わたしの みつけかた

<6>不妊治療を経て、心から生まれる子ども~太陽礼拝のポーズ

<6>不妊治療を経て、心から生まれる子ども~太陽礼拝のポーズ

撮影/篠塚ようこ

<6>不妊治療を経て、心から生まれる子ども~太陽礼拝のポーズ

撮影/篠塚ようこ

ヨガの先生兼スタジオ・オーナーであり、作家でもあるリザ・ロウィッツさんの自伝的小説 “In search of the Sun” からご紹介する連載。
様々な巡り合わせに導かれるように、カリフォルニアから引っ越して東京にヨガスタジオを開設したリザさん。自身のキャリアの確立とは別に、実は、長いあいだ子どもを授かれるように努力していました。

受け入れること

「卵子が老化しています。体外受精の成功する確率は極めて低いでしょう」
ゆっくりと吸い込んだ息を吐き出しながら、手を胸の前で組み、椅子の背にもたれるようにして、彼は言った。
東京でも有名な不妊治療のクリニックで。

「そうだとしても、挑戦したいんです」抵抗を試みる。

それでも彼はうなずかない。東京でも高い成功率を誇るこのクリニックは、失敗例を増やしたくないのかもしれない。アメリカだったら、どんな状況であれ、お金がある限りは受け付けてくれるんじゃないかと思うのに。ここでは、医師が断ってくる。その壁は厚い。

「お金も、時間も、エネルギーも、無駄にしない方が良いのではないですか?」
彼に悪気がある訳ではないのは、その話し方から分かるけど……。

「他に方法はありませんか?」肩を落とす私に気遣って、省吾がきいてくれた。

「卵子の提供を受けることはいつでもできますよ」
デスク上の書類をトントンとまとめながら、壁の時計をちらっと見て医師は言う。

問題は、卵子の提供が日本では違法だということ。10年子どもを授かる努力を続けてきたけれど、行き止まりになってしまったみたい。私は簡単に諦める人間じゃない。けど、争いの場を立ち去ることは決して弱さではなく、時には強さですらある、と省吾は教えてくれた。

刀を置くことで、取り戻すことのできる力もある。あらゆる努力をした後ならば、その「失敗」は高貴で、尊くすらある。それにひとつの失敗は成功への過程であることも分かってる。だから、肩を落とさずに、尊厳をもってその場を去った。ただ、省吾には「とがったものは近くに置かないでね」とだけ忠告しておいた。

手放すこと

ヨガマットを取り出す。イライラ、がっかり、痛み、そんな感情全てを深い呼吸にのせて吐き出す。次に吸い込む息では、私の願い、私の未来の可愛い子を思い浮かべる。どこにいるんだろう。自然妊娠できると信じていたけれど、それはかなわなかった。でも、まだ、どこかにいるのを感じる。見つけるまで探さなくちゃ。

ここ何年も、自分に問いかけてきた問いがある。
「そもそも、なんで母親になりたいの?」
こんなことを考えて母になる人は少ないかもしれないけど。
その答えを、瞑想(めいそう)の中で導きだす。今まで経験したことのない、想像もつかないくらいの愛情を体験してみたいから。母なる愛。全てを根底から揺るがすような、母から子に注がれる、見返りを求めない愛。

不妊治療中にも色んなことが進んでいた。本を出版したし、ヨガスタジオも開いた。ひょっとしたら、スタジオを開設したから子どもを授かれなかったのかもしれない。もし子どもがいたら、私を頼ってやってくる生徒の一人一人を大切に思い育てることはできなかったかもしれないから。今ではお互いがお互いを家族のように思い合うコミュニティーができあがっていた。

あるいは、わたしの体が守ってくれてたのかもしれない。子どもの頃から心臓の脈のペースが遅かった私には、出産のリスクは大きすぎたのかもしれない。私か子どものどちらかが、出産の過程で命を落とす可能性もあるってお医者さんも言っていたし。
頭の中ではこんなことがずっと巡っていて、いつまでも答えにはたどり着かない。

こんがらかった頭をスッキリさせたくて、座る。目を閉じて、呼吸に意識を集中させる。チベット仏教の瞑想法のひとつ、「与え受け取ること」を意味する「トンレン瞑想」を始めた。

「かわいそうな私のストーリー」とか「私の苦しみ」から一歩ひいて、自分の心を開くにはこのトンレン瞑想はとても良い。誰かの痛みを取り除けるようにと祈って、彼らの痛みを呼吸とともに吸い込み、代わりに幸福と平和への願いを送る。

その瞑想で、思い浮かべるのは私の母、父、友だち-そんな大好きな人たちだけでなく、今まで傷つけられた人たち、更にはほとんど知らない人たちにも向けて、同じ祈りを捧げる。コンビニの店員、バスの運転手。知らない人、すれ違っても気がつかない人を、大切に思うことはできる? 彼らの持つ苦しみや痛みを、代わりに背負おうとすることができる?

最後に、世界中の痛みを取り除いて、それを喜びに変換してみる。少しずつだけど、私の人生も満たされて、自由になっているのを感じる。瞑想とヨガをする時には、まず内側の声を聞くように心掛けている。

戦い続ける

日本の養子縁組について、ネットで調べてみた。大人になってから、経済的理由や血縁関係の中で行われる養子縁組はよくあるみたいだけど、子どもを養子に迎えることは珍しいよう。日本で、外国人が養子を迎えられる確率は、日本人のパートナーがいたとしても、低そうだった。

可能性は低くても、申し込むことに決めた。次なる挑戦は、全て日本語で進めなければいけないこと。まるで聖人のように忍耐強い省吾が通訳をしてくれる。それがありがたかったし、話す内容の半分しか分からない私には、どれだけ大変な挑戦なのかが実感できないことも、むしろ良かったと思った。

ヨガをする中で、過程の大切さは身にしみて感じていた。その瞬間をそのまま受け取ること。ひとつずつ、一息ずつ、目標に向かって進む。省吾は48で、私は44歳。優先順位は低い。でも私は歳をとったお陰で、忍耐強くもなっていた。

もしラッキーならば、私に残された時間はだいたい1万日。それをどうやって過ごしたい? そう問いかけた。省吾を愛しているけれど、2人だけじゃなく、もっと広い世界が見たい。それに、何も失うものは無かった。

申込書が承認されたことを知って、驚くと同時に有頂天になるほどうれしかった。ついに私たちの夢がかなうのかな? 養子縁組の知らせを待つ間、心を落ち着かせようとなんどもヨガと瞑想をした。もしそうなる運命なら、大丈夫、きっとくる。

スタジオでは、よく太陽礼拝のポーズを目隠しでした。外を見るのではなく、内側にいる師に目を向けて、耳を傾けることができるように。目隠しをすることは不安も呼ぶし、内面の強さを試されるヨガ法だ。周りから教えられたことや、期待されていることにどれだけ影響されているか、誰かを喜ばせるためにどれだけ自分が無理をしているか……内側を向くことで見えてくる。

私も目隠しをして、太陽礼拝を行う。耳を澄ませれば澄ませるほど、あの内側から聞こえる声が大きくなる。未来の子どもの声を聞くために、細心の注意を傾ける。信頼して、手放す。信頼して、願い、そして手放す。頭の中をたくさんの思考が流れていくのを眺める。バガヴァッド・ギーターの中でクリシュナが説いた教えを思い出す。

「楽を追わず、苦から逃げず、嘆かず、欲張らず、起こる物事をただ受け止めることのできる人間をわたしは愛する」(バガヴァッド・ギーター12章第17節の解釈)

6カ月経って、ついに待ちに待った電話が鳴った。
でも、それまでにはもう少し旅が必要だった。

ヨガ・ティップス 目隠しをして行う太陽礼拝

太陽礼拝は、もともと日の出と共に行われていたヨガのポーズです。連続する優美な動きに合わせて呼吸をし、文字通り太陽を心と体で迎えます。
陽光が昇るのと共に、内なる光で体内を満たしましょう。硬くなった背骨をほぐし、背、腕、脚、肩の柔軟性を高めると共に強靭にもします。体が温まり、心が軽く、エネルギーに満たされるのを感じるでしょう。
全ての生命の源が太陽であるように、一人一人の中にある魂の光のお陰で、私たちも存在しています。

*Message from Leza
“While I was waiting to be a mother, I practiced mother love with everyone I met. Could I see them as my child or even as my mother? It was a challenging spiritual practice, one that tested me in every possible way.”
(母親になるのを待つ間には、「母の愛」がどんなものか、会う人を相手にこっそり練習していた。全ての人を私の子ども、もしくは母親として大切にすることはできる? それはあらゆる面で私の精神力を試す、まるで修行のようでした。)

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

<5>異国の地・東京でビジネスを始める~女帝のポーズ

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