てまひま

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

デジタル技術が進化し、世の中がどんどん便利になっている昨今。めんどうなことはすべてロボットが私たちの代わりにやってくれるという時代もくるのでしょうか。もちろん、歓迎すべき未来ではありますが、一度、足を止めて考えたいこともあります。

この時代にあって“てまひま”かけて毎日を過ごしている人がいます。便利の波に乗らない彼らの価値観のなかには、私たちが忘れがちなこと、見落としがちなことが少なくありません。そんな“我が道を貫く”人の元を訪れ、生きるためのヒントを得る企画。今回は、三軒茶屋にある築49年の一戸建て賃貸をDIYして5人で暮らす、『三茶ハウス』の住人に話を聞きました。

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

『三茶ハウス』は、1階がキッチンとリビング。2階に5人分の就寝スペースがある

家は、自分でつくれる!

20代の男子4人と女子1人の5人で暮らすシェアハウス、通称『三茶ハウス』は、築49年の一戸建て賃貸住宅。昭和に建てられた典型的な2階建て住宅ですが、他の賃貸住宅と大きく違うのがDIY可能物件で原状回復義務がないこと。大家さんに事前申請すれば、躯体(くたい)以外の改修が自由にできます。キッチンもシャワーもないスケルトン状態で入居した当初は、水道とガスが通っていないので、寒さをしのぐために家の中にテントを張って過ごしたそうです。そんな、サバイバル生活から少しずつDIYを進めて、唯一無二の居心地の良い空間をつくりあげました。

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

『三茶ハウス』外観。外観は、ごく普通のありふれた一戸建て

今回話しを聞いたのは、三茶ハウスに暮らす奈良岳さん(27歳・建築系企画事務所勤務)・宮地健太郎さん(26歳・広告代理店勤務)・關根正大さん(24歳・不動産会社勤務)の3人。もともと三茶ハウスは、友人4人でDIY可能な賃貸物件を探すところからスタートしました。

奈良さんは実家から都内の職場まで往復3時間かけて通勤する生活をしていました。通勤時間がもったいないと思い始めた頃に、改修可能物件を探して自分たちで家をつくる話を持ちかけられたそうです。

「メンバー全員が建築系の学校や職場にいたので、空き家がどんどん増えているという不動産業界の背景を見知っていました。そんな時代に、古くて入居希望者がいない賃貸物件を自分たちで改修して暮らすことの意味は大きいと思いました」(奈良さん)

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

左から、關根正大さん・奈良岳さん・宮地健太郎さん

入居をはじめた2015年当時、賃貸物件を入居者自身が改修して暮らすのは一般常識ではありえないことでしたが、彼らは改修可能物件を集めたサイト『DIYP』の存在を知り、そこで三茶ハウスを見つけて即契約、DIYで改修しながら暮らすことに。三軒茶屋駅徒歩2分・20万円の家賃をシェアする人数で割って、一人当たりの家賃は5万円程度。

「家をつくろうといっても、知識がないと何から始めたらいいのか、お金はどのくらいかかるのか分からない。ただ僕は、学生の頃にリノベーションスクールに参加したことがあって、DIYで家をつくることの心理的ハードルは下がっていました」(奈良さん)

リノベーションスクール』とは、活用されていない全国の空き家を、リノベーションによって再生させるために必要な知識と技術を身につけるスクールのこと。空き家活用の一例として、ここで実際に空き家の解体や床貼りを経験していた奈良さんは、「家は、自分たちでつくれる」という実感を持っていました。

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

2階の廊下に置かれたDIY用品。三茶ハウスでは、今も必要な箇所をDIYしながら暮らしている

家のDIYは、一般的な賃貸物件で暮らしていたら得られない財産

三茶ハウスでプロに依頼したのは、ガス・水道の配管と壊れていたトイレの修理のみ。壁と天井に断熱材を入れて、床を貼り、壁を取り払って間取りを変更して二段ベッドと収納をつくるといった空間づくりは、全て自分たちでDIYしています。

「大変だったのは、壁のベニヤ板を剝がして断熱材を入れてから壁を貼り直す作業と床貼りです。単純作業の繰り返しで飽きるし、体力はどんどん持っていかれるうえに、壁も床も面積が広いので時間がかかります。ベニヤ板の床をきちんとした床材に貼り直したのは入居して3カ月後、みんながまとめて休める年末年始に一気に作業しました」(奈良さん)

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

キッチン床貼りの様子。住人とその友人たちで協力してDIYしていった 写真提供:宮地健太郎さん

当時、実家で暮らしていた宮地さんは、床貼りの手伝いをしに三茶ハウスを訪れた際に、当時の入居者から一緒に住もうと誘われて入居しました。

「普通の賃貸物件で一人暮らしをするより、きっと楽しい生活になると思って引っ越しました。当時は、賃貸マンションに住んでいる友だちの家に遊びに行くと、四方が壁に囲まれている! 家って暖かいんだ! と驚いていました(笑)」(宮地さん)

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

余った床材で、宮地さんがDIYした二段ベッド。入居当時は床に布団を敷いていたが、天井までの空間がデッドスペースになっていることに気がついて造作した

2階の屋根は断熱材を入れた後に貼る木材が足りず、今も断熱材がむき出しの状態。キッチンのタイルは、途中でDIYが面倒になって目地が入っておらず、換気扇はドラム缶とダクトをつなげて、元の換気扇にガムテープで止めるという、普通の賃貸物件では見られない雑な仕上がり。上から下まで住人5人の荷物であふれた住まいは、すでに空間のキャパシティーを超えています。それでも、リビングルームにいると、いろんな人の手仕事でつくられたことがわかる居心地の良さがあって、のんびり過ごしたくなる、すてきな空間になっていました。

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

圧倒的な存在感のある換気扇は、半分に切られたドラム缶を購入して、ダクトと換気口をガムテープで留めている

「入居した頃はインパクトドライバー(※)なんて単語も知らなかったのに、いつの間にか使いこなせています。家をDIYしたことで、何かをつくることへ躊躇(ちゅうちょ)がなくなりました。どんなものでも、買う前にまずはつくってみようと考えるようになっていきました」(宮地さん)

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

1階のリビングダイニングルーム。柱は残して、壁を取り払っている。プロジェクターがあり、リビングルームの壁に映画を投影してイベント開催をすることもある

シェアすることで作り上げる、居心地のいい住まい

最近入居した關根さんは、また違った視点で楽しんでいる様子。

「家に帰ってきたら住人は誰もいなくて、知らない人たちが宴会をしていたことがあります。宴会をしていたのは元住人だったのですが、僕は隅っこでごはんを食べながら、彼らの宴会を見守っていました(笑)。入居者5人がそれぞれの友だちを連れてきたら、友だちの輪は5倍になります。知らない人と家で会えるのは楽しいし、結局、楽しい家をつくるのは人なのだなと思います」(關根さん)

住人たちがFacebookで拡散して人を集めた三茶ハウスパーティーには、30人の友人たちが詰めかけ、店と間違えた近所の人がふらりと訪れることもあったそう。もともと、壁に断熱材を入れる作業や床貼りは入居者だけでは到底追いつかず、友だちに呼びかけて総勢50人でつくりあげたもの。三茶ハウスは、多くの人の手を借りて個性が混ざり合った結果、様々な人を惹(ひ)きつける空間になりました。

「家の中にテント」からはじまった20代建築男子の『DIY一戸建て賃貸生活』

廃棄予定の靴箱をもらい受けて、スパイスやタオル等を収納している。各自の自転車は釣り下げて、階段下に収納

今後は2階の床を貼り替えて、友だちが泊まれるゲスト用のベッドもつくりたいと話す3人。すでに空間のキャパシティを超えているように見えますが、住人にはまだまだ理想の住まいに向けたDIY計画があるようです。

部屋数・平米数・駅徒歩分数など、家選びの基準は数字で語られがちですが、そんなことよりも時間をかけて、楽しみながら居場所をつくっていく彼らに、ある種のたくましさを感じる人も少なくないのでは? 何でも購入できて、どんなことも代行を頼める時代ですが、人の心を動かす空間は、あえて自分の手を動かした先にあるようです。

文:石川歩 写真:白松清之

※インパクトドライバー:穴をあけたり、ネジをしめたりするのに使う電動工具。DIYでは欠かすことができないツールのひとつ

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