スリランカ 光の島へ

<13>「古い」は強い武器になる~ゴールフェイスホテル

&wの連載「ブックカフェ」やインタビューでもおなじみの写真家、石野明子さんが2017年、30代半ばにして移住したスリランカでのライフスタイルを伝える「スリランカ 光の島へ」。今回は、石野さんが大好きな、ゴールフェイスホテルの魅力について。

東京には帝国ホテル、シンガポールにはラッフルズ、香港にはペニンシュラ。大きな街には必ずその街を代表するホテルがある。スリランカ一の都市コロンボには、ゴールフェイスホテルがある。創業は1864年、まだスリランカがセイロンと呼ばれていた頃、各国の紳士、淑女が集うコロニアルスタイルのホテルとして生まれた。『シャーロック・ホームズ』を書いたアーサー・コナン・ドイルや『トム・ソーヤーの冒険』の作者マーク・トウェインもこのホテルに立ち寄り、少し薄暗いバーで一杯飲みながら旅のメモを残している。1921年には昭和天皇も宿泊された。

インド洋のすぐそばに建ち、強い日差しを受けて輝く白亜の壁、エントランスに着くとゴールフェイスホテル名物のドアマンが「ようこそマダム、ご機嫌はいかがですか?」とドアを開けてくれる。現在のドアマンは2代目。初代は72年間勤めあげ、94歳で亡くなったときはとても大きなニュースになった。かつてエリザベス女王や第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンのためにドアを開けた。勤務中に、ホテルの目の前に零戦が墜落する場面にも遭遇したそうだ。

私がこのホテルで大好きな場所、それはオープンエアのダイニング「ザ・ベランダ」と海に面するガーデンに作られたチェッカーボードというバースペース。「ザ・ベランダ」につづく廊下は白く高く雄大な造りで床はチェッカー模様。ふと外を見やると青い海と空、南国の風がお出迎えしてくれる。このダイニングとバーは西向きに造られていて、毎日のサンセットタイムにはバグパイプの生演奏とともに海岸に掲げられた国旗が降納されるセレモニーが行われる。

夕刻の赤く染まっていく景色とバグパイプの懐かしいような少し切ない音色にそこにいる誰もが動きを止める。何度見ても決して飽きない風景。そして手元にこのホテルのシグネチャーカクテル、ピムスがあれば完璧。ピムスは英国人が夏を楽しむカクテルで、イギリスから初めてセイロン島に持ち込まれたのが、ここゴールフェイスホテルだったそう。

<13>「古い」は強い武器になる~ゴールフェイスホテル

たくさんのオファーがあったが、「ここでの支配人が一番ワクワクする」とここを選んだロバート支配人

2018年に新しく就任した「俳優ですか?」とつっこみたくなるとっても男前な支配人に「特別なゲストを迎える予定はありますか?」と聞くと「毎日がスペシャルゲストですよ」と男前な答え。でもそのあとスリランカ人の女性では珍しい刈り上げショートへアを少し赤く染めたPRの女性に「ファットブックを持ってきて」と言った。

彼女がハイヒールでヨタヨタ持ってきてくれたその本はこれまで迎えたVIPのサインが入ったゲストブックだった。大きくてぶ厚い。ファットブックと呼ばれる所以だ。創立した1864年から今は4冊目。代々の支配人たちが受け継いできたとても貴重なものだ。「これを受け継いでいることをとても名誉に、そして自分がやるべきことを考えてワクワクしているよ」と言った。

「今はモダンなホテルがコロンボにもたくさんできています。ゴールフェイスホテルの古さは、ともすると弱点になりうる。だけどその古さこそが、私たちの一番大きな武器なんです。私たちの持つ歴史を越すことは絶対にできません。その価値とホスピタリティーを私たちは守り続ける。そして今は『コロンボにゴールフェイスホテルあり』と世界中の人の心に刻むことを目標にしています」

大きな目標に向かうゴールフェイスホテルのチームメンバーは層が厚い。世界のホテルを渡ってきた現支配人、支配人をサポートしつつ、テキパキ仕事をこなす片腕たち、前衛的な感覚を持った前出のショートヘアのPRの女性しかり。

そして昨年末、とある日本のスリランカ専門の旅行会社からスカウトされ転職してきた白石かなえさん(32)が加わった。昨年、日本で開催された旅行博で支配人や役員と知り合い、スリランカに対する思いに意気投合したことがきっかけだった。日本からスリランカに移住を伴う転職、現在の業務の引き継ぎに不安を感じる白石さんは最初、「では1年後に」と答えた。しかし「どうして今じゃないの? 大丈夫! できるよ」と日本の居酒屋で熱心にスカウトされたそうだ。

<13>「古い」は強い武器になる~ゴールフェイスホテル

夕刻のカクテルパーティーを企画し旅行会社の人たちをホストする白石さん

支配人たちがほれ込む白石さん。その理由はとてもよくわかる。白石さんと私の出会いは昨年5月。一年に一回、白石さんはスリランカに視察に来る。スリランカの新しい情報をつかむために大きなリュックを背負って自分の足でスリランカ中をまわり、英語、シンハラ語を駆使してとても細やかに取材する。その流れで私のスタジオにも視察にきてくれた。

「すべてお客様のため。安全な旅でスリランカのいいところをもっと知ってほしいから」。大学時代に専攻していた開発学の研修がきっかけでスリランカを訪れた。その後旅行会社のインターンでまたスリランカに。10年以上、会社や職種は変わるもののずっとスリランカに関わりつづけた。

私は今スリランカのガイドブックを書いているのだが、下調べや事実確認をするために、いろんな著書やHPを見ている。インターネットから得る情報では某大手出版社のガイドブックの情報や文章をそのまま記載、またはちょっと変えて記載しているサイトも多いのだが、白石さんがいたスリランカ専門の旅行会社のHPはまったく違った。白石さんが足で稼いだ情報、数々の英語の文献からの情報、加えて白石さんが実際に感じたことがちゃんと反映されている。そして何かをお願いしたとき、とてつもなく仕事が早い。しかも笑顔で。もう私の中では「困ったときの白石さん」が確立されている。そんな白石さんがいるゴールフェイスホテル。無敵。

柔らかなソファに座って楽しそうな宿泊客を見ていると、かつての遠い日のゲストたちもこんな風に過ごしていたんだろうな、とその姿が立ち現れる。創業当時から色あせない伝統、ゲストが紳士、淑女となって毎日少しずつ積み重ねられていく歴史。ここでしか味わえないものが確かにあること、それがゴールフェイスホテルの揺るがない魅力。

ゴールフェイスホテル
2 Galle Rd,Colombo 3, Sri Lanka
TEL +9411-254-1010

ヤートラ トラベル(白石さんが現在兼任している旅行会社)
日本支社 東京都港区新橋5-27-6 上村ビル201
TEL 03-6430-6255

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。

http://akikoishino.com/

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