上間常正 @モード

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

わたしの服の見つけかた クレア・マッカーデルのファッション哲学(クレア・マッカーデル 著、矢田明美子 訳)

ここ数年、大人世代の女性に向けた服選びや装い方を提案する本や写真集が増えている。書店などでは特設コーナーでまとめているところもあって、表紙や付録品が目立つファッション誌のコーナーとは異なる落ち着いた雰囲気を醸しだしている。そんな中で去年11月に刊行された「わたしの服の見つけかた クレア・マッカーデルのファッション哲学」(アダチプレス 1800円)が飛び抜けた異彩を放っている。

類書の多くはスタイリストやモデル経験者、バイヤーなどによるものだが、この本はデザイナーで、それも一般にはあまり知られていないがファッション史に残る伝説的な存在の手によって書かれていること。そして本のサブタイトルにあるように、服の選び方や着方の提案だけではなくて、服を選んで着ること、またファッションとはどんなことなのかを、実例で分かりやすく示しているからだ。

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

クレア・マッカーデルは、米メリーランド州で1905年に生まれた。ニューヨークのパーソンズデザイン学校でファッションを学び、1930年代からデザイナーとしての活動を始め、アメリカを代表するデザイナーとして活躍した。当時はファッションといえばパリのオートクチュール(高級注文服)が主流で、アメリカはまだ発展途上の周辺国とみなされていた。マッカーデルは最初から量産できる既製服のデザインだけを手がけた。パリでもプレタポルテ(高級既製服)が主流になったのは1960年代末ころからなので、マッカーデルは30年くらい先んじていたことになる。

彼女は、上流の女性を対象としたパリのファッションとは違って、アメリカの普通の働く女性や主婦、学生向けの機械生産を前提とした服をデザインした。そして、使いやすく着心地がよく、しかも美しい服を目指していた。そうした考え方とできた服は、今でも通用するというより、むしろより一般的になっていると言ってよいだろう。

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

黒いウールジャージのベビードレス(1946年) 体を締め付けなくてもエレガント。 「わたしの服の見つけかた」より

本ではまず、「服は着て、生活するためのもので、完璧な体形のモデルがランウェーを歩くためだけのものではないのです」。そして、ファッションとは? その答えを探すために一緒に考えてみましょう、と提案する。続いて「あなたがする(do)こと、それがファッションを作るのです」と結論を暗示するような言い方をしてから、具体的な説明を続けていく。

一貫したポイントは、流行やトレンドよりも自分らしさ、自分に似合う服を探すこと、しかしそのためには冒険してみることが必要で、やらないで思い込みに捕らわれていてはいけない、ということだろう。服を選ぶ前に自分を理解することが求められ、私は○○タイプと決めこんでしまうのは自分を苦しめるだけだという。「ひとつだけ絶対に言えることは、あなたの着るものはあなたの人生に影響を与えるということです」

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

ディナーシャツとスカート(1955年)腰にサッシュベルトをつければロングドレスに見える。 「わたしの服の見つけかた」より

ファッションは人生と同じように、常に変化し続ける流れの中の現在ということでしかない。未来は予測が不可能だが、だからこそ生きているときめきがある。パリ発のトレンドにはそうしたときめきが表現されていることも少なくないので、マッカーデルはトレンドに全く無関心なことも勧めてはいない。自分に合うトレンドならそれを選んで自分なりの〝マイトレンド〟にすればよいという。

だからといってその度に服を買う必要はない。たとえばベルトやスカーフ、手持ちの靴やアクセサリーを使って表現してみればいいという。ドレスならベルト使いでラインの印象を全く変えられる。トレンドの色も手持ちのスカーフやアクセサリーの中から探すこともできる。

いまもっと必要な、クレア・マッカーデルの半世紀以上前の装いの提案

ポップオーバー 服の上からも着用できるラップドレス。 「わたしの服の見つけかた」より

マッカーデルは、家で開くパーティーのためにコック役ともてなし役の両方で着られる「キッチンディナードレス」、エプロンにもバスローブにもディナードレスとしても使える上着としての「ポップオーバー」など、シンプルだが多目的に使える服を数多くデザインしているが、この本では服以外のアクセサリー類についての知識のていねいな説明に多くのページを費やしている。

もうひとつ重要なことは、彼女はあくまでアメリカ人の生活スタイルや文化に適したデザインに徹していたことだ。「ニューヨークのすてきな女性がシャンゼリゼ通りのための装いで5番街を歩くなんて理解できない」と語っている。だから、日本の女性はまず日本の文化や現代の生活スタイルに合った装いを考えなくてはいけない、ということだろう。

そして自分はどんな生活をしてどんな価値観をもっているのか、何が似合うのかと考えて、それを表現するためには思い切って試してみることが必要なのだ。画一的なスーツに頼っている日本の男性には、冒険はもっと必要なのだと思うのだけれど。

PROFILE

上間常正

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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