インタビュー

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

清川あさみさんと最果タヒさん(撮影・馬場磨貴)

対談『千年後の百人一首』の恋(前編)

千年前に詠まれた百人一首を、アーティストの清川あさみさんは糸やビーズを用いた原画で、詩人の最果タヒさんは独自の現代語訳に。そうして生まれた『千年後の百人一首』(リトルモア)は、百人一首の新しい世界を広げ大きな話題になりました。

それから1年。清川さんは京都・両足院で、その原画100点を一挙に初公開し、最果さんは百人一首についてのエッセー『百人一首という感情』を発表。さらなる深みを増した2人の百人一首ワールドから、「恋の歌」に絞って語り合っていただきます。千年前と現代の恋との違い、共通点は? (聞き手・構成 中津海麻子)

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

清川あさみ(きよかわ・あさみ) アーティスト。最新刊に作品集『清川あさみ 採集』(パイインターナショナル)、『清川あさみ 百人一首かるた』(リトルモア) プロフィールの詳細は記事の最後にhttp://www.asamikiyokawa.com/

――ますますお二人を引きつけてやまない百人一首。詠われている千年前の恋から、何を感じますか?

清川 シンプルだな、って。ごまかしたり隠したりせず、思ったことをそのまま直球で詠い、思いを寄せる人に届けている。今はSNSなど簡単に思いを伝えられる手段がたくさんあるからこそ、「本当」を探すのが難しいですよね。何層にも重なったレイヤーの中から相手の本音をどう読み解くかにみんな苦労している。その点、千年前はそのまんま。1枚の紙に、自分の思いを自分の言葉で歌にしたためていて。

最果 今は「君のために詩を書いたよ」と贈っても、「は? もっとわかりやすく言ってよ」ってなってしまう。ごまかすためにわざとわかりにくく表現してるんじゃないか、とか、言質(げんち)を取られたくないの? とか(笑)。

清川 確かにそうかも(笑)。

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

最果タヒ(さいはて・たひ)  詩人・小説家。最新詩集は、2018年『天国と、とてつもない暇』(小学館) プロフィールの詳細は記事の最後に

最果 今は「はっきり伝える、わかりやすく伝える」ことがよしとされている時代。相手が理解できなかったら伝えた側が悪い、みたいな。でも、千年前はあいまいな気持ちを簡略化せずに、それをそのまま相手に送っていた。「君ならわかってくれるよね?」と。「好きだ」という言葉はわかりやすいけど、すべての人の気持ちに当てはまるわけじゃない。本当の気持ちはその人から出てくる言葉でしか表せないと思うんです。千年前の人たちは、それを歌という形に完成させて相手に届けた。そこに美しさを見いだしていたんだろうなと思います。

もう一つ、みんなロマンチックな恋はたくさんしているけど、ロマンチックが宙に浮いていない感じがする。それは、京の貴族社会がとても狭く、仕事上の立場や人生が恋とひもづいているからなのかもしれません。父や兄の出世のために結婚が決められていたのに、他の人と恋をしちゃったとか、上司の婚約者と恋をしちゃったとか、そういうことは絶対に認められない。どんなに愛し合っていても引き裂かれることがある。だからなのか、実は「永遠の愛」なんて信じてない感じ。意外とドライだったんじゃないかと。今より恋愛を重視してるけど、今ほど重くない。変なところが軽やかなんですよね。

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

京都・両足院で開かれた清川あさみさんの個展「『千年後の百人一首』原画展−糸で紡ぐ、歌人のこころ−」(2018年11月)

――歌から感じた、「千年前ならではの恋愛スタイル」は?

清川 決定的に違うのが、結ばれるまで相手の顔を知らないっていうこと。

最果 最後の最後に顔を見て、「その次」があるかはそこにかかってる。シビアなシステムですよね(笑)。当時は「あの家の娘さんは美人らしい」という噂(うわさ)が流れると、その噂から妄想をして、恋をして、歌を贈り、贈られ、思いが届けばようやく会うことができる。会う前に相手の頭の中で美人像が出来上がっていて、それと闘わなきゃいけない。

清川 プレッシャーがすごい(笑)。

最果 だからこそ、27番のこの歌は、当時の女性にとってはすごくキュンとしたんじゃないかな、って。

27 中納言兼輔
みかの原 わきて流るる 泉川(がは) いつ見きとてか 恋(こひ)しかるらむ

「あなたには会ったことがない、ないというのにこんなにも恋しい、あなたをどこかでもう、一目見たからかもしれません――」。これがロマンチックな口説き文句として効くのは当時だからこそだと思います。現代にはあまりない感覚。

清川 「以前会った気がする」「夢に出てきた」とか、今言われたらちょっとビックリしちゃうよね。

最果 ずっと文や歌を交わしてきて、最後の最後、「顔も好き」と言ってもらえる。今は「見た目が好き」なんて言ったら軽薄と思われるけど、千年前の女性にとっては、ものすごくうれしいことだったんじゃないかな。

――百人一首の中で気になる「恋の歌」をお聞かせください。

清川 50番が印象に残っています。

50 藤原義孝
君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

清川さんによる、50番の原画
@AsamiKiyokawa

清川 一夜をともにしたあとに詠んだ歌なのですが、完全に相手の虜になっちゃったという熱い思いが伝わってきて。絵では、美しい花が咲き乱れながら女性を締め付けているさまを描きました。恋愛しているとき、2人の気持ちって同じ強さ、温度では進まないもの。殿の思いが強すぎて暴走し、それに戸惑っている。『千年後の百人一首』では、そんな女性目線で描きました。

最果 この歌は、相手を好きになりすぎて「君のためなら死ねる」と言ってしまった人が、結ばれたことで「君と一緒に長生きしたいと思った」という内容なんですよね。エッセー『百人一首という感情』にも書いたんですが、「命かけて愛します」って、私は訳がわからない。

清川あさみさんと最果タヒさん「SNS時代、百人一首みたいに恋できる?」

清川 「どっちやねん。だって死んだら愛せないよね?」って最果さんがツッコんでいて、思わず吹き出しちゃった(笑)。

最果 そういう意味では、藤原義孝は今、ようやく地に足がついたというか。愛が実体を持ったんでしょうね。

清川 相手を束縛したくなるほど好きになってしまった殿の気持ちはわからなくはないけど、女性にしてみたらそこまでまだ追いついていない。おもしろいよね、2人の気持ちのかけっこが。千年前も今も変わらないんだなと思う。すごく共感できる。

生まれてくる「薄暗い感情」も含めて、恋しいという気持ち

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清川さんによる、13番の原画
@AsamiKiyokawa

最果 やはり恋する気持ちの不思議を歌っているのが、13番。

13 陽成院
筑波嶺(つくばね)の 嶺(みね)より落つる みなの川(かは) 恋(こひ)ぞ積もりて 淵(ふち)となりぬる

「筑波山の頂上から流れてくる水が、次第に大きな河になり、そうして淵ができていく。私の恋しい気持ちも、同じようにすこしずつ溜(た)まって、今では淵となりました」という歌です。

清川 私もこの歌、好き。

最果 一滴の澄んだ水がどんどんあふれて川になり、深くなって淵になると、底が見えないほど暗くなっていく。相手への思いを重ねていくうちに、好きという気持ちは変わらないのに、どうしても、その感情に薄暗いものが宿ってしまう。嫉妬やうまくいかないいら立ちなどもあるのだろうけれど、それよりも、この暗さは「愛」そのものの、純粋さゆえの暗さだと思う。透明で、みずみずしくて。でも、深まれば、闇を持つ。美しいまま。純粋なまま。こういう比喩は見たことない。すごく真に迫ってますよね。

清川 完全に2人の世界に入っている。それを感じて、男女が絡み合い、大輪の花を咲かせている絵を描きました。最果さんが言ったとおり、暗いものも含めていろんな感情が渦巻いている。でも、結果としてそれがキラキラしている。

最果 透き通った気持ちは変わらない。でもそれがどんどん膨らんでいくと、たとえ美しい気持ちであっても、周りを傷つけてしまうこともある。これって、今を生きる人、恋する人たちにも共感できる部分はあると思う。それを31文字で書ききるのが、千年前の歌人たちのすごさですよね。

>>後編「清川あさみさんと最果タヒさん『百人一首がくれる、恋の処方箋』」に続きます

>>『千年後の百人一首』対談1「清川あさみさんと最果タヒさん、小野小町に出会う」
>>『千年後の百人一首』対談2「清川あさみさんと最果タヒさんが共感する“秘密の恋の歌”」

BOOK
写真

『清川あさみ 百人一首かるた <ピンク>』(リトルモア) 清川あさみ 著

かつてない美しさ。現代版「百人一首かるた」誕生。
糸や布、ビーズを用いて、百首すべてを、大胆に瑞々しくビジュアル化。200枚のアートコレクションで遊ぼう。

最果タヒとの共著『千年後の百人一首』で、和歌の一首一首を、今のものとして情感豊かに描き出した清川あさみ。本商品は、絵札すべてに清川あさみの絵を使用、スッキリと洗練された文字組みや色、ケースに施されたホログラム箔など、細部にまでこだわり、まるで芸術作品のような「百人一首かるた」が完成しました。

[読み札・取り札 各100枚/解説付]
税込4320円

清川あさみ(きよかわ・あさみ) 淡路島生まれ。2001年初個展。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。水戸芸術館や東京・表参道ヒルズでの個展など、展覧会を国内外で多数開催。代表作に「美女採集」「Complex」シリーズ、絵本シリーズ『幸せな王子』『銀河鉄道の夜』など。「ベストデビュタント賞」受賞、VOCA展入賞、「VOGUE JAPAN Women of the Year」受賞、ASIAGRAPH アワード「創(つむぎ)賞」受賞。2016年度後期のNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」ではタイトルオープニング映像やポスターのディレクション・制作をトータルで手がけ話題に。最新刊は作品集『清川あさみ 採集』(パイインターナショナル)、『清川あさみ 百人一首かるた』(リトルモア)。

BOOK
写真

『百人一首という感情』(リトルモア) 最果タヒ 著

[最果タヒ × 百人一首] ふたたび!
記憶が歴史に変わっていく中で消されていった「感性のまたたき」
―― 100の「エモい」を大解剖。

映画、展覧会、WEB、広告、音楽…あらゆる場所へことばを届け、新しい詩の運動を生み出し続ける詩人・最果タヒ。

清川あさみとの共著『千年後の百人一首』で挑んだ現代語訳では、千年前から届いた百の思いにどう向き合い、胸に刺さる詩のような新訳が生まれたのか?

百首を扉にして読む、恋愛談義、春夏秋冬、生き生きとしたキャラ、人生論。
そして、「最果タヒ」の創作の秘密。
いちばん身近な「百人一首」案内エッセイ、誕生!
税込1620円

最果タヒ(さいはて・たひ)  1986年生まれ。詩人・小説家。2004年よりインターネット上で詩作をはじめ、翌年より「現代詩手帖」の新人作品欄に投稿をはじめる。2006年、現代詩手帖賞を受賞。2007年『グッドモーニング』で中原中也賞、2015年『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。2016年の詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、翌年映画化され話題を呼んだ。小説家としては『星か獣になる季節』『少女ABCDEFGHIJKLMN』『十代に共感する奴はみんな嘘つき』など。対談集に『ことばの恐竜』、エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』『もぐ∞』。最新詩集は、2018年『天国と、とてつもない暇』(小学館)

「世界のベストレストラン50」に見る、美食のこれから 中村孝則さん

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