わたしの みつけかた

<4>違いを認め関係を築くこと~2人で行うねじりのポーズ

 

<4>違いを認め関係を築くこと~2人で行うねじりのポーズ

撮影/篠塚ようこ

ヨガの先生兼スタジオ・オーナーであり、作家でもあるリザ・ロウィッツさん。リザさんの自伝的小説“In search of the Sun”からご紹介する連載第4回は、文化や国だけでなく、育った環境、考え方など、誰かと関係を築く時に向き合わずにはいられない「二人の違い」に戸惑いながらも、魅了されていったリザさんのお話です。

ご主人様

「省吾と結婚するの?」と、智子。私が編集する詩集に参加している詩人で、友人でもある彼女には今までのことも全て話してきた。
「どうだろ?」と言ったのは本心から。「まだ聞かれたことないし、私も話に出さないからなぁ」
「誰でも一度は結婚してみるべきだと思う」と彼女。「じゃないと離婚もできないでしょ?」
それを聞いて思わず笑ってしまった。何よりも、私が恐れていることだったから。結婚の何が怖いって、離婚でしかない。

智子の結婚生活はほぼ順調そうだった。子供は1人。哲学の教授である夫と、しょっちゅう2人でヨーロッパ旅行に行っていたし。彼女自身は英語の教授で、詩も英語で書く。理由は日本語よりも自由に表現できるから、らしい。

智子が心配しているのは、かたくなに独身を貫いてきた私が、いずれ結婚する気があるのかどうかと、フェミニストのアメリカ人女性と日本人男性という組み合わせが、どうにもうまくいく気がしない、という二つなのだそう。「かたくなに独身を貫いてきた」つもりも、「フェミニスト」のつもりもなかった私は、むしろ驚いてしまっていた。

「例えば……『ご主人様』って呼ぶように言われるんじゃない?」
「そうかな。すごく変な感じがする。智子はどうしてるの?」ときくと、
「あなた……って呼んでる」と少し照れながら教えてくれた。
「それも、なんだかしっくり来ないなぁ」という私の正直な感想に、唇をとがらせた智子。気にしちゃったかな?

「いつか結婚するとして、そういう呼び方しなきゃいけないの?」と後日、省吾に聞いた時は、「考えすぎ」と一蹴された。
「私の主人は私にしかなれないんだから、ご主人様なんて必要ないよ」と言うと、「それでいいんだよ。君の人生なんだからさ」と省吾は返す。

異なる文化を抱きしめる

省吾の母、京子さんが自宅の庭にある茶室で茶会を開いてくれることになった。4種類の木材を使って、釘を一切使わない伝統工法に沿って作られた茶室。まるで屋外にいるみたいな気分でお茶を楽しめますよ、と京子さん。

「そこにいると全ての音が大きく聞こえるんです。梅雨の時期には繁殖期を迎えたカエルの鳴き声がにぎやかだし、夏には、最後の力を振り絞ってセミも大きな声で鳴きます。蒸し蒸しした日には蚊がブンブンやってくるし、冬になると、クモが巣を作るわ」

ちょうど桜が美しい春のことで、薄桃色の雨のように散る花びらを窓越しに見ながら話をしていた。
まずは躙(にじ)り口から中に入るのよ、と教えられた。武士であっても、刀を置かないと入れないほどの小さな入り口から、手をついて、頭を下げてにじり入ること。茶室に入る時には全ての人が同じように、謙虚さを示すのだと。
しゅるしゅると沸いたお湯をぶちまけたり、高価な抹茶茶わんを壊すんじゃないかとハラハラしていることを京子さんに伝えると、「ただの茶わんですから」と笑いながら言った。

お茶会の日。ついに、一人ずつ背をかがめて茶室に入り、畳の上に正座するときとなった。外の鹿おどしの音に耳を澄ませて、京子さんの一挙手一投足に集中する。茶筅(せん)の返し方や茶杓(しゃく)、抹茶茶わんの置き方、どれひとつ取っても、優雅で美しい動作だった。
かしこまってどこかぎこちない省吾のお父さんの横で、2人の妹綾乃と瞳は目をキラキラさせ、背筋をすっと伸ばして座っている。家族全員で茶室に集まるのは初めてなのだそう。
ここでの亭主は京子さんだ、と感じた。ちょうど、私の母にとって、日本風庭園が彼女の領域だったように。母の庭を数年前訪れた時と同じように、ゆったりと落ち着いた気持ちになった。

桜の花のような形をしたピンクの和菓子を小皿にのせて、私の目の前に差し出してくれる京子さん。しっかり味わってから、次にお茶わんを手に取り、省吾の見よう見まねで回して、苦い抹茶を口に含む。まだ舌先に残っている甘みと苦みが混ざり合い、流されて行く。最後の一滴を飲み干すと、茶わんをまた元の位置に戻して、改めて眺めた。彼女が私のために選んでくれたのは、土の質感がよく表れている備前焼だった。茶色の素地にところどころ釉薬が掛かり、少し歪んでいる。

家族それぞれがお茶を楽しみ、茶わんを愛でる様子を眺めて、静かに待っていた。みんなが飲み終わると、京子さんは両手をつき、ほっそりとした指先で三角形を作ると、その中におでこを休めるようにして、深いお辞儀をした。
私もそれに応えて、深くお辞儀を返す。彼女の世界に私を招き入れてくれたことに、私と省吾の出逢いを祝ってくれたことに、感謝せずにはいられなかった。

サヨナラは、言わない

当時、休むことを知らない東京時間に、私は正直疲れ切っていた。仕事依頼のファクスは昼夜なく届く。フリーランスゆえの、あり得ない締め切りの仕事もある。英語のクラスを教えるために朝4時に起きて、満員電車に揺られて移動しているうちに、お金は少したまったけど、体は完全に疲弊していた。カリフォルニアの空気が恋しかった。開(ひら)けた場所、ゆったりと流れる時間、きれいな空気。いまでは随分遠くに感じられるようになってしまった、西海岸独特のエネルギー。

蒸し暑い夏の日、省吾とお気に入りのイタリアンで食事をしていた時、ついにその計画を明かした。
「家に帰ろうと思うんだ」ゆっくりと、反対意見を待ち構えるかのように、話した。
「カリフォルニアに?」パンを半分に割ろうとしていた手を止めて、省吾がこちらを向きながら聞く。私はうなずきながらも、心はざわついていた。まだ日本を「家」と呼べない私にあきれているかな? 4年も経ったのに、まだ根をおろしきれていない私に?

「よく考えた上での結論みたいだね」
私がうなずくと、「分かったよ」と言った。
「分かった、って本当に?」もっと何かあるでしょ、と正直思った。
「本当に。誰も無理して幸せにはなれないからね」
「本当にそう思ってるの?」
「実際、本当に思ってる。ここに留まったら、君は幸せになれないんでしょ。君が幸せじゃないのなら、僕らは一緒に幸せになることもできない。家に帰るべきだよ。もし僕らが一緒にいるべき運命なら、また道は開けるから」

ほほ笑みながら、思った。なんて、完璧な答え。その考え方は素晴らしいと心から思うけれど、実際は、違う反応を期待していた私もいた。 本当は、もっと引き留めてほしかった。だって……そこまで考えて気づいた。私が省吾にそばにいてほしいんだ。

でも、パスタをフォークに巻きつけて口に運ぶ私を見つめる省吾の表情で、少し分かった。省吾は、日本人らしく感情表現を抑えているだけなんだ。でも私は日本人じゃないし、自分を表現することが当たり前の環境で育ったわけで、感情を抑え込む必要もない。
「もし一緒にいるべき2人なんだったら、いつか結婚だってするかもしれないね」自分で言ってビックリした。
「結婚?」省吾の両眉が上がる。
「そう」。言いながら、心から信じていない自分も感じていた。

「オーケー」静かにつぶやく省吾。でも、どこかうれしそうなのも伝わってきた。どちらにしろ、まだまだ先のことなのは間違いない。
突然、省吾はテーブルの上に身を乗り出すと、私にキスをした。
ビックリして、辺りを見回す。まだ外でキスする人たちを見かけることは少なかったし、こんな小さなレストランではなおさらだった。

その後の数週間は、お互いにその話はしないようにしていたけど、私の心は決まっていた。アメリカに帰ると決めてしまうと、日本での細々としたことが、余計気に触るようになった。言葉や文化の壁だったり、保守的で、それでいてあいまいなところや、何事を進めるにも、時間がかかって、カリフォルニアだったらきっともっと簡単にことが進むはず、と思うようになってしまっていた。

最後の日、省吾が空港まで見送りにきてくれた。
サヨナラは、言わない。
代わりに、ごきげんようという言葉を教えてくれた。
それは「きっとまた逢えるね」の意味だと、後から知った。

リザのヨガ・ティップス:2人で行うねじりのポーズ~パートナー・スカーサナ~

パートナー同士向かい合って、もしくは背中を合わせて行う、ねじりのポーズです。股関節と背中の緊張を解く安楽座のポーズを2人で行うことで、効果もより大きくなります。
ひとつの方向にねじって、10呼吸ほどしたら、足を組み替え、反対方向にねじりましょう。
自然な呼吸で、時にはパートナーと呼吸を合わせても良いかもしれません。

「スカ」はサンスクリット語で「楽」(易しい、安楽、楽しい)を意味します。簡単なポーズをパートナー同士で行うことで、喜びも倍増します。

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

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