東京ではたらく

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

職業:ファイナンシャルプランナー
勤務地:千代田区
仕事歴:6年目
勤務時間:10時~19時
休日:土日

この仕事の面白いところ:さまざまな価値観の人と出会え、自分を成長させてくれるところ

この仕事の大変なところ:すべての方の相談に100%応えられたか、それを常に自問しなくてはいけないところ

東京の丸の内にある「FP woman」という会社でファイナンシャルプランナーとして働いています。
仕事の内容は、個人のお客様からのお金の相談をお受けすることはもちろん、会社の事業として行っている「お金の教育」にまつわるセミナーや講演会の企画・運営、マネー関連の書籍や雑誌記事の執筆なども手がけています。

実は、ファイナンシャルプランナーというのは、国家検定であるFP技能士資格か、日本FP協会が認定するAFP(アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー)か、CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)の資格を取得すれば名乗ることができます。

では、資格を生かしてどんな仕事ができるかというと、ここが日本ではまだまだ大変なところでして……。

ファイナンシャルプランナーというのは、個人や法人のお客様から相談料をいただいてお金のお悩みを解決するというのがメインの仕事なのですが、日本では「お金を払ってお金の相談をする」という文化がそこまで根付いていないんですね。

日本では「お金の話をむやみにするのははしたない」という考え方が古くからあると感じるのですが、それを身内でもない他人に、さらにお金まで払って話すということには、まだまだ抵抗を感じる人が多いように思います。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

個人コンサルティングを行う個室。スタイリッシュな空間で、女性ひとりで相談に足を運ぶ人も多い

そんな風潮もあってか、個人コンサルティングだけでファイナンシャルプランナーとして食べて行くのはなかなか難しいのかな……というのが現状だと思います。

私がFP技能士2級の資格を取得したのは26歳のときです。当時は東京の印刷会社に勤務していて、将来ファイナンシャルプランナーとして働きたいという希望は全く持っていませんでした。

ただ、学生の頃から漠然とお金のことに関心があって、保険制度や社会制度について学びたいという気持ちから通信教育で勉強を始めました。学生でお金に興味を持つというのも考えてみれば不思議なことかもしれませんね(笑)。

私は大学4年生の時に1年間海外留学を経験したのですが、出発前に現地で必要なお金をためるためにアルバイトをしていたんです。学生ながら、どんな仕事だといくらくらいお給料がもらえて、どうやってためてそれをどんな風に使うかを真剣に考えていたように思います。もしかしたらそんな経験がお金への関心につながったのかもしれません。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

柔らかい雰囲気で明るく話す武田さん。「お金のことは話しづらいという方もいるかもしれませんから、できるだけリラックスしてお話しできる雰囲気を作れたら」

自己啓発の一環として取得したファイナンシャルプランナーの資格が今の仕事につながったのは29歳のときでした。

大学時代、競技チアリーディングに打ち込んでいたこともあって、「働くなら、チームで力を合わせて何か既存のものではない、新しいものを作りあげる仕事がしたい」と思っていました。名古屋の大学を卒業後、新卒で東京の印刷会社に就職したのは、そんな仕事ができる部署があったから。でも残念ながら第一希望の事業部には配属されず……。

それでも、お客様のニーズに合わせて色々なご提案ができる営業の仕事は面白くて、最初の3~4年間はやりがいを持って取り組んでいました。仕事に対して少し物足りなさを感じ始めたのは6年目くらいの頃でした。新規で受注した案件の中に、これまで会社で取り組んだことのないチャレンジングな内容の仕事がありまして。

私自身は「これまでにない仕事ができる、新しいものが作れる!」とワクワクしていたのですが、内部からはネガティブな反応が多くて。前例のない案件ですから、生産性が悪かったり、リスクがあったりするのは当然ですから、仕方のないことだったのかもしれません。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

老後に必要な生活費やマンション購入に必要な資金、そのリスクなど、お悩みに合わせてさまざまなデータを紹介しながら悩みを少しずつほぐしていく

その時、思ったんです。「私はこの先、自分がやりたいと思うこと、そして仲間やお客様がやりたいと思うことを全力で実現していける、応援していける仕事がしたい、そういう人になりたい」。30歳目前という節目のタイミングもあったと思いますが、そこから少しずつ転職というイメージが膨らんできました。

とはいえ、自分の漠然とした理想をかなえる仕事は何なのか。はっきりとした答えはすぐには見つかりませんでした。そんな時、以前からメルマガ登録していた今の会社から「ファイナンシャルプランナー募集」の情報が送られてきたんです。

実務経験必須の経験者採用で、未経験の私が応募できるものではなかったのですが、そこに書いてあった会社の理念を読んで、「何がなんでもここで働きたい!」と思ってしまって(笑)。

その理念とは「女性が色々な選択肢を持って不安を解消し、キラキラした人生を送れるサポートをしたい」というもの。女性だからといって諦めるのではなく、自ら選択して自由に歩んでいける人生。それは私自身も憧れていた生き方でした。興味ある分野で、目指すべき生き方を共有できる働き方がある。「これしかない!」という強い気持ちで、ダメ元で応募したのでした。

自立して生きる女性の人生を応援したい

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

武田さんの前職は営業。初対面でもすっと打ち解けた空気を作ってくれるのはさすがのトーク力

採用試験で思いを伝え、未経験にもかかわらず、その熱意をくんで採用してもらった今の会社。入社当初は右も左もわからず、大変でした(笑)。

はじめの数カ月は先輩プランナーの個人コンサルティングに同席させてもらい、実際の相談現場をたくさん見せていただきました。資格試験である程度の知識は持っていたものの、コンサルティングというのは毎回相談者が変わりますので、お悩みもその方の性格や価値観も十人十色。「人間を相手にする」ということの難しさを身にしみて感じました。

例えば同じ年代で同じようなお悩みを持っている方でも、その方がこの先どういう風に生きていきたいかによって、アドバイスは全く変わります。自分が持っている知識の箱の中から、その方にあったアドバイスを探し、言葉を探し、伝える。ただ知識を持っているだけではダメで、豊富な引き出しを持つことが大切なのだと学びました。

例えば、私が担当するお客様は、30代、40代の女性がメインなのですが、お悩みで最も多いのが「老後」についてです。一般的には、独身の女性が単身で老後を過ごすために必要な資金というのはある程度データがあるのですが、それをそのまま伝えるというのでは意味がありません。

例えばAさんは、老後は地方にある実家に戻って、ふるさとでひとり気楽に過ごしたい。一方のBさんは東京近郊にある快適な施設に入って、仲間とわいわい暮らしたい。お二人の描く未来は違いますから、必要な資金は当然変わってきます。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

個人コンサルティングにあたっては、事前にヒアリングシートを送り、現状や理想を書きとめてもらう。これをもとに、ライフプランシートに落とし込みながら、今できることを一緒に考えていく

さらにAさんは金融や投資のお勉強をされていて、貯蓄もしっかりある。それなら将来のために投資や運用をされてはどうですかというアドバイスができます。かたやBさんは毎月の家計をぼんやりとしか把握していなくて、貯蓄も少なめ。

そういう方にいきなり投資のアドバイスをしてもリスクが高いですから、まずは今の家計やご自分のお金の使い方、お金に対する考え方を整理して、少しずつお金と上手に付き合えるコツをつかんでもらうというところから始めます。

さらに、一回の相談ではどうしてもお金との付き合い方を変えられないという方には、3カ月間定期的にお目にかかって家計や無駄遣いのチェックを行うお金の体質改善パーソナルトレーニングも行っています。お金にまつわる体質を変えるという意味では、ジムのダイエットマンツーマントレーニングみたいな感じですね(笑)。

1回90分の相談で、そのアドバイスを行動につなげられる人もいれば、そうでない人もいます。そういったそれぞれのお客様の性格を見極めるのもプランナーの大切な仕事です。

こんな話をすると、「ファイナンシャルプランナーって、カウンセラーみたいですね」と言われることがあるのですが、私もこの仕事に就くまでは、ここまで人の人生や価値観に踏み込む職業だとは思ってもみませんでした。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

コンサルティングがない時間は、書籍の執筆をしたり、セミナーの内容を考えたりする。「投資など、お金の教育分野にも力を入れています」

お金というのは人生と切っても切り離せないものですから、その方の深いところまで入っていって考えるというのは当然かもしれませんが、そう思えば思うほど、毎回「あのアドバイスで本当によかっただろうか?」と自問します。

そういう部分では大変な仕事で、お金の前に人に興味がないとできない仕事なのかもしれないなと感じています。人を見る目と人の話を聴く力、コミュニケーション能力はとても大切な要素です。

私自身、そういった部分で最初は苦労しましたが、今ではそれこそが自分の好きな側面なんだと思うようになりました。いろいろなお客様の話を聞いていると自分の世界もどんどん広がっていくというか。「こんな風に考える人もいるんだ!」と、新しい価値観に日々出会うことで、自分が成長させてもらっているなと感じるんです。

あるとき、50代くらいの女性の相談を受けたことがありました。夫が借金を繰り返してしまうということで、ものすごく思いつめた感じで相談にいらっしゃったんです。「本当に先が見えなくて、これからどうしていったらいいかわからない……」と。

確かに大変な状況ではあったのですが、お話を伺っていくとご本人もお仕事を持たれているし、冷静に考えれば、これからできることは色々あるということがわかってきたんですね。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

「経験上、お金についての教養がある人は、自然と人からの信頼を得られるんだなと感じます」と武田さん。お金を稼いだり、ためたりすることだけを目標にせず、お金と上手に付き合えるヒントをセミナーや講演会で紹介している

お金の問題や不安を解消するのは、どんな場合でも小さなステップの積み重ねなんです。今何ができて、その次に何ができるか。それをひとつずつ考えて、理想のゴールを目指すことが大切なんです。

でも、お金に追い詰められるとそれができなくなってしまう。不安で怖くて目の前が真っ暗になる。そんなとき、私たちのような第三者に話すことで、現状が整理されて、先のことを冷静に考えられるようになるというのはよくあります。

実際、その相談者の方も1時間の相談の中で落ち着いて考えをまとめることができて、すっと未来の光が差すというんでしょうか。心から救われたという表情をされたんですね。その時のことは忘れられません。そういう瞬間に立ち会うと、この仕事をやっていて本当によかったなと思いますし、ファイナンシャルプランナーの存在意義を改めて感じますね。

その相談者のお話もそうですが、さまざまな相談を受けてきて感じているのは、「将来が不安」と感じるのは、将来が「見えない」からなんじゃないかということです。

とくに私が担当する機会の多い東京で働く女性にとっては、「結婚するか、しないか」「子供を持つか、持たないか」「働き続けるか、辞めるか」。本当にたくさんの選択肢があって、ご自身も自分がどんな未来を望んでいるのかわからない……という方も多いです。

ファイナンシャルプランナー:武田明日香さん(35歳)

◎仕事の必需品
「思い浮かんだアイデアや毎日のTo Doリストを書き込むメモ帳は常に持ち歩いています」

たくさんの選択肢の中から自分の生き方を選べる自由さを手に入れた女性が、その自由さゆえに悩んでしまう。私も同年代なので、その不安はよくわかるのですが、せっかく選択肢が無限にあるのだから、ぜひ自分の「望む未来」を描いて、それを手に入れて欲しい。そのお手伝いができたらと思っています。

とはいえ、自分の「望む未来」を30代や40代でビシッと定められる人なんてごくわずかです。それに人生は思わぬことが起きるからこそ面白いものですから、今描くのは、漠然とした「理想」でいいんです。何年後、どんな仕事をしていたいか、どんな場所でどう過ごしていたいか、どんなときに幸せを感じるか、その程度で構いません。

でもその小さな「理想」を描くだけで、お金との付き合い方はきっと変わってきます。今、何をするべきかが少しずつクリアになってくるんです。そしてお金への漠然とした不安が薄まれば、将来への不安も徐々に減ってくるはず。そうやって、ひとつずつ不安を可視化して解消し、ツールとしてのお金と上手に付き合うことができる、それがポジティブに生きて行く秘訣(ひけつ)なんじゃないかなと思います。

私自身、これからどんな未来が待っているのか、どんな風に生きていきたいのか、試行錯誤の真っただ中です。東京で働く女性として、同じ悩みを抱える方々の力に少しでもなれるように、私自身ももっともっと人間として成長していかなくちゃいけないなと思う毎日ですね。

■FP woman

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。

器作家:田中優佳子さん(43歳)

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コーヒーディレクター:山下敦子さん(33歳)

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