川島蓉子のひとむすび

<60>伝統の「丸み」を家具に、器に。吉田龍太郎さん「タイム&スタイル」

「東京ミッドタウン」や「玉川高島屋SC」などに店を持ち、家具を中心としたライフスタイルを提案しているのが「タイム&スタイル」。1997年自由が丘に登場した時は、家具ブームの先陣を切ったショップとして脚光を浴びました。その後、家具に限らず器や布類も含め、暮らしにまつわるものがそろったショップとして定着。私にとっては「今日は何に出会えるだろう」と訪れるのが楽しみな場のひとつになっています。

<60>伝統の「丸み」を家具に、器に。吉田龍太郎さん「タイム&スタイル」

社長を務める吉田龍太郎さんとは、自由が丘時代からのご縁で、折りに触れて話を聞いてきました。穏やかな語り口ながら、日本のモノ作りについて話し始めると止まらない! 「千年以上にわたって伝えられてきたモノ作りの技と精神は、世界でも類いまれなもの。何とか伝えていきたいと思っているのです」といつも熱く語ってくれます。

「タイム&スタイル」のモノ作りの特徴は、徹底して“メイド・イン・ジャパン”にこだわっていること。日本各地を吉田さんが巡り、これぞと思った職人さんとモノ作りして、海外の展示会に出したり、自分の店で売っているのです。

これは、そう容易なことではありません。富山県高岡の鋳物作りの職人さんと作ったのは、真鍮(しんちゅう)の脚を備えたテーブルです。「もともと高岡は仏具に使われる鋳物の産地ですが、すばらしい技術を持っているのに、時代の趨勢(すうせい)とともに需要が減り、廃れていっているのです」と吉田さん。耐久性があって重量に耐える真鍮やブロンズの特徴を生かし、テーブルの脚を作れないかと考えました。

さっそく、職人さんに話を持ちかけたのですが、「作っても売れるはずがない」と否定的な反応。めげずに何度も足を運び、一緒に手を動かしたりお酒を飲んだりしながら、徐々に信頼を得ていきました。「電話で話しても埒(らち)があかないので、クルマを5時間くらいぶっ飛ばして高岡まで行ったこともありました」と懐かしそうに語っています。

鈍い輝きを帯びたブロンズの脚を持ったテーブルは、どっしりとしたたたずまい。強烈な個性や主張が立ち過ぎていないので、家にあったら長年にわたって愛用しそう――さりげない存在ながら、暮らしを豊かに彩ってくれる、古臭さに陥らないモダンさを備えています。

<60>伝統の「丸み」を家具に、器に。吉田龍太郎さん「タイム&スタイル」

木とブロンズの組み合わせが、空間にしっとりした落ち着きをもたらしています

でも吉田さんは、最初から“メイド・イン・ジャパン”にこだわっていたわけではありません。スタート当初は、シャープな角を持ったクールなたたずまいの家具を作っていました。が、ある頃から「そういう家具は空間を緊張させるのでは」と感じるようになったといいます。

工場に出向いて、熟練した職人に教えてもらいながら、カンナで削ったりサンドペーパーをかけたりという工程を自ら体験。丸みをつけた家具の方が、やわらかでありながら耐久性も備えているということから、「タイム&スタイル」の家具は、丁寧な手仕事で丸みをつけた家具に生まれ変わりました。

その熱が高じて、北海道の旭川に、自社の製材所と家具工場を構え、家具については、素材から製品まで一貫して作ることができる設備を整えました。

滑らかな曲面を作るには、精緻(せいち)な技術に加え、限られた職人が備えている勘や案配が要されます。「この感覚は日本の職人だけが持っているもの。丁寧で誠実な仕事が支えているのです」と吉田さん。

実際、繊細な丸みは、見た目にやわらかい印象を与えるだけでなく、手や身体が触れた時に温かさを感じます。だから意識していなくても、自然とダイニングテーブルの縁に手をあてたりしていて――少し大げさに言えば、そういう心地良さをもたらしてくれるモノ作りが、日本には脈々と生き続けてきたのだと思います。

<60>伝統の「丸み」を家具に、器に。吉田龍太郎さん「タイム&スタイル」

カンナを使った手仕事は、機械では決して出せない滑らかな質感。何しろ手触りが気持ち良いのです

それは家具に限らず、器類も同様のこと。木曽のヒノキを使った春慶塗の重箱は、長きにわたって伝えられてきた丁寧な手仕事によるもの。通常の漆器の重箱は、何度も漆を塗り重ねるので木の素地は見えないのですが、春慶塗は、300年に及ぶ極上のヒノキが素地。その美しい木目がうっすら透けて見える独特の手法なのです。

ほれ込んだ吉田さんは、職人さんに依頼して、従来のものより少しサイズを小さめに、少し角をシャープにした重箱を作ってもらいました。かっこいい今風のデザインに仕立てたのではありません。「今の暮らしの中で使われる」ことに加え、「国内だけでなく海外でも通用する」という視点を入れているのです。

<60>伝統の「丸み」を家具に、器に。吉田龍太郎さん「タイム&スタイル」

熱いものに強いので、おせちに限らずさまざまな用途が考えられそうです

一昨年、アムステルダムに4フロア900平米にわたる広大なお店を作ったのも、「世界に向けて日本のモノ作りを」と考えてのことです。尖塔を抱いたレンガ造りの建物は、1888年から130年の長きにわたって警察署として使われ、オランダの歴史保護建造物に指定されているもの。

オープン時に取材で訪れた時は、正直言って「こんな立派なお店を作ってしまって大丈夫なのか?」と心配しましたが、海外経験が豊富な吉田さんの見る目は確かで、着実にお客さんがついています。昨年12月に訪れた際は、陶芸家である田中信彦さんの展覧会が開かれていましたが、予想以上の反応を得て、多くの作品が売れていました。

長きにわたって伝わってきた日本の技を、今から未来へとつなげていく。送り手である職人さんの仕事の価値を、使い手となるさまざまな人へ伝えていく。「つなげる・伝える」仕事を、手間ひまかけて続けているのが吉田さんの仕事です。

よどみなく語り続ける吉田さんの話を聞いていて元気になるのは、内に誇りを持ちながら、しかしあくまで謙虚に、果てしない壁を上ろうとしているから。こういう存在が、時代を切り拓いていくのだと感じました。

■TIME & STYLE(タイム&スタイル)

PROFILE

川島蓉子

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

<59>ビームス「フェニカ」と、新潟「鯛車」の出会い

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