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ユキ・トリイと尾州ツイード 色合わせはジャズ風

モード×匠

ユキ・トリイと尾州ツイード 色合わせはジャズ風

ユキ・トリイの2018年秋冬コレクション=大原広和氏撮影

小粋で華やかな作風で知られるユキ・トリイは、カラフルで微妙な色合いのミックスツイードを得意とする。その糸染めから織物に至るまで一貫して担うのが、尾州(愛知県西部と岐阜県の一部)のツイードメーカー、ミロスだ。1970年に創業。祖父、父に続いて3代目の鈴木憲治社長(57)が、92年から背負って立つ。

「これまで1万品目のツイードを世に出してきた」と鈴木社長。社内には生地見本が一面に広がり、生地のプロが入ったら最後、興味深くて出られなくなるので「樹海」と呼ばれるスペースがある。一般にツイードの価格は1メートル約1500円だが、ミロスはその倍以上の高級地を扱い、海外ブランドの服に使われたことも。

ユキ・トリイと尾州ツイード 色合わせはジャズ風

ミロスの鈴木憲治社長=愛知県一宮市

染めから織りまで ユキ・トリイの挑戦支える

ユキ・トリイとの仕事は、鈴木社長いわく「気が遠くなるような作業」。まず、色や柄、風合いを凝らした生地見本をデザイナーの鳥居ユキに送る。子供の頃からツイードを見て育てた感覚や「樹海」が頼りだ。

鳥居はシーズンのイメージに合う色を求めて、よられた糸を1本ずつほぐし、構成し直して鈴木社長に返す。その後はコンピューターで組織を再構成した印刷物を鳥居に送り、オーケーなら、時に縦糸と横糸を合わせて30色、15種もの糸を1本ずつ染めてから、1着分の生地を織って見本を作る。この間約1カ月。鳥居が納得して注文が出ればようやく反物にする。

ユキ・トリイと尾州ツイード 色合わせはジャズ風

(左)ミロスのツイード地の糸と生地見本(右)ユキ・トリイが使うミロスのツイード

鈴木社長は鳥居の色指定を「わざと半音をずらすジャズプレーヤーのよう」という。たとえば普通は黄色の地に茶を合わせるが、鳥居は茶の地に黄色。ショーで他のアイテムとコーディネートされた時に初めて意図が分かるような色合わせになるという。ミロスが依頼する機(はた)屋の眞野宗雄さん(72)は「生地の9割はやにこい(方言でやりにくいの意)」と笑う。

ユキ・トリイと尾州ツイード 色合わせはジャズ風

ミロスのツイード製ジャケットを着た鳥居ユキ=東京都港区、篠田英美撮影

鳥居は「独特の表情と若々しい雰囲気という私の挑戦に応えて、面倒なことをやってくれる貴重な存在。普通は無理と断られる」。

海外の有名ブランドの多くは出来合いの生地を使うが、日本ではデザイナー独自の生地を協業で製作できる場合が多い。「自分の“好き”を突き詰めることでユキ・トリイの作品になる。互いに手作業で、コスト重視だけではない、大事に作ったいい生地。長持ちするんです」という。

尾州は、日本の毛織物の代表的な産地で世界でも有名だ。糸から織物までの工程を地域内で分業し、多品種を短期に少量生産できることを利点に、古くから発展してきた。しかし最近は日本の産地のご多分にもれず、職人の高齢化や安価な中国製への移行などから疲弊し、地元の尾西毛織工業組合によると、出荷量は60年代半ばをピークに、現在は約10分の1に減ったという。

複雑で独特の織り方ができる織機も古びて故障が絶えず、部品を特注してやっと動かしている。鈴木社長は語る。「そんな状況なのに、10歳の息子がパパの後を継ぎたいと言うのです。息子たちの時代までにもう一度産地に輝きを取り戻さなくては。そのために皆で協力して新しい存続の形を探していきたい」

(編集委員・高橋牧子)

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