ほんやのほん

建たなかった建築、50の物語。
『まぼろしの奇想建築 天才が夢みた不可能な挑戦』

建築はあまり建たない、と断言してしまっていいだろう。建たない理由は様々だ。

日本に住んでいるわたしたちにとっても、建たなかった建築といえば、新国立競技場のザハ・ハディッドの優雅な曲線をたたえたアーチの案や、同コンペティションで提出され話題になった田根剛による古墳型スタジアムのデザインなどが記憶に新しい。実際の競技場よりも建たなかったそれらの案が強く心に残っている人も多いのではないだろうか。

今回紹介する『まぼろしの奇想建築 天才が夢みた不可能な挑戦』では、いろいろな理由で建たなかった建築の50の物語が年代順に紹介されている。

想像することだけが
わたしたちを新たな世界へと連れていく

例えば、現在の凱旋門のあるシャンゼリゼに、フランス国王をたたえた奇想天外なゾウの形をした巨大な構造物を設計したリバールの物語や、19世紀に社会改革家ロバート・オーウェンが理想の共同体として構想したニューハーモニー村、丹下健三による東京計画1960など有名な案、フランク・ロイド・ライトが亡くなる年に構想した高さ1.6キロ528階建ての超高層ビルなどが豊富な図面とともに紹介されている。

本を読んでいると、自分の好みの建たなかった建築のタイプが見えてくるのが面白い。わたしは、実現はそもそも不可能だけれども、案を提示することで世の中に問うタイプの建物がたまらなく好きだ。

例えば、イギリスの建築家集団アーキグラムのメンバー、ロン・ヘロンによるウォーキングシティー(p206)は、脚がついた高層ビルで構成されたその名の通り、歩く都市である。まるで昆虫のように必要な場所へ移動できるこの提案は、ビートルズが世界的な人気を博した1964年に発表された。

もう一つは、バックミンスター・フラーによるマンハッタン・ドーム(p220)だ。ニューヨークの空中写真にエアブラシで描かれた巨大なドームは、ドーム内に都市機能を集約することでエネルギー効率を飛躍的に良くするという案だ。

これらの突拍子のない(ように見える)アイデアは、実現が不可能だからこそもつ、案の強度と1960年代というポップスとヒッピーとテクノロジーの時代に発表された時代性をまとい、明確なビジョンを与えることで今も影響を与え続けているように思う。あったかもしれない世界を想像することでわたしたちは、一歩先の未来を思い描くことができるのではないだろうか。
(文・嵯峨山瑛)

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
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岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
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川村啓子(児童書 自然科学)/重野 功(旅行)/羽根志美(アウトドア)
八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)

嵯峨山瑛(さがやま・あきら)

二子玉川 蔦屋家電、建築・インテリアコンシェルジュ。
大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。

生きて働くぼくらの旅行記『生きるように働く』

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今年、一番心に残った1冊。『天龍院亜希子の日記』

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