川島蓉子のひとむすび

<57>台風24号を乗り越えて。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

前回は、沖縄本島恩納村の「ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄(以下、ハイアット瀬良垣)」をご紹介しました。「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」をゼロから育て上げた総支配人の野口弘子さんが、次なる任として超特急で進めたプロジェクトでした。

「ハイアット瀬良垣」は、青々と広がる海に囲まれた小島のような立地にたたずんでいます。海とつながっている「ラグーン」や広々としたテラス、南国の植栽が施された庭を備え、活力にあふれた自然の中、リゾート気分が満喫できるホテルです。

オープニングセレモニーで野口さんは、「恵まれた環境だけでなく、良質な人、サービス、コンテンツによって、他のホテルが絶対にまねのできない、ここにしかない唯一無二のホテルを作りたいと思っています」と感極まりながら語っていました。知り合って10年以上になりますが、高みを目指し続ける彼女らしいと感じました。

今回は、オープンして約1カ月でホテルを襲った台風による甚大な被害と、それを乗り越えようとしている野口さんの姿に触れたいと思います。

8月に「ハイアット瀬良垣」をオープンしてから、「スローでいいので着実に広がっていくことをめざしました。いいペースで手応えを感じていたのです」と野口さん。

ところが、50年ぶりという強烈な台風24号が沖縄を直撃したのは9月29日のこと。記録的な暴風と豪雨が恩納村を襲ったのです。風速50メートルを超える風が吹き荒れ、高潮による冠水・浸水が起き、周囲一帯は停電と断水に陥りました。日常の暮らしを破壊してしまう大被害を村中に及ぼしたのです。

「ハイアット瀬良垣」も例外ではありません。海に突き出ているだけに、暴風と高潮をもろに浴びるかたちになり、「ラグーン」をはじめとする屋外施設は損壊し、豊かに配されていたグリーンはなぎ倒され、景観がすっかり損なわれてしまいました。フィットネスジムには、ものすごい強風によって割れた窓ガラスから水がなだれ込み、オフィス部分まで水浸しになる事態にも陥りました。そして追い打ちをかけるかのように、6日後に次の台風がやってきたのです。

<57>台風24号を乗り越えて。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

台風24号通過直後のプールエリアとラグーン(写真=ハイアット瀬良垣提供・以下同)

野口さんは、「よりによって、オープンしたばかりのタイミングで大災害に襲われて、さすがに『なぜ今?』と思わずにはいられなくて」と肩を落としてぽつり。立て続けの災難が、気持ちをなえさせたに違いないと想像が及びます。

壊れた設備の復旧策を打たなければなりません。幸いレストランや宴会場の被害はほとんどなく、客室もすべて無事だったので、滞在そのものに支障はありませんでした。が、順調に入っていたホテルの予約は、次々とキャンセルされていきました。いよいよこれからと夢が膨らんでいたところにこの事態。「あんなにキラキラと美しく輝いていたホテルが、完全に一変してしまったのが残念でならなくて」――めったなことでは弱音を吐かない野口さんだけに、口調の重さが痛手の大きさを物語っていました。

訪れた日は夜だったので、野口さんとゆっくり話をする時間がありませんでした。だから私が上記の事実を知ったのは、一泊した翌日のこと。話を聞きながらプールや庭を見て回り、その事実に驚きました。

<57>台風24号を乗り越えて。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

プールとテラスは瀬良垣ビーチに隣接

ただ、屈せず前に進むことを続けてきた野口さんです。
「ホテル施設の一部が壊れたとしても、人・サービス・コンテンツ、これらに力を注ごうとしていた私たちの方向性はブレることがないのです。そもそもが、ホテルの新しさや施設のきれいさで感動させたいわけではなかったはずで、台風は、うらやましがられるほどのホテルが完成し、そのハードの素晴らしさに酔っていた私たちへの警告かもしれません」と、次なるステップに進むことにしたのです。

そして従業員に向け、メッセージを発信しました。「『ホテルは人間から生まれる』。私たちがホテルを作るのです。ホテルの歴史は始まったばかり。だから原点に立ち返り、バリューのあるケアをし、すばらしいサービスがあるホテルをつくっていくと決意したことを思い出しましょう」と――。

ホテルでは、大車輪で改修工事が進められていましたが、滞在に支障が出ない配慮がなされているせいか、過ごしていて、気になるところはまったくありませんでした。たとえばスパ「はなり」では、近い場所で工事がある時期は、音が気にならないよう、昼間は場所を移して運営していました。植栽の修復も、段階を踏んで部分的に進めているせいでしょうか。散策して歩いても、そう気にならないのです。

<57>台風24号を乗り越えて。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

光に満ちた朝食の席でも、従業員の方たちの生き生きした働きぶりが印象に残りました

ロビーラウンジでは、新たに「ハイティー」や「ウィークエンドブランチブッフェ」が始まり、沖縄の新鮮な食材をとり入れたメニューを、ゆったりした空間で楽しめるように。「キャンプハイアット」という子ども向けプログラムで、自分だけのクリスマスリースを作る企画も行われています。

振り返ればハイアット箱根時代の野口さんも、温泉があるホテルということで、オリジナルの温泉まんじゅうを作ったり、浴衣や羽織りものを部屋に配したり。箱根の自然の中を散策するノルディックウォーキングなど、知恵と工夫を込めた独自のケアやサービスを、次々と打ち出していたことを思い出しました。

あのホテルに行くと「こんな体験ができそう」という期待感、そして訪れると、滞在の記憶に「人とのかかわり」が刻まれていく。それが、野口さんが言うところの「バリューのあるケア」だと感じました。

「このホテルでは、小さいうれしさを集めてもらうことを目指しています。それが細胞のように行き渡るには最低5年、根づいたことが実感できるには10年はかかると思います」という言葉に、ずしりとした重さがありました。

今回の記憶を大事に、また是非、訪れようと思いながらホテルを後にしたのです。
きょう12月20日、ハイアット瀬良垣では災害復旧工事が完了し、全ての施設が復旧したことが発表されました。

<57>台風24号を乗り越えて。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

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PROFILE

川島蓉子

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

<56>元気になるリゾートホテル、ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄

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<58>料理本を、ライフスタイルの真ん中に。若山嘉代子さん

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