)

◎仕事の必需品 「保育園の送り迎えや出勤など、移動はもっぱら電動自転車。これがないと仕事になりません(笑)。電動なので、2人の子どもを乗せてもスイスイ走れるんです」

さらに、働きたいママさんと採用したい側の企業をマッチングできるような仕組みを作れたら最高だなとも考えています。それもやっぱり、前職を辞めてから今の仕事を軌道に乗せるまで、戸惑ったり、苦労した自分の経験があるから。あの時欲しかった「ママさんと社会をつなぐ架け橋」に自分がなりたいんです。

東京で子育てをしていると、親も親戚もそばにいなくて、孤独な子育てをしているママさんたちにたくさん出会います。意欲があっても社会とつながれないなんてもったいない。せっかく東京という可能性に満ちた街に暮らしているのだから、もっともっと外に出て、チャレンジしてみよう。そんなメッセージをひとりでも多くのママさんたちに伝えて、応援していくのがこれからの大きな目標です。

女性も男性も、子どもがいる人もいない人も、適材適所で能力を発揮できるようになれば、きっと社会はもっと豊かになると思います。少しずつかもしれませんが、そんな社会の変化を後押しできるように、私ももっともっとパワフルに動いていきたいなと思っているんです。

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。

ウェディングプランナー:宇田彩乃さん(30歳)

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器作家:田中優佳子さん(43歳)

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