花のない花屋

流産、離婚、手術、再婚……。人生を支えてくれた音楽とおばに感謝

  

〈依頼人プロフィール〉
丸山奈美さん(仮名) 36歳 女性
東京都在住
教師

音大に入り、何ひとつ不自由なく生きてきた20代の頃は、必死に努力さえすればかなえられないことはないと思っていました。でも、就職して結婚した30代、まさか自分の身にふりかかるとは思ってもみなかった出来事がたくさん起こりました。結婚後の流産、その後の離婚、2度の開腹手術、そして再婚……。すべて想像さえしなかった出来事でした。

中でも一番苦しかったのは離婚です。まわりにも心配され、自分でも「私、大丈夫かな?」と思う時期がありました。悩み、苦しみ、いろいろな感情に押しつぶされそうな絶望の淵にあったとき……どうにもならなかった私を救ってくれたのが、音楽でした。

仕事が終わって家に帰ると、私はピアノに向かい、1人静かに自分の感情をピアノにのせました。泣いてもおさまらない気持ちが、ピアノを弾くことで不思議と整理され、落ちついていきました。音楽という大きな宝物はこんなにも私の人生を力強く支えてくれるものなのか、とこのとき思い知らされました。

そんな“宝物”を私に授けてくれたのがおばです。今音楽を教えている私があるのは、幼い頃ピアノ教師だった伯母がピアノを手ほどきしてくれたから。5歳の頃から週1回、他の生徒が帰った夜10時頃からレッスンをしてくれました。さらに音大時代は経済的な援助までしてくれ、何不自由ない学生生活を送ることができました。おばには本当に心から感謝しています。

そんな伯母はいま70歳。2年前には脳梗塞を患い、この夏には母(私にとっての祖母)を亡くしました。郷里に帰るたびに疲れ果てた姿を目にしていて心が痛みます……。

そこで、大好きなおばにこれまでの感謝を込めて、少しでも心休まるやさしい花束を作っていただけないでしょうか。おばはピアノ教師で、華道や茶道、香道、舞台芸術などが趣味です。紫色が好きなので、やわらかい紫色やピンクをポイントにゴージャスかつ、心休まる花束を作ってもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

ご本人の様々な苦難を乗り越える力となった「音楽」を教えてくれたおば様へ。

「紫とピンクを中心に、ゴージャスかつ心休まるもの」、ということでしたので、ダリア、カラー、エピデンドラム、リンドウ、ケイトウ、トルコキキョウ、ガーベラ、カーネーションで作りました。立体感があり、うまくグルーピングすることで、どの角度から見てもインパクトある花束にしました。

いわゆる花らしい花ですね。お花の面積を意識的に大きくしましたので、ゴージャスであり感謝の気持ちを乗せました。

花を介して会話する2人の姿を想像しながら作りました。
  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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