このパンがすごい!

「はやりの小さなパンの真逆を(笑)」豪快に笑う店主のパン/ベーカリーミウラ

飛田憲彦シェフ


飛田憲彦シェフ

一抱えもあるでっかいパンを焼き、がははと笑う豪快なパン屋が根津にいる。ベーカリーミウラは1年前、逗子から移転してきた。

「一度は東京で勝負したい」

満を持して。飛田憲彦シェフは「三種の神器」を持っている。パン屋なら誰しも持っているものだが、彼はそれらのエッジを研ぎ澄ませた。

外観


外観

一つ目は「発酵種」(いわゆる天然酵母)。発酵種専門店の草分けであるルヴァン(渋谷区富ケ谷)出身である飛田さんの必殺技はミルク種。驚いたのだが、牛乳でも種を作ることができる。自然な酪農とパスチャライゼーション(細菌学者パスツールが発明した減菌法)で作られる木次牛乳を発酵させ、食パンの種にする。

角食パン


角食パン

「角食パン」から湧き立つミルキーな甘さ。単に牛乳を配合した食パンとはちがって、牧場で飲む牛乳の香りに似ていた。ただ甘いだけではなく、草の香りや、発酵の香りを含んで、生き生きとしている。噛(か)めばもっちりとして、歯にねっちりとまとわりつく。ダマになっているのではなく、じゃれつく猫のように快い。ミルキーさとじわじわとした酸味。とろけてミルクを飲んだみたいになる。そして、皮にあるコクに満ちた香ばしさ。食パンの型に、高価な木次バターを塗って焼く。

「食パンの表面がバターのよろいをまとうから、しっとりするんです」

「コーンチーズパン」は、この世の心地よき甘さの食材を総集めしたようなパンだ。とろーんとチーズがとろけ、北海道産小麦ももちっとしてミルキーな味わいを持つ。さらに、中に混ぜ込まれたコーン。ぷちぷち噛むたびに甘き汁をぴゅっぴゅと飛び散らせる。

ライ麦カンパーニュ、バタール、バゲット


ライ麦カンパーニュ(左奥)、バタール、バゲット

二つ目の神器は「オーブン」。通常、パン屋で使うオーブンは、温度調整をデジタルでできる電気が多いが、この店には2台のガスオーブンが鎮座する。これを導入するために、店舗の床をはがして、太いガス管を通したのだという。

「僕はガスオーブンでやりたい。水分が抜ける前に焼けるから、水分が残って、喉越(のどご)しがいい。パンの半分は水でできている。短時間焼成でその水を逃さない」

ガスならではの熱量の大きさが、しっとり軽やかなパンを生む。たとえば、「ぶどうとクルミ」。もっちりしているものは食べ口が重く、ふわふわしているものは軽くて味が薄い。そんなパンの不文律を、「ぶどうとクルミ」は飛び越す。もっちりしているのに、軽やか。軽いのに、味わいに厚みがある。レーズンの酸味と種の酸味、くるみの旨味(うまみ)と小麦の旨味が響き合う。

軽さと重さの価値転換は、「リュスティック」でさらに顕著だ。紙のように薄い皮。でも噛めば噛むほどするめのごとく香ばしく、おもちのような旨味がじゅるじゅるとちょちょぎれる。気泡の大きめな中身はもっちりとし、しかもエアリーという二律背反を生きる。

ライ麦カンパーニュ、角食パン


ライ麦カンパーニュ、角食パン

三つ目の神器は「石臼」。小麦を粒の状態から自家製粉する。だから、香りはフレッシュで全粒粉でも食べやすい。「ライ麦カンパーニュ」を食べると、ゴマに似たなつかしい香りが鼻を抜けた。すべての種に使用される、栃木県・上野長一さんの自然栽培小麦に加え、ドイツ産の有機ライ麦も前日に自家製粉、配合される。華やかに広がる酸味、おだやかな甘さ。がつんとしたコクではなく、しっとり感とあいまって、喉越しのよさやむしゃむしゃいける感を特徴とする。

このライ麦カンパーニュ、どかーんとマグナムサイズで焼かれ、量り売りされる。

「大きく焼いたほうが絶対おいしい。しっとり感が出ますから。いまはちっちゃいパンがはやってるのに、正反対をいってる(笑)」

巨大バヌトン(発酵かご)も特注。「1個8万円します」と言って、飛田さんはがははと笑う。種のうまさ、小麦のフレッシュさ、でっかい生地をがつんと焼き上げるガス窯のパワーがあいまって、ライ麦カンパーニュのおいしさは生まれる。

ベーカリーミウラと店をシェアする平澤剛生花店


ベーカリーミウラと店をシェアする平澤剛生花店

パン売り場の隣には花屋。「平澤剛生花店」と一軒の店舗をシェアしている。パンを買い、ついでにうつくしい花を買って、日常は彩られる。カウンターでは、パンといっしょに、コーヒーや生ビールも味わえる。三つどころか、四つも五つも得意技を持つ、楽しい店だ。

>>続きはこちら

■ベーカリーミウラ
東京都文京区千駄木2-2-15原野ビル1F
03-5834-8972
8:00~18:00
月曜火曜水曜休み

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

日本そば屋の前に「有機パン」の看板!! 売り切れ必至の食パン専門店 /パン工房アンペル

トップへ戻る

元寿司職人のサンドイッチ屋、新店はカンパーニュサンドで勝負/CAMELBACK RICH VALLEY

RECOMMENDおすすめの記事

Recommended by Outbrain