このパンがすごい!

尼崎から東京に進出した「食パン専門店」創業者は元・ホテルの中華料理店シェフ/bakery 点心

尼崎から東京に進出した「食パン専門店」創業者は元・ホテルの中華料理店シェフ/bakery 点心

食パン

 いくつもの食パン専門店が関西から首都・東京へ攻め上ってきた今年。中でも衝撃的だったのは、尼崎で創業して10年、ついに東京進出を果たした「bakery 点心」の食パンである。

 ふさふさの舌触りとやわらかさに「おっ」と思う。その中に、ふにんとしたコシがあることに、「おおー」と感心する。ふにふにと歯と歯の間で踊り、溶けて、バターや生クリームの甘さが液体に変わる心地よさに、「ああっ」と悶(もだ)える。塩と砂糖の塩梅(あんばい)に引き算があるため、さわやかに一枚食べ終えられることに「むむぅ」と唸(うな)った。

尼崎から東京に進出した「食パン専門店」創業者は元・ホテルの中華料理店シェフ/bakery 点心

食パン

 スライスしたとき、断面が微妙にささくれだったように見える。そのせいなのだろうか、トーストしてみると、この表面が異次元のぱりぱり感となった! 微細な産毛を揚げて衣にしたみたいに、歯と歯のあいだのあちこちで「ぱり」「ぱり」と鳴き交わす。表面から立ち上がったちいさなちいさな突起が、オーブンの熱でこんがりとあぶられ、ぱりぱり物質に変じているのではないか? あたためられ軽やかさを増した中身と相まって、さくさくぐいぐいと思わず一気食いだ。

尼崎から東京に進出した「食パン専門店」創業者は元・ホテルの中華料理店シェフ/bakery 点心

創業者の板野隆志さん

「bakery 点心」。一風変わった店名は、オーナーの板野隆志さんが、ホテルの中華料理店のシェフだったことによる。

「10年前、ちょうど食品偽装が騒がれた頃。ホテルのフカヒレも、偽物を使ってた。子供にそれ食わせてええんか。朝から安全なもの食べさせたい。中華でもシューマイ、肉まんは粉から作ってましたし、パンを作れるんじゃないか」

 パン屋で修行しようと、16軒に頭を下げたが、断られつづけた。やっと入れてくれた店で、1カ月無給で働き、パンを学ぶ。その後、店舗を借り、機械を買って試作にいそしんだが「まったく形にならない」。捨てようにも捨てられないほどの食パンができ、それを食べてもらうため、近所の路上生活者の人たちに持っていった。

「その中に一風変わった、味覚の鋭い人がおりまして。『今日はうまいことできたな』って内心思ってた日、『めっちゃうまい』言うてくれた。(背中を押してくれた)その人には感謝してます。いまなにしてはるかな」

 試行錯誤を重ねた食パンが完成した瞬間だ。以来、ただ1アイテムだけを10年間ぶれずに作りつづけてきた。

「コンセプトは安心・安全。副材料は、バター、生クリーム、はちみつ、練乳だけ。添加物は一切入れてません」

 一気食いへと人を誘う、ミルキーながら軽々とした味わい。鼻へ抜けていく素材自体の甘い「風味」はあれど、舌や胃にもたれる砂糖の甘い「味」はなるべく控えられている。この塩梅も、15年の中華料理人生活によって培われたという。

「ひと口目に『うまい!』と思うのではなく、食べきったときに『うまい」と思う。そこやと思う。最後においしかったって伝わって、次も食べたくなる」

 そして、あの異次元のさくさく感に到達しえた理由も、元中華のシェフならではだ。

「スーピン(中華の揚げまんじゅう)をイメージしてました。油の中で花咲く生地。油と粉が反応して爆発する。パイみたいに軽い生地。トースターで焼いたとき同じような反応ができないか。配合によってこうなるんやと思います。そのためには、油脂分をたくさん入れる必要がある。国産バターをたっぷり入れてますから」

尼崎から東京に進出した「食パン専門店」創業者は元・ホテルの中華料理店シェフ/bakery 点心

えびチリサンド

 食パン以外に、唯一置かれているアイテムが、食パンを使ったサンドイッチ。えびチリサンド、とりチャーシュウ、たまごサンドの3色。誰が、中華料理と食パンがこんなに合うと予想しえただろう。ふわふわの饅頭(マントウ)と中華惣菜を合わせる感覚だ。たとえばえびチリにおける、油の軽さ、塩気の軽さ、辛味(からみ)の軽さ。これも一気食いだった。

「北風と太陽」の寓話(ぐうわ)を思い出した。食べろ食べろと濃い味を押し付けるのではない。絶妙の引き算。それは、食べ手を自ら食いつかせずにおかない。

↓↓フォトギャラリーは下部にあります↓↓ ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。
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■bakery 点心
東京都荒川区西尾久2-30-11
03-3893-1234
11:00~売り切れ次第終了(受付8:00~)
水曜定休
https://b-tenshin.cloud-line.com

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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