鎌倉から、ものがたり。

鎌倉の人気レストランが集結「まちの社員食堂」

鎌倉駅西口の御成商店街。正午になると、表通りから一歩入った路地に、人々がそぞろに集まってくる。IDカードを胸からかけたスーツ姿もあれば、カジュアルなジーンズ姿も。目指す先は、その名も「まちの社員食堂」だ。

2018年4月に、鎌倉市に本社を置く「カヤック」が、鎌倉在勤者を対象に、朝・昼・夕食を提供する食堂としてオープンした。ここでは来店者が鎌倉で働いている証明をスタッフに見せることで、朝600円、昼800円、夜1000円で食事をとれるようになっている。

週替わりのメニューは、地元のレストラン数十店と組んだもの。ビストロ料理の「ランティミテ ノマド」や、山形そばの「ふくや」、レンバイ市場横の「朝食屋COBAKABA&ユッコハン」など、この連載にも登場したお店をはじめ、地域の人気店がラインナップにずらりと並ぶ。

ある日の厨房(ちゅうぼう)は、「ランティミテ」の山内裕樹さんの担当。カウンターに並ぶ、焼きたてのラザニアに、来た人の顔がほころぶ。夜のメニューは山内さんお得意のクスクスということで、「夜も来ます!」という声も。

週末には、1時間1000円で食べ物の持ち込み自由&ハイボール飲み放題のイベント「タイムカード」として、鎌倉在勤者以外にも店を開放する。1回ごとに変わる「一日店長」のもとで、個性的な時間が繰り広げられる。

「面白法人」を名乗るカヤックは、広告やゲームなどデジタル映像の企画制作を中心に、不動産仲介業や葬祭業など、地域関連事業を手広く手がける。振ったサイコロの目で給料プラスαが決まる「サイコロ給」など、従来の概念を超えたユニークな制度でも、たびたび話題になってきた。

鎌倉は、同社の創業者である柳澤大輔さん(44)、貝畑政徳さん(44)、久場智喜さん(44)の3人が「学生時代から好きだった場所」。カヤックは地域団体「カマコン」の創業メンバーの一社でもあり、「どうしたら鎌倉が面白くなるか」について、ずっと考えてきた。

「『まちの社員食堂』の発端は、自社の福利厚生ニーズでした。その時に、従来の社食で面白くないところを考えてみたんです。そうしたら、一社で閉じた形がつまらない、ということがわかった。では、食堂を開けばいいかというと、それだけではサービスが固定化して、マンネリを招いてしまう。そこから、みんなでアイデアを出し合って、今の形に仕組みを発展させていったのです」(柳澤さん)

「まちの社員食堂」には、運営者のカヤック、会員企業、料理を担当するコラボ出店者という、メインプレーヤーがいる。

カヤックは、初期費用や開店費用などのリスクを取って、事業主となる。

会員企業は、規模に応じて1万円から5万円までの月会費を納入し、ここを自社の福利厚生施設として使う。

コラボ出店者は、カヤックに雇われるのではなく、売り上げから報酬をまかなう。来店者は鎌倉在勤という地域の固定層なので、近隣に店を持つ出店者にとっては、アピールの場にもなる。

できてしまえば、「そうか、この手があったか」と、納得の仕組みだが、そのような「発明」が可能だったことは、鎌倉ならではといえる。

「鎌倉には、自分たちの町を愛する人が多くて、みんながそれぞれ、どうしたら仕事や暮らしが面白くなるかを考えています。その基盤があったからこそ、うまくスタートできたと思います」

オープン以来、地域を回す新しい仕組みとして、行政、企業、メディアと、各方面からの視察や取材も絶えない。(→後編に続きます

まちの社員食堂
神奈川県鎌倉市御成町11-12

>>フォトギャラリーはこちら ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。

<鎌倉から、ものがたり。>バックナンバー

PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

“たった1杯のコーヒー”という美意識。十文字美信さん「CAFÉ bee」

トップへ戻る

土曜の夜は参加自由。ひろがる鎌倉「まちの社員食堂」

RECOMMENDおすすめの記事