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京友禅の技、飛び散る絵の具も再現 ミナペルホネンの布

モード×匠

職人が機械を動かすと、白い布に、音楽を奏でるようにたゆたう黒い線が現れた。半自動の捺染(なっせん)機で、型の上から色のりを生地につける。職人は生地がゆがんでいないかなど丹念に目をこらし、のりを足す。

京友禅の技、飛び散る絵の具も再現 ミナペルホネンの布

ミナペルホネン2019年春夏の「rain track」を見る西田庄司社長=京都市南区

花や風景など絵画のような生地が温かみを感じさせるミナペルホネンのプリントものは、10年ほど前から京都市の西田染工を中心に作っている。京友禅の技を生かし、デザイナーの図案を布に忠実に再現する。西田庄司社長(51)は「機械を補うのは人間の目。一番大事なのは気づきと修正です」と話す。

色のりをつけた生地は、発色させるため蒸し専門の工場へ。さらに別の工場でのりを落とし、柔軟加工する。染工場が旗振り役となり、複数の工場の力を合わせて布ができる。

かすれた線、インクが飛んだようなしみ。染めていた布は、今年の春夏物「rain track」だ。

京友禅の技、飛び散る絵の具も再現 ミナペルホネンの布

「rain track」Photo by Yayoi Arimoto, Model:アオイヤマダ

ミナペルホネンの布、職人の経験値で

図案はデザイナーの皆川明(51)が、デザインチームの若手らを前に即興的に描いた。画用紙をスタッフが持ち、ストライプを描きながら、紙を傾けてもらうことで絵の具が流れ、偶然性をはらんだ線が生まれた。皆川は「普段は時間をかけて緻密(ちみつ)に描くことも多いが、それだけがデザインではない。僕らも次の世代にデザインを理解してもらいたい時期で、ワークショップのような機会でもあった」。

京友禅の技、飛び散る絵の具も再現 ミナペルホネンの布

ミナペルホネンの皆川明

皆川の依頼は「飛び散った表情も、忠実に再現を」。西田社長はまず、型を彫る型屋と相談する。「紙の図案通りに染めると、布では大きさが変わるかもしれない」と、小さなしみ一つにしても細かく詰める。生地と色の指示を受け、色見本と照らし合わせながら適した染料の配合データを探すのが、西田社長が「染工場の要」と言う配色室だ。「アナログです。この生地ならどう染まるか、人間の経験の蓄積にかかってくる」。西田染工では、大判の布をプリントする機械と、職人の手による染めとを手がけており、ミナペルホネンの布はどちらの方法も使う。

京友禅の技、飛び散る絵の具も再現 ミナペルホネンの布

(左)18年秋冬の「one day」Photo by Kotaro Tanaka(右)18年秋冬の作品「Ariel」Photo by Teruyoshi Toyota

西田社長は3代目。祖父が1960年に設立した当初から、京友禅のじゅばんを手がけた。和装が全盛の時代で、小紋着物も作り、昭和の終わりごろには浴衣の需要が伸びた。ところが、バブルがはじけると和装の需要が減った。追い打ちをかけたのが2008年のリーマン・ショックだ。和装メーカーや問屋の倒産が相次ぎ、生地を納めたが代金を回収できないこともあったという。

皆川から依頼があったのは、そんな頃だった。売り上げの下げ止まりにもなったが、何より「皆川さんは求めるものが高い。会社の対応力や技術力が上がった」と西田社長は話す。入社した20年ほど前は、手がける布の約8割が和装用だったが、いまは和装と洋装で半々くらいだという。

皆川は西田染工について「数値化できない経験値がある。酒蔵の酵母菌のように、目に見えないけれど、職人の気持ちや手に染みついた感覚が、実際の物のクオリティーに反映している」と語る。物を使う人だけでなく、作る人の喜びも不可欠、と考える。「日本でずっと培われてきた技術、作り手の喜びを継続的に生む環境を残すということは、仕事の上で大事。そこを手放すということはありえない」

(神宮桃子)

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