わたしの みつけかた

<5>異国の地・東京でビジネスを始める~女帝のポーズ

<5>異国の地・東京でビジネスを始める~女帝のポーズ

撮影/篠塚ようこ

ヨガの先生兼スタジオ・オーナーであり、作家でもあるリザ・ロウィッツさんの自伝的小説 “In search of the Sun” からご紹介する連載。彼女がパートナーである省吾と離れ、一人アメリカに発つところで終わった前回の続きとなる第5回は、それから10年ほど経ったアメリカ・カリフォルニアで始まります。
自分を追ってアメリカに来てくれた省吾との生活を楽しんでいたリザに、転機が訪れ、なぜか東京でヨガスタジオを開くことに。そしてそのスタジオの人気に火をつけたのが、日本人なら誰もが知るあの人でした。不思議な巡り合わせのストーリーです。

日本にヨガスタジオ。できると思う?

「日本にヨガスタジオ? それってエスキモーに氷を売ろうとするようなものじゃないの?」は友人の忠告。

何年も前に、ハワイのリトリートで瞑想(めいそう)をしていた時、頭の中で声が聞こえた。「東京でヨガスタジオを開きなさい」と。
「これはハワイの女神ペレのお告げ?」とも思ったけれど、どちらにしろその時は真面目に受けとめるつもりはなかった――ある日突然、父親の面倒をみるために日本に帰ると省吾が言い出すまでは。

せわしなくて、排ガスにあふれた街で、コピーライターや英語の教師をしたり、雑誌や新聞に寄稿したりしていた時期もあったけど、今ではすっかりカリフォルニアの生活に溶け込んでいたし、もう東京に戻るつもりはなかった。ここでの全てに満足していた。例えば、広い空、友達、そしてヨガ。

ヨガ……。
あの時のお告げを思い出して、‘yoga studios in Tokyo’とググってみた。二つしか検索ヒットしないのをみると、もしかしたらチャンスかもしれない。
「できると思う?」 省吾に聞くと、
「なんだって可能だよ」といつもの答え。

私たちが再び太平洋を飛び越える頃には、ヨガ用ボルスターとサンドバッグ各30個も、日本に向けて海を渡ろうとしていた。何もかもが超スピードで過ぎていく東京には、リストラティブヨガが必要だと確信していた。カリフォルニアで、リストラティブヨガに出会って私が救われたように、きっと東京にも必要としている人がいる。その人に届けたいと思った。

東京で、スタジオオーナーになる

こぢんまりとして、風が通り抜ける、駆け出しのヨガスタジオにはぴったりの部屋を借りることができた。満月のかたちをした窓辺に、省吾の実家から竹を切ってきて飾り、室内でも外の空気が感じられるようにした。
晴れてスタジオ開設!

でも誰も来ない。

仕方がないのでヨガマットを広げる。静かな部屋で、一人。敗北をかみしめるサムライのように、一人。
ある日、ふと気づいた。私は今まで、誰かが来るのをただ待つだけで、私自身この場所に来ることをしていなかったんじゃない?

だから、まず私がきちんとスタジオに通うことから始めることにした。来る日も来る日も、そのスタジオであるべきレッスンをして、その場所を慈しんだ。そしてある日、初めての生徒がスタジオに来てくれた。彼女は次の日も来てくれて、友達を呼んでくれて、そしていつの間にか、生徒は増えていた。

生徒が増えるにつれ、夢だったチャリティーのコミュニティークラスも実現できた。当時、寄付になじみのない日本では難しいとアドバイスされたけれど、やりたいことだからこそ、聞く耳を持たなくて良かったと思う。「東京人はリラックスしたがらないよ」と反対されたリストラティブヨガも、「日本人は知らない人と組んでヨガするのは嫌がると思う」と言われたパートナーヨガも、とりあえずやってみることにした。

私がストレスで押しつぶされそうなくらい忙しい日々を送っていたときに救ってくれたのはリストラティブヨガだったし、「ストレス」も「多忙」も東京人に当てはまる形容詞であることはよく分かっていたから。
いつの間にか多くの人が集まって、私にとって新しい家族ができていた。

ロスト・イン・トランスレーション

スタジオを開いて2カ月ほど経ったころ、テレビ局から電話があった。お笑い芸人にリストラティブヨガを教えてくれないか、という。
その時テレビを持っていなかったから、その人が誰かも分からなかったのだけど、芸人にヨガを教えるなんて楽しそうと思って「YES」と答えた。

当日はおしゃれな若いスタッフが何人か来て、まずスタジオのセッティングをしてくれた。ボルスター、枕、重りのサンドバッグに、ベルト、毛布全部を並べると、まるでお泊まり会の会場みたい。小柄だけど、まるで彗星(すいせい)のようなエネルギーを発している男性がスタジオに入ってきた。彼をリストラティブヨガのポーズにセットしてあげると、カメラが回り始めた。

スタッフはカンペを用意してくれたけれど、まだ日本語に慣れていなかった私には、ローマ字つづりでもよく意味の分からないセリフもあった。カメラが回り続ける中で質問もできず、半分パニックになりながら、とにかく、カンペに書いてあることをそのまま読むことにした。

例えば、「kimochi ii derou」
「Kimochi ii deshoo」の間違いかな?と思ったけど、とにかくそのまま読んだ。
「キモチ イイ デロウ」
芸人の彼は、まるでピエロみたいな、不思議そうな表情を一瞬すると、急に笑い出して、私の言った言葉をそっくりそのまま返してきた。

流れに乗ってスタッフはどんどんおかしなカンペを書いてくる。もう止まらない。私もカンペ通りにおかしなセリフを繰り出す。流れに委ねるのもヨガ。うんうん、これもヨガと変に納得しながら。
テレビ局は、リストラティブヨガだけで1本、番組を作ってくれて、私はようやくその芸人の名前が「岡村隆史」だと知った。

そしてスタジオは予約でいっぱいになった。
間抜けな外国人を演じることが、生徒を呼び込むとは意外な成果だったけれど、理由はそれだけじゃなかったらしい。冗談を言うヨガの先生を初めて見た、と何人もの人が後から教えてくれた。

当時、日本でヨガの先生といえば、一段高いところでポーズを取って、下に降りてくることもなければ、笑うことすらほとんどなかったのだそう。それはカリフォルニアから来た私にはなじみのない世界だったけれど、だからと言って無理に合わせる必要もないし、自分自身でいればいいんだと思った。自分の失敗をネタにして笑ってもいい。それもヨガだから。

家でできるリストラティブヨガ:女帝のポーズ~サランバ・バッダ・コナーサナ

妊活中の方、更年期を含む婦人科系の悩みを抱えている方におすすめのポーズです。感情のバランスを整え、神経を落ち着かせる効果があります。骨盤や腰回りの痛みを和らげると共に、背筋を伸ばしながら胸、肩を開いてくれます。

ヨガマットの上半分に、ボルスター(無ければ丸めた枕などでも大丈夫)を縦に置き、更にその下にブロックや畳んだ毛布を置いて、ボルスターが滑り台のように斜めになるようにします。その上に上体を預けるので、ちょうど首の下にくる辺りに、丸めたタオルなどで首の支えを作りましょう。膝(ひざ)の下に置けるように、長細く丸めた毛布などをヨガマット下部に横に置きます。

曲げ膝でマットの上に座り、お尻をボルスターの縁にしっかり付けます。
ボルスターに背中を預けましょう。
体を毛布かショールで覆い、アイピローを使うのもおすすめです。身体のあらゆる部分が完全に支えられて、心地よい状態でいるのを感じましょう。

息を吸い込みながら、下腹部、肋骨(ろっこつ)、胸をゆっくりと緩め開いていきます。息を吐きながら、体全体がその支えの中に溶けていく感覚を味わいます。この女帝のポーズは、腰、腹筋、心臓、そして肺への血流を改善します。

5分から15分ほど、心地よいと感じられる限りポーズを続けて構いません。ポーズから出る時は、ゆっくりと右側に向けて体を倒し、何度かゆっくりと呼吸をした後、頭を下にして起き上がりましょう。

*Message from Leza
Sometimes you have to travel a very far distance to find a home within yourself.
(遠くまで行くことで、やっと心の中に落ち着ける場所を見つけられる、なんてこともあるのです

 

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

<4>違いを認め関係を築くこと~2人で行うねじりのポーズ

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