このパンがすごい!

【パンと絶景】和歌山の絶景「橋杭岩」を見ながら食べる本州最南端のパン/nagi

【パンと絶景】和歌山の絶景「橋杭岩」を見ながら食べる本州最南端のパン/nagi

nagiのパンと橋杭岩

 南紀の海岸線は絶景の連続だ。特急電車の大きな窓いっぱいに、青い海がまばゆくひろがって、海岸の岩に波がくだけている。大阪から南下すること3時間。紀伊半島の先端、串本町に着く。本州最南端。初冬なのに、南国を思わせる陽光がふりそそいでいた。

【パンと絶景】和歌山の絶景「橋杭岩」を見ながら食べる本州最南端のパン/nagi

外観

 潮風に吹かれながら車を走らせ、海に雄大なアーチをかけるくしもと大橋をわたると、うっそうとした自然林を切り開いたところにあらわれる木造の店舗。こんなところに。このおしゃれさ、このパン。東京や関西の一流店と時差はない……どころか、先をいっている。

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湯種食パン

 店に入った瞬間、私の目を奪った「湯種食パン」。濃厚な焼き色が南紀の太陽のようにぎらぎらとオーラをはなっていた。

 長い熟成と窯の熱が作り出す究極。むんむんとただよいだす香りのあまりの濃厚さ。前歯で噛(か)めばすぱっと切れ、奥歯で噛めばぷにぷにになる。さわさわと舌に触れてすばらしい速度でじゅわーっと溶ける。国産小麦のすばらしい甘さと、お米のようなでんぷん質のフレーバーとの混ざり合いこそ楽園。

 なぜこのようなパンが可能なのか?山本一喜シェフの情熱は、常識を超えた製法を選択した。湯種(小麦粉と熱湯をあわせた種)を多めに入れ、微量のパン酵母で一晩熟成。あまりにもやわらかすぎて、普通の焼き方では、形を保てない。低めの温度でなんと70分間。一般的な食パンの倍の時間をかけて焼きあげ、厚い皮を作って要塞(ようさい)を築く。その副産物こそ、あの濃厚な香ばしさなのだ。

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ブリオッシュ・ナンテール

「ブリオッシュ・ナンテール」は、ファーストインプレッションで衝撃が走った。毛足の長い絨毯(じゅうたん)を踏むようなふにっとした感触。バターと卵と小麦が織りなす甘さが、アーモンドペーストを入れていないか?というぐらいエロチック。滋賀県「大地堂」が栽培するディンケル(古代小麦)の全粒粉がナッティな風味を発散しているのだ。かすかな酸味、奥深さを付け加える、自家培養ぶどう種。白さ、純粋さが求められるブリオッシュを、全粒粉(これを入れるアイデアは、大阪の人気ベーカリー「パンデュース」の米山雅彦シェフによる)、自家培養種で作りあげる製法が常識破りの逸品を生んだ。

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山本一喜シェフ

 こんな技術と情熱を持つ職人がなぜ最果ての地で?導いたのは「絶景」だった。山本さんが、和歌山の山の上にあるベーカリー「ドーシェル」を妻・妙さんと訪ねたとき。果てしなくつづく山並みとはるかに見下ろす紀伊水道の景色に鳥肌がたった。

「感動しました。妻といっしょに、パン屋をやりたいと思った」

 10年勤めた会社員を辞めて転職、ドーシェル、そして名店「コム・シノワ」の門をたたいたのち、妻の地元の串本で開業を果たした。

「ここならnagiの世界を展開できる」

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ピーナッツリング

 特に、色とりどりの野菜やフルーツをのせた都会的なパンに、元コム・シノワの西川功晃シェフ(サ・マーシュ)の影響が垣間見える。西川シェフが得意とする「ブレスレット」を参考にしたリング型のパン「ピーナッツリング」。生地を伸ばしてぐるぐる巻く成形が新食感を生んだ。ばりばりばりと快い衝撃を歯に伝えながら割れる皮が実に香ばしい。つづいて、ふにゅっと飛び出すピーナッツペーストの甘さ、もちっと沈む中身からあふれだす小麦の生々しさ。一口ごとに3者が三つどもえで相争い、めくるめくようだ。

 渡り廊下でつながった別棟のカフェで、パン職人の技を注ぎ込んだ、とろっとろに溶けるピッツァを楽しむのもよし。テークアウトしたパンを食べるのにうってつけの絶景を探すもよし。海岸線を車で走ること10分強、絶景ランキング番組で「海絶景」の1位になった橋杭岩がある。橋杭=橋脚のように、海上に突き出た巨大な岩の柱の連続。よくこんなものが自然にできたものだ。

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ねぎバゲットと、樫野埼から見下ろす海

 どこでパンを食べようか? と思って見渡せば、海岸にはちょうどテーブルになりそうな巨石の群れ。天然のイートインスペースではないか! 風景を見ながらパンを食べる。パンを食べては、またまじまじと風景を見る。橋杭岩の上に、神が渡る橋が自然とイメージされた。

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■nagi
和歌山県東牟婁郡串本町大島1158
0735-65-0065
9:00~18:00(カフェは10:00~18:00[L.O.17:30])
月曜火曜休み
http://www.zc.ztv.ne.jp/nagi/index.html

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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