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異例の大混戦 もうすぐ発表、アカデミー賞の注目ポイント

異例の大混戦 もうすぐ発表、アカデミー賞の注目ポイント

オスカー公式昼食会に集まった24部門の候補者たち
Todd Wawrychuk/(c)A.M.P.A.S.

映画ファン注目の第91回アカデミー賞授賞式が日本時間2月25日、米国ロサンゼルスで開催されます。スーパーヒーロー映画やNetflix配信作品が初めて作品賞にノミネートされるなど、今年は新たな時代の到来を感じさせるラインナップ。その分、前哨戦では評価が割れ、近年にない大混戦となっています。

オスカー占う業界賞は大混戦

オスカー本番に先立って、アカデミー賞と会員が重なる各種の映画業界団体賞が発表されました。主要団体の最高賞を見てみると……。
・映画製作者組合賞 「グリーンブック」
・監督組合賞 「ROMA/ローマ」
・俳優組合賞 「ブラックパンサー」
・撮影監督協会賞 「COLD WAR あの歌、2つの心」
・脚本家組合賞 脚本賞「Eighth Grade」、脚色賞「ある女流作家の罪と罰」
・映画編集者協会賞 ドラマ部門「ボヘミアン・ラプソディ」、コメディ部門「女王陛下のお気に入り」
……みごとにバラバラ。近年は受賞作が割れる傾向にあったものの、1本も重複する作品がないのは異例のこと。ちょうど10年前にオスカー受賞作の「スラムドッグ$ミリオネア」が全ての賞を独占していたのとは好対照の乱戦となりました。

作品賞は「ROMA」vs「グリーンブック」

異例の大混戦 もうすぐ発表、アカデミー賞の注目ポイント

作品賞候補作の顔。上段左から「ブラックパンサー」、「アリー/スター誕生」、「ブラック・クランズマン」、「バイス」、下段左から「ROMA/ローマ」、「グリーンブック」、「ボヘミアン・ラプソディ」、「女王陛下のお気に入り」/Reuters

オスカーのノミネート数が最も多いのは「ROMA」と「女王陛下のお気に入り」の10部門。「アリー/スター誕生」と「バイス」が8部門、ヒーロー映画で初の作品賞候補になった「ブラックパンサー」が7部門でこれに続きます。例年ならば「ROMA」vs「女王陛下」となりそうなところですが、米国メディアの多くは「ROMA」と「グリーンブック」を軸にした争いを予想しています。

異例の大混戦 もうすぐ発表、アカデミー賞の注目ポイント

「ROMA」のアルフォンソ・キュアロン監督と主演女優賞候補のヤリッツァ・アパリシオ(右)、助演女優賞候補のマリナ・デ・タヴィラ/Reuters

「ROMA」は「ゼロ・グラビティ」(2013年)でオスカー監督賞を受賞したメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督が、自身の少年時代の日常を若い家政婦の視点から描いた作品。Netflix作品で初の作品賞候補に選ばれました。無声映画仕立てのフランス映画「アーティスト」(2011年)がオスカーを受賞したことはあるものの、モノクロの外国語映画が作品賞候補になるのは史上初めて。前哨戦では無縁だった主演・助演女優賞でもノミネートを果たし、存在感を強めています。

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「グリーンブック」のマハーシャラ・アリ、ピーター・ファレリー監督、リンダ・カーデリーニ、ヴィゴ・モーテンセン/Reuters

対する「グリーンブック」は、「メリーに首ったけ」などで知られるピーター・ファレリー監督作品で5部門にノミネート。1960年代の実話をもとに、ナイトクラブの用心棒だった粗野な白人男(ヴィゴ・モーテンセン)が繊細な黒人ピアニスト(マハーシャラ・アリ)の運転手に雇われ、人種差別が激しい米国南部を旅するロードムービーです。1990年のオスカー受賞作「ドライビング Miss デイジー」にも通じるハートウォーミングな物語や芸達者な2人の好演が支持を集めています。

ただ、両作品とも不安材料が。「ROMA」はNetflix作品であること。オスカー会員には映画興行業者は含まれていませんが、映画館にとってライバル的存在である配信作品への抵抗感がネックになりそうです。一方、「グリーンブック」はピアニストのモデルになった人物の遺族が無断で映画化されたことに抗議し、有色人種の人権団体などからも黒人を受け身の存在として描いた作劇に異論が上がっています。ファレリー監督が監督賞候補から外れたのも不利な条件です。

「熱烈な支持」よりも「嫌われない作品」

今回の候補作には、従来のオスカーなら選ばれにくかった作品も目立ちます。「ブラックパンサー」「ブラック・クランズマン」は白人至上主義に対する異議申し立てのメッセージを込めたパワフルな作品。「女王陛下のお気に入り」は女性同士の愛憎、「ボヘミアン・ラプソディ」と「グリーンブック」は同性愛者のミュージシャンの葛藤を描いています。多様な価値観を反映した作品が主要作に並ぶのは、ここ数年、若年層や非白人の新会員を加えて多様化を進めてきたアカデミーの改革が形になって表れたからかもしれません。

異例の大混戦 もうすぐ発表、アカデミー賞の注目ポイント

監督賞候補。左から「ROMA」のキュアロン、「COLD WAR あの歌、2つの心」のパヴェウ・パヴリコフスキ、「バイス」のアダム・マッケイ、「ブラック・クランズマン」のスパイク・リー、「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス/Reuters

オスカーの投票権を持つ会員は、製作、監督、俳優など17支部の約8000人。作品賞だけは1点を選ぶのではなく、候補8本すべてに順位をつける独特の投票方法を採用しています。1位の作品が得票率の50%を超えればそのまま受賞決定ですが、これに満たない場合は、最も得票数の少ない作品を除外し、残りの作品の得票率を再集計。1位が50%を超えるまで同じ手順を繰り返します。この複雑な集計方法がオスカー予想を難しくしている要因。好き嫌いが極端に分かれる話題作が不利になる一方、2番手、3番手の作品が浮上することもあるからです。「熱烈な支持」より「嫌われないこと」がオスカーの勝利の方程式。さて、今年これにあてはまるのはどれでしょう?

候補7回、ベテラン女優の初栄冠なるか

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主演女優候補。「アリー/スター誕生」のレディ・ガガ、「ROMA」のヤリッツァ・アパリシオ、「天才作家の妻」のグレン・クローズ、「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマン、「ある女流作家の罪と罰」のメリッサ・マッカーシー/Reuters

演技部門も話題たっぷり。まず注目したいのは主演女優賞。ノミネートされながら無冠に終わったのが過去最多の7回という記録を持つグレン・クローズが「天才作家の妻-40年目の真実-」で初のオスカーを獲得するかどうかが大きな見どころです。ライバルは「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマン。前哨戦では熾烈な争いを繰り広げてきました。

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主演男優賞候補。「バイス」のクリスチャン・ベール、「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック、「アリー/スター誕生」のブラッドリー・クーパー、「グリーンブック」のヴィゴ・モーテンセン、「永遠の門 ゴッホの見た未来」のウィレム・デフォー/Reuters

主演男優賞は5人中4人が実在の人物を演じた”なりきり演技”対決。中でも「ボヘミアン・ラプソディ」でフレディ・マーキュリーを熱演したラミ・マレックと「バイス」でチェイニー元副大統領に扮したクリスチャン・ベールが有力視されています。

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カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督/Reuters

外国語映画賞には、是枝裕和監督の「万引き家族」が日本映画としては「おくりびと」以来10年ぶりのノミネートを果たしました。細田守監督の「未来のミライ」もジブリ作品以外の日本作品で初めて長編アニメーション部門の候補に。受賞を期待したいところですが、両部門ともライバルが強力。外国語映画賞は「ROMA」のほか、監督賞・撮影賞でも候補になった 「COLD WAR あの歌、2つの心」、撮影賞にもノミネートされた 「Never Look Away(原題)」が並ぶハイレベルの戦い。長編アニメでは「スパイダーマン:スパイダーバース」が前哨戦の賞をほぼ独占しています。

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「未来のミライ」の細田守監督(右)、齋藤優一郎プロデューサーとアカデミーのジョン・ベイリー会長/Phil McCarten/(c)A.M.P.A.S.

運営も迷走、授賞式は司会者不在

賞レースが混迷するだけでなく、今年は運営を巡っても様々な曲折がありました。昨年の授賞式の視聴率が過去最低を記録したことから、主催の映画芸術科学アカデミーは様々な対策を講じたのですが、それがことごとく不発に終わったのです。まず、「人気映画賞」の新設。視聴者になじみのあるヒット作が候補に選ばれにくい状況を変えるための策でしたが、「作品賞とどう違うのか」などとブーイングを浴び、すぐさま見送りに。昨年は4時間近くに及んだ授賞式を「3時間以内」に短縮するよう放映権を持つテレビ局から厳命されたのを受けて、「主題歌賞の演奏は5作品中2作品のみ」「撮影・編集など4部門はCM中に受賞発表」というプランも打ち出しましたが、「候補の扱いに優劣をつけるのはおかしい」と映画界の猛反発を招き、こちらも撤回に追い込まれました。

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本番に向けて飾り付けが進む授賞式会場のロサンゼルスのコダック・シアター/Reuters

相次ぐ朝令暮改に加え、司会者に選んだコメディアンのケヴィン・ハートが過去の差別ツイートの炎上で降板するトラブルも。結局、後任が見つからぬまま、30年ぶりに「司会者不在」で本番を迎えることになりました。授賞式ではクイーンがライブ演奏し、過去の受賞者ら50人ものプレゼンターが登場するなど華やかな仕掛けも予定していますが、果たしてお茶の間の反応は……。賞の栄冠だけでなく視聴率の行方も気になる年になりそうです。

文・深津純子

多部未華子さん、現場での出会いが私のモチベーション

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アカデミー賞2019 受賞者たちが語った言葉

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