花のない花屋

自分のことは二の次。いつも他人を優先して生きてきた母に花束を

自分のことは二の次。いつも他人を優先して生きてきた母に花束を

〈依頼人プロフィール〉
志村みほさん 52歳 女性
東京都在住
会社員

ある夜、母が「水がのどを通らない」と言って私を起こしました。何かが変だということで、救急車に乗って病院へ行ったところ、「何でもない」との診断でした。ただ、私も弟も母の様子がいつもと違うと感じ、念のためそのまま大学病院へ。一通り見てもらい特に異常はありませんでしたが、明け方だったので「そろそろ先生が来るから、CTを撮っていっては」とのこと。そして、CTの結果、脳梗塞(こうそく)だったことがわかりました。

幸い10日間ほど入院ですみましたが、その4、5年後に今度は腰に痛みが出てきてしまい、手術をすることに。歩く速度がそれまでの半分くらいになってしまいました。

さらに2年ほど前に再発してふたたび腰の手術をし、自宅に戻ったものの、今度は腰の圧迫骨折をして、3カ月の入院に。いまだに骨がきちんとくっついていないので、ときどき痛むようです。現在82歳になりますが、身体の痛みを抱えながらも、今もできる範囲で家事をこなしています。

そんな母は、思えば、いつも自分のことは二の次で、他人のことを優先して生きてきた人でした。我が家はもともと自営業で、50人ほど従業員を抱えていましたが、母は朝早くから彼らの食事を作り、昼間は経理などの事務仕事のほか、父と一緒にねじ切りまでしていました。

オイルショックの頃、景気悪化の影響を受けて従業員のお給料を払えなくなったときは、母が自分の着物や宝石を質に入れて、なんとかやりくりしていました。

会社をたたんだ後は、借金を背負いながら遊園地の食堂で働き始め、なんとか一息つけるかなと思ったときに、今度は父がガンに。父の看病につきっきりになり、平日はずっと病院に通い詰め、家に戻ってくるのは土曜日だけ。そんな生活を3年間も続けていました。

いま身体が思うように動かないのは、長年の無理がたたったんじゃないかな……と思います。でも、私たちが何不自由なく生きてこられたのは、まさに母のおかげ。残りの人生、少しでも幸せに生きてもらいたいです。

そこで、これまでの感謝を込めて、母に花束を作っていただけないでしょうか。母は昔から花が大好きで、昔はよく自宅の庭に花を植えて楽しんでいました。雑草を抜くときでさえ、「ごめんなさいね」と言いながら、抜く母です。腰が悪くなってからは、花に水をあげられず、ちゃんと世話ができないから……と花をあきらめてしまっていますが、もう一度母の心を花で輝かせてあげたいです。ランやカサブランカが好きなので、入れてもらえるとうれしいです。

自分のことは二の次。いつも他人を優先して生きてきた母に花束を

花束を作った東さんのコメント

体の不自由なお母様の心が輝くように。華やかな白をポイントとした花束です。ランやカサブランカを使って豪華な仕立てにしました。

花材はデンファレやエピデンドラム、ファレノプシス、カサブランカ、ハランです。依頼者のこれまでの感謝を花束にのせました。

記念日など特別な時だけでなく、こういった何げない時に贈ることができるのが花の良さでもありますね。

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

 「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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「専門学校入学日に退学」「彼と住むために家をでる」 それでも味方でいてくれる母へ

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病室での「じゃがビー」を忘れない……。天国で母と再会する父へ花束を

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