鎌倉から、ものがたり。

土曜の夜は参加自由。ひろがる鎌倉「まちの社員食堂」

>>「まちの社員食堂」前編から続きます

 週末の鎌倉駅西口。御成商店街からすぐの路地にある「まちの社員食堂」で、土曜の夜恒例の立ち飲みバーイベント「タイムカード」が開かれている。この日の一日店長はNPO法人「鎌倉てらこや」理事長の上江洲愼さん。沖縄県出身の上江洲さんにちなみ、久米島の貴重なローカル泡盛が持ち込まれ、生春巻きをつまみに、場が盛り上がる。

平日は鎌倉在勤者に限るが、週末のイベントは誰もが参加自由。昼も夜も週末も、相席をきっかけに出会いが広がり、会社や所属を超えて、みんなが仲良くなる場として機能する。2018年4月にオープンした「まちの社員食堂」は、まちづくりに関心の高い人たちのコミュニティ拠点としても、すっかり人気となった。

この試みをはじめたのが、「カヤック」代表取締役CEOの柳澤大輔さん(44)。同社は「日本的面白コンテンツ」の開発を主力に、「面白法人」を名乗る株式会社。2014年には、東証マザーズに上場を果たした。柳澤さんは、新感覚起業家の代表選手なのだ。

カヤックでは、資本主義を肯定しながら、その先にある、よりよい形を模索してきた。

「今、資本主義が直面している最大の課題は、地球環境汚染と、富の格差の拡大だと思います。新しい資本主義を考えるとしたら、その問題を解決して、人の幸せ度を上げるものでなければいけないと思うのです」

その思考と実践から生まれた概念が、「地域経済資本」「地域社会資本」「地域環境資本」に立脚する「鎌倉資本主義」。シンプルに表すと、それぞれ「何をするか」「誰とするか」「どこでするか」をバランスさせる、経営の新しい指標のことだ。

「僕たちが本社を鎌倉に置くのは、鎌倉が好きだからということも大きいのですが、地域の創生に取り組むことが、資本主義の持つ課題の解決につながると考えているからです」

鎌倉は東京から少し離れていても、海、山といった自然、歴史や文化的知名度など、魅力的な要素がそろっている。観光地として、よそからの人を受け入れることに慣れているし、コミュニティ構築の動きにも敏感だ。

カヤックは、そんな鎌倉の利点を最大限に引き出そうとしている。

「これからは、町に点在する古民家をもっと借り、多拠点にして、町全体をオフィスのようにしようとしています。社員は会社の廊下ではなく、通りを歩いてすれ違う。それぞれの拠点に会議室を置いて、そこを移動すれば、僕たちにとって運動にもなりますよね」

「まちのシリーズ」は、構想を走らせるOSともいえる。2018年4月には、「まちの社員食堂」に先駆けて、「まちの保育園」を開園。ここでは、鳩サブレーで有名な鎌倉の老舗菓子店「豊島屋」と組み、それぞれの会社の社員だけでなく、広く鎌倉在勤、在住の人たちの子どもたちを受け入れている。

まちのシリーズでは、鎌倉で働く人を増やす「まちの人事部」も、すでに立ち上げた。次は町の各所で映画上映を行う「まちの映画館」をはじめ、「まちの社員寮」「まちの大学」「まちの保健室」など数々の試みを企画中だ。

地域事業は、ひとつの成功例があっても、地域特性に立脚するパターンが多く、応用性に乏しい弱点があった。しかし、柳澤さんが取り組む「まちのシリーズ」は、地域で仕事をする人、暮らす人が「地域を愛する気持ち」と「面白いこと」を媒介に、助け合い、補い合う仕組みで、全国、全世界的に応用が可能だ。

地域社会が人口減や空き家問題におびやかされる今。鎌倉発の試みが、各地に広がっていくことを望みたい。

まちの社員食堂
神奈川県鎌倉市御成町11-12

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

鎌倉の人気レストランが集結「まちの社員食堂」

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