東京ではたらく

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

職業:バイヤー
勤務地:国立市
仕事歴:4年目
勤務時間:9:00-18:00
休日:土日

この仕事の面白いところ:自分の感性や内面をさらけ出して、スタッフ全員で扱う商品について考え抜くところ。

この仕事の大変なところ:あらかじめ正解がないところ。いくら考え抜いてもお客さまにお届けするまではずっとドキドキです。

暮らしまわりの道具や洋服を扱う通販サイト「北欧、暮らしの道具店」を運営する会社でバイヤーとして働いています。バイヤーと聞いてイメージしやすい仕事といえば、展示会などを回って、売りたい商品を仕入れてくる、というものかもしれません。

もちろんそれも大切な仕事なのですが、私はMD(マーチャンダイジング)グループのマネジャーも務めていますので、ほかのバイヤーが見つけてきた商品を扱うかどうかの判断をしたり、販売する商品をどんな風にサイトで紹介するか、編集チームと一緒に戦略を練ったり。商品の在庫管理や、それをどう消化していくかを考えたりすることも業務の一環です。

仕事を始めて4年目になりますが、この会社に入るまでバイヤーの経験はありませんでした。大学卒業後は新卒でアパレル会社に入社し、ファッションビルに入っている店舗で販売スタッフとして働いていました。

学生時代から好きなブランドだったのですが、洋服そのものはもちろん、販売スタッフの方の接客やお店の雰囲気が好きだなと思っていて。こういう心地いい空間を作れる人たちと働きたいなと思ったのがきっかけでした。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

扱う商品が決まったら、その魅力をどう写真と文章で伝えるか、編集チームと打ち合わせ。自分が「いい!」と思った商品のポイントを伝えていく

大学に進学するときも在学中も、強く「やりたい!」と思うことを持っていなかった私なのですが、ひとつだけずっと心の中にあるキーワードみたいなものがありまして。言葉にするとしたら、それが「空間づくり」というものだったのかなと今は思います。

私の家は父がゼネコン関係、兄がハウスメーカーに勤めていて、物心ついたときから「家づくり」や「場所づくり」といった仕事が身近にあるように感じていました。とくに父は家でも図面を引いたりしていましたので、その姿を見て、子供ながらに「楽しそうだなあ」「なんか、いいな」と感じていたのかもしれません。

大学時代、やりたいことがはっきりと見えてこない中で、「この先、私はどうなるんだろう?」という漠然とした不安は持っていました。それで、「好きなもの探し」ではないんですけど「とにかく何か動かなくちゃ」ということで、夜間のインテリア学校に通ったこともありました。

それで、お店の空間に惹(ひ)かれたアパレル会社に就職したわけですが、最初は接客担当。でも自分はそこまで「おしゃべりが大好き!」というタイプではなくて、初対面のお客様と話すというのは結構勇気のいることでした。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

趣味のひとつである写真。毎日の暮らしの中で食べたもの、見たもの、買ったもの、自分の「好き」が詰まっている

3年間接客を経験した後転職を決めたのは、以前から持っていた「空間づくり」への思いが強くなってきたからでした。今考えると結構な決心だったなと思うのですが、仕事を辞めて建築関係の職業訓練校に通うことに。半年間、図面の書き方や、設計に使うソフトの扱い方を勉強しました。

小さな設計事務所に転職したのが25歳くらいの頃です。憧れだった建築の世界に飛び込んで、アシスタントながら猛烈に働きました。周囲はその道何十年というベテランの方ばかりでとても勉強になりましたし、刺激もありました。

でも、そんな環境に身を置くうち、だんだんと気づいてしまったことがあって。それは「自分はこの世界でやっていけるんだろうか?」という不安。というのも、周囲は建築一筋という人ばかりで、昼夜問わず、とにかくハードな毎日の中でも情熱を絶やさず仕事に打ち込んでいるんですね。

それに比べると私はやっぱりどこかついていけていないというか……。この先ずっとこの世界で働いている自分の姿がどうしても描けなかったんです。その時は諦めの気持ちというより悔しさの方が大きくて。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

オフィスはフリーアドレス制で開放的な雰囲気。暮らし周りの商品を扱う会社らしく、オフィス中心にはキッチンも

アパレルも辞めてしまっているし、今度は建築も辞めちゃうのか、と。どんな仕事でもつらい場面というのは必ずありますから、そこを乗り越えて何かを成し遂げた時に本当の力が身につくんじゃないか。どうして自分はそれができないんだろう……。そんな風に葛藤を抱えていました。

「何かを極めたい」。強い気持ちだけはあるのに、何をどう極めたらいいのかがわからない。そんな日々の中で見つけたのが、今働いている会社が運営する通販サイト「北欧、暮らしの道具店」の求人でした。

最近はいろいろな通販サイトがありますが、「北欧、暮らしの道具店」は、ほかとはちょっと、いえ、確実に違ったんです。扱っている商品はほかの通販サイトやセレクトショップで買えるものも多いのですが、商品の魅力の伝え方が違うというか。

もともとそのサイトは好きで、お客さんとして時々利用していたのですが、その時、たまたま社員募集の告知を見つけて、なぜかだかよくわからないのですが、一気に気持ちに火がついたんです。

暮らしの中で感じた「正直さ」を商品に込めて

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

商品の撮影を行う編集スタッフと打ち合わせ。商品(靴)の魅力を伝えるために、どんな洋服のコーディネートにすればいいか、意見を交換する

当時の私は、アパレルの仕事も建築の仕事も辞めてしまって、「自分は何をやっても続かない……」と、自分にがっかりしていました。ずっと頭にあったのは自分が自信の持てることはなんなのかということでした。

「嘘(うそ)や、だれかへの忖度(そんたく)」がなく、自分の本心で向き合える仕事をしたい。そうでないといつまでも自信が持てない、続けられないと思っていたんです。

そんな時に偶然見つけた「北欧、暮らしの道具店」の社員募集。数ある通販サイトの中でも、商品の説明の仕方や写真の撮り方、サイト全体の商品陳列。そのどれにも作り手の思いがこもっていて、「ああ、この人たち、本当にこの商品が好きなんだなあ」という気持ちが伝わってくるサイトで、以前から気になっていました。

例えば暮らしの中で感じる、小さいけれどモヤモヤした悩みなどリアルな事情も、変にマイナスになりすぎることなく、市井の人々の心の奥にある気持ちを代弁してくれているような感じがして。

私は編集とか商品の仕入れとか、通販サイト運営に役立てる経験も知識も何も持ち合わせていなかったのですが、その時期にちょうど日常の記録として写真を撮るということを始めていて。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

春に向けて販売を予定しているオリジナル商品のストール。サンプルの色味をチェックして、細かい変更を指示するのも竹内さんの仕事

日々少しでも気付いたり、感じたりしたことを撮影してSNSに投稿するという何げないものでしたが、当時の私にとっては「自分が本当に好きだと思えるもの、世界」を探るための大切な作業でした。そうしているうちにだんだんと自分の中にある「好き」が何なのかが見えてきて、自分の足元が固まってきたような気がしていました。

「北欧、暮らしの道具店」が発信する情報やその伝え方には、どこか自分の「好き」と思う世界に通ずるものがあるような気がして。ここなら自分でも何か役立てることがあるんじゃないかと感じたんです。何より素直に「ここで働きたい!」と強く思いました。

入社してからはバイヤーの先輩について、仕入れや商品の販売戦略についてなど1から勉強させていただきました。入社前からなんとなくは感じていたのですが、スタッフになってみて感じたのは、バイヤーも編集スタッフも、とにかくみんながひとつひとつの商品に対して、ものすごい熱量で向き合っているということ。

「売れる、売れない」というのはもちろん大切な要素ですが、それ以前に「自分は本当に良いと思うか」という強い気持ちがみんなにあって、そこを共有したり、噛み砕いて説明したり、時には相反する感性をぶつけあったりして、本当に自分を全部さらけ出して、ひとつの商品について検討を重ねていくんです。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

商品が靴やアクセサリーの場合でも、洋服とコーディネートして撮影することで着用イメージがしやすいように工夫する。撮影に使う洋服はスタッフが持ち寄ったものがほとんど

バイヤーがある商品を見つけてきてからそれがサイトにアップされるまでの過程にそんな濃い過程があるなんて、最初は本当に驚きました。

でも、それがあるからこそ、私を含め多くのお客さまが「北欧、暮らしの道具店」の扱う商品やサイトの雰囲気に「なんだかいいな」という気持ちを持ってくれるんだなと今は実感として感じています。

思い出に残っている商品というと、本当にすべてなんですけれど、最近では今年に入ってすぐ販売したスプリングコートは忘れられませんね。うちのサイトではキッチン用品や小さなインテリアなどの雑貨が主力の商品で、アパレルの中でもアウターを扱ったことはあまりなかったんです。

そんな中、あるバイヤースタッフが、これぞというスプリングコートを見つけてきたんですね。確かにすてきな商品ではあったのですが、おそらくお店始まって以来の高価格商品で。最初の会議では「すてきなコートだけど……」とためらう雰囲気がありました。

でも、ここからがうちの会社ならではで、その後、何度も話し合いを重ねて、その商品を本当に扱うべきかどうか、みんなで考えていくんですね。例えば不安要素で挙がったのがまず「価格」。あとは「洋服なのに試着ができない」というのも大きいですよね。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

「おしゃべりが得意じゃない」と言いつつも、自分が好きなものの話になると熱がこもる竹内さん。日常生活でもつい「すてきだな」と思うものを探してしまうそう

逆にスタッフたちの話を聞いていて「なるほど」と思ったのが、「自分に似合うトレンチコートがなかなか見つからない」という意見。確かにトレンチコートは一歩間違えると探偵っぽくなってしまったり、おじさんっぽく見えてしまったりすることもあって、ディテールによって印象がガラッと変わってしまいます。

でも、そのトレンチコートは全体のあしらいもすっきりとしていて、裏地には愛らしいリバティプリントが施されていたんです。これなら女性らしく着こなせそうだし、そこまでコンサバティブな印象にもなりません。

さらに後押しになったのは「トレンチコートは春先から冬の始まりまで着られる」という意見。汎用性が高ければ高価格でも良さに共感してもらえるのではないかと。

そんな風に意見を交わし続け、最終的には少し数量を絞ってチャレンジしてみることになりました。会議で挙がったポイントはサイト上の商品説明や写真にも反映して、とくにモデルさんの着用カットでは、ちょっとマニッシュなコーディネートとガーリーなコーディネートの両方を掲載するなど、どんなテイストのお客さまでも興味を持ってもらえるような工夫を施しました。

通販会社バイヤー:竹内敦子さん(31歳)

◎仕事の必需品
「すてきだなと思った展覧会のチケットや、雑誌で気になったコーディネートをスクラップしているノート。これが新商品のアイデアの源になることもあります」

あとは標準的な身長のスタッフと背の低いスタッフにそれぞれ試着をしてもらった画像も掲載して、それも好評でした。モデルさんは背が高い方が多いので、商品をバランスよく表現するにはいいのですが、いざ自分が着るとなるとイメージしにくいこともあるのが本当のところですよね。試着ができない通販サイトだからこそ、そのあたりはとくに気を使いました。

そして蓋を開けてみたら、発売初日に完売という大成功! ホッとしましたし、万々歳なのですが、売れたら売れたで今度は「ああ、もっと数量を多くしておけばよかった。買えなかった方に申し訳ないな」という反省も出てきて(笑)。

この仕事に100%の大成功というのはないんだなと思う反面、だからこそ面白いし、ずっとチャレンジしていける仕事なんだなと改めて感じました。

今後の目標は、かけがえのないお買い物体験をうちのお店で作り続けていくことです。「心地よい、好き!」ばかりでなく、自分たちやお客さまの暮らしの中のモヤモヤ、ストレスも敏感に感じとって、そういう部分が解決できたり、よくなったという実感がわくようなモノたちと出会える場所としてありつづけたいです。

そこで大切になってくるのも、やっぱりまずは自分の「心地よさ」や「もっとこうだったらいいのに」という暮らしに根付いた、正直な気持ち。だからこそ、私自身も日々の生活の中の良い感情も悪い感情も見過ごさず、大事にできる自分でいたいなと思うんです。

そんな想いを込めた商品が、手にとってくださった方々の毎日を少しでも心地よいものにしてくれたら、そんなにうれしいことはないですね。

■北欧、暮らしの道具店

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

盲導犬訓練士:五百澤(いおざわ)朋子さん(31歳)

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校正者:小出涼香さん(27歳)

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