ほんやのほん

博物館の裏側をのぞいてみよう
『ヴンダーカンマー ここは魅惑の博物館』

この連載で、前回は化石の話、そして今回は博物館について書くというのを聞くと、どれだけそういう方面が好きなのかと思われるかもしれませんが、自然科学書の担当になってから4年、知れば知るほどこんな世界があったのだ! という驚きに満ちた日々の連続です(これまで、いかに私が無知だったかということにもなりますが)。

「知識のあるなしと、物事を
面白く受け取れるか否かは別物」

今回ご紹介させていただく本『ヴンダーカンマー ここは魅惑の博物館』は、職場体験として博物館を訪れた中学生が、そこで働く職員やボランティアの方々を通じて、生き物や標本について学び、さらに自分自身と向き合う経験をするお話です(ヴンダーカンマーとは、魅惑の部屋、驚異の部屋という意味)。

5人の中学生が登場しますが、どの子も最初は乗り気ではありません。でもそこで出会った先生や学芸員、ボランティアとのやり取りで徐々に変わっていきます。

文中にはたくさんのすてきなセリフがあります。化石を探す担当になった女子が、手が汚れるし知識もないしと最初は嫌がる素振りを見せますが、それに対して担当の学芸員は「知識のあるなしと、目の前の物事を面白く受け取れるか否かは別物」と言います。これは日々忙しくて新しい挑戦がなかなか難しくなっていく大人にも効く言葉に思えます。

また、最初はボランティアのオバさん3人の見分けがつかなかった中学生男子は、生き物にはそれぞれ個性があり、一枚の葉にしてもきちんと特徴をとらえて種を「同定」する必要があるとの説明を受け、「……さっきまで区別が付けづらかった外見も、今となってはそれぞれ違うようにしか見えない」と、3人のオバさんたちの個性に気づきます。昨今の「坂」系アイドルの女の子たちが全員一緒に見えてしまう私にも効く言葉です。

未来に向けて「変わらない」もののために

昨年、つくばにある国立科学博物館の収蔵庫を見学する機会がありました。そこには上野の本館で展示しきれない標本や資料が管理されているのですが、あんなに広い上野の本館に展示されているのは、科博の総標本資料のうちのほんのわずかだそうです。収蔵庫のしんとした静謐(せいひつ)な空間で標本や資料たちは、いつか来るかもしれない出番を待っているわけです。

生き物の標本も人間と一緒でそれぞれ個性がある。本文中の言葉「いつか、誰かの、何かの研究に役立てるために、できる限りの資料を集めて、保管していこうという姿勢」、これが博物館の使命だそうです。そして「できる限り」の標本や資料を集めていることで、現在収蔵庫が手狭になってきているという課題もあるようです。

現在、生きている人は、100年後は生きている可能性があるかもしれないけれど、200年後には間違いなく生きていない。でも現在、持ち込まれた標本や資料は、きちんと管理すれば200年、いや300年後にも誰かの役に立てるかもしれない。ものすごい速さで物事が変化していくこの時代において、未来に向けて「変わらない」もののために思いをもって働く人たちがいる、そんなことを中学生の視点から素直に感じ取れるすてきな本です。(文・川村啓子 写真・猪俣博史)

博物館の裏側をのぞいてみよう<br>『ヴンダーカンマー ここは魅惑の博物館』

『ヴンダーカンマー ここは魅惑の博物館』 樫崎茜 著 理論社 1512円(税込み)

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PROFILE

川村啓子(かわむら・けいこ)

かわむらけいこ

湘南 蔦屋書店 児童書・自然科学コンシェルジュ。
読書といえば小説が主で大学も文学部、ずっと「人間のこと」ばかり考えてきましたが、このお仕事に出会ってからは「人間以外のこと」を思う時間が増えました。
今気になっているのは放散虫。「自然界は美しいものだらけです」。

 

PROFILE

蔦屋書店 コンシェルジュ

12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
●二子玉川 蔦屋家電
岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
嵯峨山 瑛(建築 インテリア)/中田達大(ワークスタイル)/松本泰尭(人文)
●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/重野 功(旅行)/羽根志美(アウトドア)
八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)

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