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旅のお供に、ハードボイルドと時代小説がいい理由。
『内調特命班 邀撃捜査』ほか

海外旅行は私の生活の一部になっていて、マグロのようにじっとできず、毎年不定期に、その時々に気に入った、主に近場のアジア諸国をふらりふらり回遊(?) するのを楽しみに過ごしてきました。マグロは常に泳ぎ回らないと窒息してしまうそうですが、私も「海外旅行がDNAの一部で、長く海外旅行に出ないと窒息しそうな生活に陥る」と自称しています。

なーんにもしないでビーチかホテルのプールで冷たい飲み物を置いて一日中本を読んで過ごす、のが最高のぜいたくだと信じてお気に入りの本を持って出かけても、実際には、またちょこまかとおいしいもの、珍しいものを探して動き回ってしまったと悔やみながらの帰国……。毎回反省しながらも、絶対的必需品として持って行くのがハードボイルド系と時代小説で、飛行機の中、現地でグダグダと昼間から寝っころがっている時、一人で食事を楽しんでいる時など、片時も手放せないのが文庫本なのです。

ハードボイルドと時代小説の共通項
今野敏さんの『内調特命班 邀撃(ようげき)捜査』と、鈴木英治さんの『口入屋用心棒 御内儀の業』。この2冊はちょっと見ると、ハードボイルドと時代小説という妙な組み合わせに感じられるでしょうが、私の中では多くの共通項がある本です。

まず、どちらも舞台が現実からちょっと離れています。ハードボイルド本は、日本に潜入してくるアメリカからのテロリストに対抗して、日中の武術家をまとめ上げる日本の内閣情報調査室官が、警察をも超えて痛快に事件を解決していく話。明晰(めいせき)な頭脳と大胆な行動力を備えた主人公になり切り、あたかも強くなったような感じで、ピンチには頼もしい仲間に助けられながらミッションを達成する疑似体験ができます。

時代小説は、主人公の樺山富士太郎が南町奉行所同心らしからぬ、やさしい話し方で周囲の者や相手を思いやりながらも、鋭い観察眼で事件を解決していきます。同じ日本でありながら現代とは全く異なる世界であり、「本当はこんなしゃべり方じゃないはずだ」とか、「私が今この時代に放り込まれたら右も左もわからないだろうな」とか、勝手に時代考証をしながら読み進めるのが楽しい。

また、どちらも主人公が出会う相手をその言葉や態度から信用できるか、味方になりうるかを心理描写も含めて見きわめていく推理力と、行動力の鋭さにトキメキを覚えます。勧善懲悪を貫きながら仲間をめでる優しさと、物語を取り巻く人々の心理描写が秀逸で心地よく、読後の爽快感と登場人物と同期していく快感がたまらず楽しいのです。

読んでいてぜいたくな時間だなと感じる必要不可欠な要素を十分兼ね備えた、いま一番お薦めのマイブーム作家お二人の新刊本です。

(文/重野 功 写真/猪俣博史)

旅のお供に、ハードボイルドと時代小説がいい理由。<br>『内調特命班 邀撃捜査』ほか

『内調特命班 邀撃捜査』今野敏 著 徳間文庫 679円(税込み)

旅のお供に、ハードボイルドと時代小説がいい理由。<br>『内調特命班 邀撃捜査』ほか

『口入屋用心棒 御内儀の業』鈴木英治 著 双葉文庫 720円(税込み)

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12人のブックコンシェルジュの皆さんに、
そのとき、一番おすすめの本を週替わりで熱くご紹介いただいています。
●代官山 蔦屋書店
間室道子(文学)
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岩佐さかえ(健康 美容)/大川 愛(食)/北田博允(文学)
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●湘南 蔦屋書店
川村啓子(児童書 自然科学)/重野 功(旅行)/羽根志美(アウトドア)
八木寧子(人文)/若杉真里奈(雑誌 ファッション)

重野 功(旅行コンシェルジュ)

2014年12月オープン時より、湘南蔦屋書店に旅行コンシェルジュとして勤務。旅の企画・販売、海外駐在、添乗員、海外ホテルの窓口、在日政府観光局、JICAシニアボランティアなど観光を支える「作る側」を経ると共に、アジア・南太平洋を中心に40カ国以上「旅する側」を実践する旅大好き人間。

猫という生き物との不思議な暮らし 『退屈をあげる』

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北極圏の冒険を通して気づく、生きるという神秘<br>『極夜行』

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