わたしの みつけかた

<2> 「子どもを授かれるよう努力していた」自分と向き合う ~三角ポーズ

<2> 「子どもを授かれるよう努力していた」自分と向き合う ~三角ポーズ

撮影/篠塚ようこ

>>インタビューから続く

東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」のオーナーで、ヨガの先生であり、作家でもあるリザ・ロウィッツさんの連載「わたしのみつけかた」。彼女の自伝的小説“In search of the Sun”から、ヨガ、瞑想、そして日本との出会いを通じて、自らの居場所や家族、そして自分自身を見つけられるようになるまでの、人生の旅の物語をご紹介します。

リザさんは20代で初来日。その後、日本人男性と結婚、一度アメリカに帰国した後、再来日、2003年に日本初の「リストラティブヨガ」を教えるスタジオを開設しました。第2回は、「ずっと、子どもを授かれるよう努力していた」というリザさんの、自分の内面を見つめる旅の始まりのお話です。出てくるポーズは、これから連載の中で毎回、ご紹介していきます。

何年ものあいだ、声が聞こえていた。小さな声。

ずっと会いたかった。
やっと願いが叶(かな)えられたのは、随分後になって、自分の思い込み――その子は私のおなかからやってくるという、思い込みを手放せた時だった。

ポーズは取るものじゃなくて、なるもの

「どうして腰が引けちゃうの?」。三角ポーズをしている私に、ジル先生が聞いてきた。
「どういう意味?」。もう6カ月もヨガを続けてきて、すごく成長したと思うし、腰が引けている自覚はなかった。
「エネルギーが感じられないのよね」
見てて、と彼女は言う。
立ったまま、右脚を大きく前に出して、深呼吸をする。両腕を肩から前後に広げ、腰を少し後方にずらすようにして、前脚の脇に片手をついた。もう片方の手は天井に向けて伸ばす。

「わかる?」
まっすぐな背中、指先はしっかりと伸びて、視線は天井に向けられている。完璧な姿勢だと思った。
「すごく良いと思う」
「エネルギーの動きを感じられる? 私が生き生きしてるように見える?」
「どうかな……もしかしたら違うかも」
「そうでしょ」

そう言うと、彼女は始めの両脚を開いた姿勢に戻って、さらに呼吸を深めたのち、まず右脚に向かって上半身を屈(かが)めた。
足先を地面にしっかりと押し付ける。
そして視線を上に戻す。
左腕を円を描くようにして天井に向けると、指の一本一本がまるで太陽の光線のよう。その腕を後ろに引き、胸を開くと、ポーズを取っている彼女の姿全体が輝き始めた。

「違いが分かる? ポーズは取るものじゃなくて、なるものなの」
「わかった気がする!」。思わず言った。
「やってみて。筋肉を使いながら、でも体はリラックスさせてね」
ポーズをもう一度試してみるものの、どうやればあの内側から光が溢(あふ)れるような状態になれるのかが分からない。それに、ヨガは一生懸命にやらなくて良いところが好きだったのに。
「ヨガは、体に無理させるんじゃなくて、委ねるものなんじゃないの?」
「無理はしなくていいの。でも、自分の可能性を引き出してほしいのよ」
そうは言われても、まだどうしたら良いのか分からなかった。

「自分の通ってきた人生が、自分の体を作るのよ」

答えは、逆立ちの時にもやってきた。
壁に向かって脚を蹴り上げるのだけど、何度やっても転がり落ちてしまう。
他のみんなは、こともなげに逆立ちのポーズになっている。壁なしでバランスを取っている人もいる。
「なんで助けてくれないの?」。イライラしてジルに尋ねた。
「体で理解してもらいたいから。そのまま続けて」
また何回か勢いよく地面を蹴り上げてみるけど、間抜けな音を立てて崩れ落ちるだけだった。

「いつか、自分で自分を持ち上げられるようになるわよ。私も数カ月かかったんだから。ヨガはポーズをとることだと思っているみたいだけど、むしろその過程のことだからね」
意志を持つことと委ねることのバランスを取ること。それがヨガだって頭では分かっているけれど、体現するのは難しい。膝(ひざ)を抱えてうつぶせになるチャイルドポーズで休憩を取る時間になると、ホッとした。

「自分の通ってきた人生が、自分の体を作るのよ」。チャイルドポーズで休む私たちに向かってジルが話す。「まだ消化しきれていない、向き合えていないできごとは、体の中で記憶に残る。体は覚えているの。みんなには、どんなストーリーがある?」

私のストーリーはといえば、「行き止まりから抜け出せない」ことだった。もうずっと、子どもを授かれるよう努力していた。諦めようとも何度も思った。でもその度に小さな声が聞こえてきて、結局その声を探すのを止められない。

<2> 「子どもを授かれるよう努力していた」自分と向き合う ~三角ポーズ

「その子どもは、心から生まれる」

それから何年も経って、カリフォルニアから日本に引っ越して、ヨガスタジオを開くことになったとき、いつも心にあったのはジルの存在だった。
「大事なのは過程」と、生徒に教える。今はできるようになった私の逆立ちがその証拠だ。

相変わらず夫の省吾と2人暮らしだった頃、占師のディートマーが東京に来ていると知って、会いに行った。7年前に会った時は、私の息子の存在をほのめかしていた彼。今回は、まずヨガスタジオを開いたこと、結婚生活も10年経ったことなど、近況報告がひと通り盛り上がったところで、彼が急に真面目な顔をした。

「で、子どもは?」
「分からない」と、ため息をつきながら、答える。
「表情もスッキリしてるし、健康そうだし。子どもはもういても良い頃だよ」
簡単に言うなぁ、と心の中で皮肉を言う。
「こんなにいろんなことに挑戦してきたのに、努力する前に諦めるなんてらしくないよ」
「もう十分努力したの。もしかしたら頑張り過ぎるより、流れに任せてみた方が良いのかと思って」
「それで、手応えはあった?」
「さっぱり」。認めたら、涙が溢れ出した。

「でしょ」と笑いながら言う彼。「この子どもは、僕にはもうずーっと前から見えてるんだ。君も、深く自分と向き合って、今までの傷を癒やせたみたいだし。あとは自分に子どもができないっていう思い込みをぶち壊すだけでいいんだよ」

この言葉にはカチンときた。
「子どもができない、なんて思ってないよ」
「そう。じゃあ証明してみせてよ」。挑発するように言うと、彼は続けていった。
「例えばだけど、子どもを産んでも、心のつながりが全くない母親だってたくさんいるでしょ? お腹を痛めて産む事だけが全てじゃないんだよ」
その言葉に、思わず深く頷いていた。

「その子どもは、必ずしも君の子宮からやって来るわけじゃない、ってことを言いたいわけ。心から生まれると言うか……そっちの方が大事だよね?」
「でも、もう、期待してがっかりしたくないの」
涙でぼろぼろの私に、ティッシュを手渡しながら、彼は続けた。
「思い込みを捨てるんだ。子どもはすぐそこまで来てるよ」
堰を切ったように溢れ出る涙が、止まらない。
「本当だよ。すごく美しい子だよ」。何度も、言い聞かせるように、彼は言う。
「信じたいけど、でも、何度もトライして……」
「こればっかりは、厳しい戦いになるよ。でも歯を食いしばって前に進むしかない」
「また歯を食いしばるの? 私の人生そればっかだよ」
「だからなに? 君は戦士なんだから。それしか道はないよ。もう被害者ヅラは終わり!」

その言葉に、またちょっとイラっとした。
「大丈夫だから。目を見開いて、進むことだよ」
「わ、わかった!」。いつの間にか彼の熱意が私にも伝染したみたいだった。
「よし!じゃあ、その子を見つけるんだよ」
もしかしたら、もしかしたらだけど、彼には本当に私の子どもが見えているのかもしれない。

日本で養子縁組に申し込んだ

ヨガから学んだこと。それは、努力することと、委ねることのバランス。44歳になって、その学びが試される時が来た。日本で養子縁組に申し込んだのだ。可能性が低いことは分かっていたけれど、常に希望をもって、前を向いていようと2人で約束した。そして、いつも頭の中で呼びかけてくる小さな声に耳を澄ませようとした。しばらく聞こえてこなかったから。

ヨガマットの上に立ち、両腕を頭の上に広げる。太陽の光を集めて、呼吸と希望で体内を満たした。「戦士のポーズ」をとると力が湧いてきて、「半月のポーズ」では心に静けさが訪れるのを感じた。後屈しながら胸を開く。ねじりを加えながら、今度は内側を向いて、逆さまになった世界を眺める。「屍(しかばね)のポーズ」でゆっくりと横たわる。どれだけ手放すことができるだろうか? 体の輪郭が溶け始めているような感覚を覚える。もはや、そこには体の形はなくて、ただ静かに光を放つエネルギーの塊があるだけ。そこから発せられるエネルギーの波に私は乗る。

次に瞑想するために座った時には、すべきことは分かっていた。
小さな声が聞こえてくるのを待つのではなく、自分からその子に向かって話しかけたのだ。
「待っててね」
「もうすぐ迎えにいくよ」

リザのヨガ・ティップス:三角ポーズ~トリコナーサナ~

ヨガの基本的なポーズのひとつです。
下に向けた手は無理に地面につけなくても大丈夫。
膝の上でも、ブロックのような補助具を使うのもお勧めです。
下方に向けた手に体重をかけ過ぎずに、体幹を使い、
内腿の筋肉を意識して引き寄せることにより、バランスを保ちます。
体側、腰、背骨が気持ちよく伸びて、胸が柔らかく開くのを感じましょう。
太陽の光が溢れ出るのをイメージしながら指の1本1本を開くと、
同時にエネルギーの流れも感じられるはず。

 

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

<1>サンアンドムーンヨガ、リザ・ロウィッツさん「40歳で女性になった」

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<3> 過去の恋愛を乗り越え、心を開く ~木のポーズ

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