このパンがすごい!

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

ホワイトブレッド

 ミシン目の上を歯がたどって、ぷつぷつと難なくちぎれていく。そんなイメージを抱くほど、ヨシダベーカリーの「ホワイトブレッド」という食パンは、超絶やわらかい。中身は、大きめの気泡をはらんでエアリー。発酵バターがふわーっと香り、しっとりとろけ、清らかに麦が香る。砂糖の甘さはそれほどでなく、それだけにすいすい喉(のど)を通る。薄い皮は悶絶(もんぜつ)もので、ほろほろ崩れる新食感はパイ生地のようだ。

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

ホワイトチョコとカモミール断面

「ホワイトチョコとカモミール」は、魔女の薬草のようにカモミールが香り、生地とホワイトチョコがまったりとろける。ホワイトブレッドと同じ生地を白く焼いたもの。手のひらの上の小鳥のように、軽やかで、ふるふると震える。体験したことのないような、新しいやわらかさ。

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

店内風景

 白い外観に、白い陳列棚のおしゃれな店。真空管アンプからいい音で音楽が流れる。シェフの吉田稔さんは、たったひとりでパンに向き合う。やわらかな食感を作りだすのに巧みな人。彼の手にかかれば、やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンさえもやわらかくなってしまう。

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

みかんとクルミ、晩柑ピール

「みかんとくるみ、晩柑(ばんかん)ピール」は、細長いハード系のパンだけに乾いてぱさぱさになりがちなところを、もっちりぷにゅっとして歯と歯の間で揺れ動く。かりりといい音がして、一気に歯切れる。パンの皮とくるみがダブルで香ばしく、愛らしい甘さのみかん、沁(し)みわたるような酸味の晩柑ピールというダブルの柑橘(かんきつ)感がすばらしい。

「ハード系が硬いもんだと思いこんでいる方がいらっしゃいますけど、意外とやわらかいんです。このパンの場合、イーストを少し多くして軽くしています」

 先述のホワイトブレッドのやわらかさも、職人技で作りだす。水分を多くし、ミキシングを少なめに(だが少なすぎもせず)、成型のときやさしいタッチで行ったり。

「そういうふうに最初から最後まで作ります。いろんなところでそういう方向にいくように」

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

ミルクフランスを開いたところ

「ミルクフランス」と「ミルクスティック」は、同じクリームで生地がちがう同士。ミルクと麦のマリアージュを2種類のやり方で示す。

 ミルクフランスを噛(か)めば、乾いた皮がばりんばりんと割れまくる。ミルクの風味がやさしく広がり、とろけたミルクはバゲットの乾きを潤し、麦の香ばしさとミルクが合わさると、ミルキーさの幸福はネクストレベルに到達する。

 ミルクスティックのパンはもちもちコッペ。ぱふんと弾んだかと思うと、クリームが溶けて、ミルキーさが一気に広がる。ふにゃーとパンはとろけ、小麦の旨味(うまみ)や香りがどんどん高まる。すると、クリームと交錯し、コッペと牛乳をいっしょに食べたときのなつかしいおいしさが口いっぱいになる。

 ミルクフランスはバゲット生地、ミルクスティックは角食の生地。砂糖の甘さに逃げず、小麦自体の風味をだし、かつ北海道産小麦を駆使して、バリエーション豊かにおもしろい食感を作りだす。

「プレーンなもので、どれだけいろんなテクスチャを出せるかを考えています。毎日同じもの食べるより、いろんなパンを食べるほうが楽しいじゃないですか。作るほうもうれしいですし」

やわらかいパンはよりやわらかく、硬いパンもやわらかく/ヨシダベーカリー

店内風景

 ワードローブから服を選ぶように、毎日好きなパンを選ぶ。サンドイッチなら、料理する手間もなく、そんな楽しさを実行に移せる。ワイン好きの吉田さんらしく、お酒にも合うような、他の店ではちょっと見ない個性派が並ぶ。

「ツナのトマト煮とナスのサンドイッチ」は、ツナとトマトソースという、海と畑の旨味が出会ってスパーク。ナス、タマネギ、パプリカと、窯でローストした野菜がすごく甘い。使用されるのは「全粒粉と発酵バターのフォカッチャ」。もっちり噛みしめる快楽。フォカッチャといえばオリーブオイルなのに、このパンであふれかえるのは、全粒粉とバターのコク。掟破りの肩透かしが、心地いい。

 少し材料を変え、生地の扱いや発酵の取り方を変えただけで、わくわくするバリエーションが生まれる。吉田さんのパンから伝わってくるのは、そんな楽しさだ。

>>続きは画面下のギャラリーへ

■ヨシダベーカリー
東京都杉並区久我山2-23-29 ハイネス富士見ケ丘1F
03-6326-2754
11:00~19:00
日曜・水曜休
https://www.facebook.com/yoshidabakery/

<よく読まれている記事>

 

<バックナンバー>
このパンがすごい!

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

『孤独のグルメ』原作者に教わった、ときどきしか開店しないパン屋/パン屋 tOki dOki

トップへ戻る

駅前でリヤカー売り、バゲットもハムも自家製の極上サンドイッチ/シャポードパイユ

RECOMMENDおすすめの記事