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違和感をおぼえる方のための『不道徳お母さん講座』

ほんや1126

撮影/馬場磨貴

まずは「不道徳お母さん……」のタイトルに共鳴した。
なんと著者は「女の子は本当にピンクが好きなのか」(Pヴァイン)の堀越英美さんであった。私自身、副題にある「母性」と「自己犠牲」に何か違和感をおぼえていたため、これは絶対読むべき本と思い手にとった。

読み始め、良い意味で裏切られた。「感動する世の中」へのツッコミ、それについていかれない不道徳なる私たちを肯定してくれるものと期待してページをめくったが、誰もが記憶にある「ごんぎつねの授業」のくだりから始まる。何故あんなに毎時間「ごんの気持ち」について考えなければならなかったのか、自分のごんぎつね時代にタイムスリップした。先日、小学校の同窓会があり先生方も来られた。その中の一人の先生が当時学芸会で演じた「ごんぎつね」をもう一度皆の前で披露してくれたことを思い出した。

外国語の授業導入やプログラミング教育と一緒に道徳の教科化が決まったという。教科化ということは教科書ができるのか、成績がつくのか……。子どもの古い成績表を引っ張り出してみた。道徳の評価欄は確かにない。「国語という教科の目的は、広い意味での道徳教育なのである」(国語教科書の思想/石原千秋)。本書の中ではたくさんの参考図書が引用されている。それは相当な取材量であり、明治・大正時代からの児童文学の検証から始まる。

かつて小説は不道徳とされていた時代から現代の読み聞かせに至るまで、いかにして「道徳心」が植えつけられてきたのか。それはとても長いページにわたり時折まぶたをしばたたいたが、所々に出てくる著者の毒舌に思わず噴き出した。

「母性」と「自己犠牲」

子育てをしながら数々の違和感を抱くことがあった。例えば、小学校低学年時代に週末だけ出される日記の宿題。幼いが故、赤裸々に書かれる内容にヒヤヒヤしたことを記憶している。当時は文章力を養うため仕方ないと思っていたが、これは学校側が家庭内の様子をうかがい知るためであった。

人並みにPTAも経験した。ベルマーク収集や誰も読まない公報誌作り、ペットボトル時代のお茶くみなど保護者から個を消すための装置であったという(204ページより抜粋)。もちろん、その中には人との出会いや感動は皆無ではなかったので全ては否定しないけれど、誰のための活動なのか途中で分からなくなった。

『不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』堀越英美 著 河出書房新社 1674円(税込み)

『不道徳お母さん講座: 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』堀越英美 著 河出書房新社 1674円(税込み)

これを日本人の美徳とするのも分からなくはない。と、思うのは私も刷り込まれているからなのか定かではないが、実際に長女の運動会で「巨大ピラミッド」に目頭が熱くなったのを覚えている。ちなみに次女は中規模のピラミッドが三つ出来ていたが、それも感動した。結論、親はピラミッドが一段でも二段でもうれしいものなのだ。著者の言う通り100人以上で巨大なものを耐えて作る必要などない。それに気づくべきであった。
「1/2成人式」なるものも、日本にはお食い初めや七五三など成長を祝う行事があるのに何故必要なのか疑問であった。これに感動しない母親は自分だけだと思っていた。

そんな自分に罪悪感を少々抱いていたが、この本に救われた。そして改めて日本の歴史を学び戦後は続いていると感じた。性別に関わらず、母親であるかどうかに限らず、ぜひ色々な方におすすめしたい1冊である。

おわりに、「自己犠牲を賛美し理不尽を耐えれば耐えるほどエライという価値観から脱するべきなのだ」(240ページより)とある。ここまで書いてくださった著者には脱帽する。
私も「涙はもっと哀しい瞬間にとっておきたい世代」(191ページより)である。

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)/松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/重野 功(旅行)/羽根志美(アウトドア)
八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)

岩佐さかえ(いわさ・さかえ)

女性向けフィットネスジムにて健康・美容相談を受けながら、様々なイベントやフェアを企画。自身がそうであったように、書籍を通して要望にお応えできたらと思い、蔦屋家電のBOOKコンシェルジュに。
「心と体の健康=美」をモットーに勉強の日々。

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