花のない花屋

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

〈依頼人プロフィール〉
米田真帆さん(仮名) 43歳 女性
東京都在住
会社員

昨年の3月、父から母の様子を見に来てほしいと言われ、数週間ぶりに実家に戻ると、玄関に現れたのは生気を失った顔の母でした。今まで見たこともない姿に私はかなり動揺してしまいました。

聞けば、3月にうつ病と診断されたとのこと。家事をすることはおろか、寝られない、食べられない、テレビも音がうるさくて見られない……とのこと。ただ一日中ぼーっとしているしかないようでした。

このとき初めて父から聞いたのですが、母は私を産んだときに産後うつを発症し、その後も、私が気づかない程度のうつになることがあったそうです。

ただ、このときは私が2月に実家を出て、家をリフォームしたことで環境が大きく変わり、かなり深刻なうつを発症してしまったようでした。

そしてそれから2カ月後……今度は娘の私に乳がんが発覚。自分でもしこりを自覚していたところ、会社の健康診断でがんがわかりました。早期だったので手術で取り除けるということでしたが、手術前の画像検査では肺に影が写り、遠隔転移のステージ4かもしれない……との状況に。

がんを告知されたときは取り乱したりはしなかったものの、さすがに肺の生検組織診断をするときは不安で押しつぶされそうになり、成人して初めて、母の前で大泣きをしました。

母は自分自身も大変な状況だったのに、そっと私の背中に手を差し伸べ、やさしくさすってくれました。「そうよね、つらいわよね」と声をかけながら……。結局、手術で乳房がなくなることになったときは、「私の乳房をあげられたらいいのにね」ともらした母。今思えば、母の方が私以上にショックを受けていたのかもしれません。

幸い、肺の検査で悪性ではないことがわかり、今はホルモン療法を続けながら定期検査を受けています。母もだいぶ症状はよくなりましたが、まだ病院にはかかっています。

そこで、自身の精神が不安定なときに私を支えてくれた母に、感謝の気持ちと、一日でも早く以前の活発な母に戻ってほしいという願いをこめて、母に花束を作っていただけないでしょうか。

母はこれまで20年ほどパートタイマーとして高齢者介護の仕事をしていました。母自身も69歳と高齢ではありますが、さらに上の80代や90代のお年寄りのお世話をしていました。今は休職中ですが、今年70歳になることもあり、このまま退職することも考えているようです。

独身時代は生け花を習っていたこともあり、今でも庭に生えた植物を摘んで花瓶に生けたりするほど花が好きな人です。派手な色よりも、ほっとするような、パステル系のやさしい色合いが好きなようです。東さんの花束で、母の顔に笑顔が戻ってくれますように……。どうぞよろしくお願いいたします。

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

花束を作った東さんのコメント

お花が好きだということでしたので、庭から花を摘んできたもので作った花束を意識しました。

花材はヒヤシンスをはじめ、ピンクレース、マトリカリア、スカビオサ、スイートピー、ナデシコ、ヒペリカム、トルコキキョウ、ポリシャス、アイビー。柔らかいパステル調のものにし、まわりもツタをつかって柔らかくしました。視覚もさることながら嗅覚(きゅうかく)でも楽しめる香りの良い花を集めています。

娘さんの大きな気持ちがこもったこの花を見て、ぜひ、エネルギッシュになってほしいですね。

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

「母に笑顔が戻りますように」うつ発症も乳がんの私を支え続けてくれた母に花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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