このパンがすごい!

横浜・元町で130年! 日本最古の伝統を引き継ぐノッポの山食パン/ウチキパン

横浜・元町で130年! 日本最古の伝統を引き継ぐノッポの山食パン/ウチキパン

日本で最初の食パンの血を引く「イングランド」

 ウチキパンの「イングランド」は、日本でもっとも古くから焼かれる食パンの系譜に連なる。すーっと高く上に伸びたノッポの山食パンだ。

 ふわりと空気をはらんで、噛(か)むともっちり、耳はざくざく。とりわけ、底耳(底面の部分の耳)の味わいが実に濃厚。私はイングランドを取り上げ、見返した。黒っぽくすすけるほど強く焼いた底面。それほど下火を強く焼くその意志の中に、伝統の力が見えるような気がした。

横浜・元町で130年! 日本最古の伝統を引き継ぐノッポの山食パン/ウチキパン

イングランド

 ヨコハマベーカリーが横浜の居留地(鎖国下で外国人が住むことを許された場所)で、日本で最初に食パンを焼いたのは、1862(文久2)年のこと。イギリス人ロバート・クラークが横浜に住むイギリス人に向け、本物のイギリスパンを焼く店をはじめたのだ。

 その年の横浜では、歴史の授業で習う「生麦事件」が起こっている。薩摩の大名行列に横浜に住む4人のイギリス人が騎馬で遭遇、斬られた事件である。彼らが、事件に遭った日の朝、ヨコハマベーカリーの食パンを食べていたと想像することだってできる。

 ウチキパンの現工場長・打木豊さんが「ひいひいおじいちゃん」と呼ぶ創業者・打木彦太郎が、14歳でイギリスベーカリーに入ったのが1878(明治11)年、クラークの引退とともに独立、屋号を受け継いだのが1888(明治21)年。

「教えてもらうまでに10年もかかったんですね。当時、種の製法は秘密にされてましたから」

 イーストがまだなかった当時のこと、種の良し悪しがパン屋の浮沈を握っていた。イギリスベーカリーの秘密は、種を起こす元としてホップを使うこと。すぐ近くには、日本で最初のビール会社(キリンビールの前身)もあった。ここからホップを仕入れ、ホップ種を作った。ホップには殺菌効果があり、それが雑菌の繁殖を防ぐ。ふわり高く持ち上げ、酸味の出ないクリアな味わいを作るのに役立つ。

 ひいひいおじいちゃんがやっとの思いで学んだ門外不出の製法を受け継いで、いまもイングランドは作られる。粉末のホップを「お茶みたいに」煮だした液体に、小麦粉やじゃがいもやはちみつなどを入れて種を作るのに4日、さらに中種を作り、翌日、本ごねをしてやっと焼成。一から作れば都合6日間かかる。この手間がかかる製法を現在も維持しているのだ(現在は微量のイーストも入れるので完全に同じではない)。

横浜・元町で130年! 日本最古の伝統を引き継ぐノッポの山食パン/ウチキパン

外観

 関東大震災、横浜大空襲によって創業当時の資料はほとんど残っていないけれど、父から子へ口伝で伝えられる無形の職人技として伝統は継承される。たとえば、あのしっかりと焼いた「底」。幕末明治の時代、電気窯ではなく石窯で焼いた記憶を受け継いではいないか。

「たしかに下火は強く焼いていますが、温度だけではなく、窯の性能や型の厚さなどすべてが影響しているので…。実際に見てみますか?」

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45年間活躍してきたオーブン

 店舗の上、3階の工場にあるオーブンは圧巻だった。1973(昭和48)年製というから使いつづけて46年。デジタルで温度を入力するのではなく、ダイヤルを調節して、求める火加減を職人が作りだす超アナログ。堂々たる体軀に比して庫内はそれほど広くない。「スイッチを切っても余熱でパンが焼ける」というほど、熱をたっぷり溜(た)め込んで強力な熱量を発する。これが、イングランドの山を高く持ち上げるのに貢献している。

 このオーブンのメーカーはいま存在しない。故障したときは、豊さんが自ら修理する。

「この窯があっての、あの製法があり、代々伝わってきているもの。この窯が壊れて修理できなくなったらどうなることか」

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イングランドの型。使い込むほど型離れがよくなるのであえて古いまま

 副材料は油脂などシンプルにとどめる。小麦の風味がダイレクトにあって、焼けば香ばしい。だから、トーストがいい。家でトーストして、ハムとアボカドだけのせてがつがつ食べた。まさに食事によく合うパン。これなくしてイギリス人の食卓は成り立たないのではないか。日出づる処のごはんの国にきたイギリス人がまずパン屋を開き、このイギリスパンを求めたのがとてもよくわかった。

■ウチキパン
神奈川県横浜市中区元町1-50
045-641-1161
9:00~19:00
月曜休(祭日の場合火曜休)

参考:パンの歴史について
http://www.uchikipan.com/history.htm

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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