スリランカ 光の島へ

<14>友達ゼロ、孤独と劣等感と闘った1年間

&wの連載「ブックカフェ」やインタビューでもおなじみの写真家、石野明子さんが2017年、30代半ばにして移住したスリランカでのライフスタイルを伝える「スリランカ 光の島へ」。今回は、海外に移り住む人が経験する、現地になじむまでの言葉と心についてのお話です。

 
中学校1年の冬、小早川りなちゃんは両親に聞かれた。
「お父さんの職場がスリランカになります。家族みんなでスリランカに引っ越すか、お母さんと弟とこのまま日本に残るか。どっちがいい?」

スリランカが一体どこかもわからない。けどいつかお父さんのように海外に出る仕事に就いてみたい、それになんだか世間は英語が話せるようになった方がいいという雰囲気。スリランカではインターナショナルスクールに通うということもあり、英語を学ぶチャンスだと思いりなちゃんはスリランカに行くことを選んだ。

引っ越して1週間もたたないうちに新しい学校生活が始まった。父には「わからなかったら、I don’t understand.(わかりません)と言いなさい」と言われていた。最初は苦労するだろうと思っていたが、現実は予想を上回る過酷さだった。

先生の言っていることがわからないから授業にもついていけない。クラスメートは話しかけてくれるけど、何を言っているのか全くわからない。「I don’t understand」を連発するりなちゃんにクラスメートもどうしたらいいかわからず、だんだんと離れていってしまった。誰かが冗談を言っても、理解できないから一人笑えない。

りなちゃんからだんだん笑顔が消えていってしまった。今まで感じたことのない孤独に自分自身で驚いた。「こんな情けない自分は見たことない。日本では友達もいたし、勉強も問題なかった。でも自分を紹介する簡単な言葉も出てこない」。毎日家に帰るまで泣くのを必死にこらえた。

<14>友達ゼロ、孤独と劣等感と闘った1年間

家に帰って両親にあたることも多くなった。あまりにも辛そうなりなちゃんの様子を見て両親は聞いた。「日本に帰る?」でもりなちゃんは「帰らない」と。自分に負けたくなかった。このまま帰ったらもっと自分が嫌になってしまうと思った。支えになってくれたのは、英語がネイティブじゃない生徒が受ける英語の補習クラスの先生、りなちゃんの表情から気持ちをくみ取って寄り添ってくれた。日本では小説を読むのが好きだったりなちゃん、その先生のアドバイスもあって英語の小説を読むようにした。

「自分に負けたくないってこともあったけど、本当に友達が欲しかった」。その原動力でとにかく英語に浸(つ)かってがむしゃらに。1年ほど経った頃、だんだんまわりの皆が何を言っているのか理解できてきた。誰かが言った冗談に笑えるようになった。そんなりなちゃんの様子を見ていたんだろう、クラスメートたちとの距離がどんどん縮まった。そして友達ができた。学校での授業も楽しいものに変わっていった。
「日本と授業の形式が全然違う。先生の言うことに受け身じゃなくて、皆自由に発言する。そうやって授業ができていく」

定期的に議論の時間もあるそうだ。
「前にLGBTがテーマの時もあった。クラスに一人いるんだけど、その子はその授業の前から公表してたよ。でも皆、ふーんそうなんだ、ぐらい」
りなちゃんは実は内心驚いたそうだが、「その子は変わり者でもないし、自分たちと変わらない。ああ、そっか、そういうことなんだ」と、すとんと理解できた。

「スクールカーストはある?」と聞くと「あるにはあるけど、それでもめるとかいじめはない」。何が日本と違うの? 「皆、自分のことをよくしゃべる。こんな本を読んだ、とかこんなことした、楽しかった、とか。決して他人に興味がないっていうことじゃなくて、自分はこんな人間ですっていう方が大事みたい。比較されないのがすごくラクだよ」

そんなとき、お母さんの言った一言にりなちゃんのアゴが外れた。
「女は少しバカな方がモテる」。とても残念だけど日本ではそれが本当だった時代もあった。
「何それ?ってびっくりした。そんな発想があることが信じられない。でももしかしたら今みたいに視野が広がっていなかったら、偏見やそんな考えの方を普通だって思ってたかもしれない」

<14>友達ゼロ、孤独と劣等感と闘った1年間

私たちは娘が1歳過ぎたあたりから、スリランカのローカルの保育園に預けている。きっと想像以上に彼女もパニックだったんだと思う。3歳になった今は日本語、英語、シンハラ語(スリランカの母国語)を混ぜたおしゃべりをしている。そしてブッダに捧げるお祈りの歌まで歌ったりする! 乗り越えてくれた娘に感謝しかない。

りなちゃんがスリランカに来て2年が経つが、当初からりなちゃんの高校入学に合わせて、今年の春に家族で帰国することを決めていた。「もっとスリランカのこの学校で勉強したかった。最初の1年は地獄だったけど、それを乗り越えた自分が誇らしいし、もっと世界を知りたい。それにちょっとした困難じゃもう驚かないし(笑)」と、りなちゃん。

子供は言語が上達するのが早いとよく言うけれど、本人たちにとってはとてつもなく過酷な日々。劣等感に耐えるのは大人だって苦しくてたまらない。でもりなちゃんは地獄を乗り切って、新しい世界を手に入れた。つい逃げ出したくなるとき、嫌なことから目をそらしたくなるとき、りなちゃんのことが浮かぶ。自分もその強さを娘にも教えることができるだろうか。娘よ、世界は広いぞ。

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。

http://akikoishino.com/

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