花のない花屋

<292>「季節のお花を楽しむ」習慣を教えてくれたおじいちゃんへ花束を

  

〈依頼人プロフィール〉
磯島ゆみさん 33歳 女性
岡山県在住
会社員

今年の9月、大好きだった祖父が96歳で亡くなりました。両親が自営業を営んでいたこともあり、私は祖父母と一緒に2世帯住宅で育ち、さらに初孫だったことから、たくさんの時間を近くで過ごしてきました。

祖父は人付き合いが苦手な、大人からみるとちょっと変わった人のようでしたが、孫たちにはやさしく、私たちはよくおじいちゃんの部屋に代わる代わる遊びに行っていました。

おじいちゃんは、現役時代は高校の数学の先生をしており、引退後は家で近所の高校生たちに数学を教える塾を開いていました。私も中高時代に数学を教えてもらっていましたが、あまりにもできなかったので、おじいちゃんはこらえきれずに先に答えを言ってしまったり……。それでも怒ったりすることは決してなく、いつもやさしかったのを覚えています。

祖父母と一緒に時間を過ごす中で、今も私の中に息づいているのは「季節のお花を楽しむ」という習慣です。記憶にないほど幼い頃から、四季折々のお花を見るために、二人はいつも私をドライブに連れて行ってくれていました。おじいちゃんの部屋には地域別花図鑑のようなものがあり、いつもそれを見て、次の旅行先を決めていたようです。芝桜、チューリップ、コスモス……後から写真を見て、「こんなところ、あんなところにも連れて行ってもらったんだ」と知ることも多々。大人になった今、花を見ると「ああ、こういう季節がきたなあ……」と思うのは、あの頃の感覚が染み付いているからだと思います。

今年の9月上旬、おじいちゃんをお見舞いに行き、「もう少し涼しくなったらコスモスを見に行こうよ。私が運転して連れて行ってあげるから」と言った私に、「見に行けるとしたら、そんなうれしいことはない」と答えたおじいちゃん。その会話以降、日に日に体力がなくなり、外出することもできないまま、10日後に天国へ旅立ちました。

私がお花好きになったのはおじいちゃんのお陰だよ、と伝えておけばよかった。おじいちゃんの感性が私の中にも息づいているよ……と言っておけばよかった。今になってそう後悔しています。そこで、そんな気持ちを込めておじいちゃんに花束を造っていただけないでしょうか。

ちょうど紅葉の時期におじいちゃんはチューリップの球根をうえ、寒い冬の間から私たちは春の開花を待っていました。チューリップを見るとそんなおじいちゃんとの時間を思い出します。難しいかもしれませんが、もしできたらチューリップをアレンジに加えてもらえるとうれしいです。また、研究者肌で、好奇心旺盛なおじいちゃんは珍しいものも大好き。見たことのないようなお花も入れてもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東さんのコメント

応募者のお孫さんの優しそうな雰囲気を投影し、学校の先生だったおじいさんの厳格な姿勢を想像しながら作りました。

使用した花はチューリップ、ヒペリカム、コスモス、トルコキキョウ、シレネ、ポリシャス。規則正しく全体を整えつつ、チューリップやコスモスで色合いに変化を入れ、秋っぽい紫も添えました。シックで落ち着いたトーンは、おじいさんそのものではないでしょうか。

今の時代、上の世代から花を教わる機会が少なくなりつつあります。
ですが、花は人間を媒介するもので、花を知ることで命を学んだり、季節を理解することができます。
おじいさんのように、子供、孫といった次世代に、花の魅力を伝えることは非常に大切なことではないでしょうか。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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<291>流産、離婚、手術、再婚……。人生を支えてくれた音楽とおばに感謝

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