花のない花屋

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

〈依頼人プロフィール〉
川村ことみさん 55歳 女性
兵庫県在住
無職

ケンちゃんと出会って35年、結婚して28年。これまで気がつかなかったけれど、彼と一緒に人生を歩んでいるうちに、私の性格が変わったように思います。変わったというより、本来の自分を表に出せるようになってきた、という方が正しいかもしれません。

彼に会うまでの私は、よろいを着て、肩ひじを張って生きていました。今思えば、再婚同士の両親のもと、実家ではなんとなく遠慮して生活していたのかもしれません。義父を怒らせないよう、小さく小さく生き、思春期の頃は、自分に存在価値なんてないんじゃないか、人生いつ終わってもいいや……くらいに思っていた時期もありました。

高校卒業後は義父から逃げるように東京の短大へ入学。卒業旅行で行ったエジプトツアーで彼に出会い、意気投合。帰国後、写真を現像して送り合ううちに自然とおつきあいが始まり、遠距離恋愛を経て、プロポーズもなく結婚。気がつけばケンちゃんが人生で誰よりも長く一緒の時間を過ごしている相手になっていました。

振り返れば、一緒に2人の男の子を育て、成人させ、家族で3年間香港に住んだり、彼の単身赴任で別々に住んだり……日々の雑多な問題を抱え、ケンカもたくさんしたけれど、一緒にいたから楽しかった!生きている実感があった!と今は思います。

何重にもなったよろいをはがしてくれたケンちゃん。あなたと出会ってからずっと幸せ。「今が一番幸せ」をずっとずっと繰り返してる。

こんな気持ちを本当は伝えたいと思いながら、言葉には一度もしていません。照れくさくて、きっとこれからも言葉にはできないでしょう……。そこで、言葉の代わりに、彼への感謝と尊敬、そして愛しているという気持ちを花束にしていただけないでしょうか。

結婚したてでお金がなかった頃、「ジュエリーはいらないけれど、お花がもらえたらうれしいな」と私が言ってから、彼は記念日や出産のときなど、ことあるごとにお花を買ってきてくれました。でも、考えてみれば私から彼へお花を贈ったことは一度もありません。ぜひこの機会に世界で一つの花束をプレゼントしたいです。

夫は優しい会社員。仕事でも私生活でも、壁があればこえることを考える人です。ぱっと見は顔立ちのはっきりした強そうな人ですが、中身は人情にあつく涙もろい、関西のおっちゃん。オレンジ色が好きなので、暖色系の、明るく、ぱっと目に飛び込んでくるような花束をお願いいたします。

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

花束を作った東さんのコメント

今でも「ケンちゃん」と呼べる間柄はいいですね。オレンジですけど、明るい蛍光色。関西のおじさんの軽やかでユーモアのある雰囲気を意識しました。

花材はエピデンドラムやチューリップ、バラ、アルストロメリア、アカシア、ドラセナ(ソング・オブ・インディア)です。オレンジだけど黄色っぽいものを集めています。

感謝と尊敬、愛とお2人の人となりが依頼文で表現されていました。何げない時にお互いの絆を確認し合う、そこにも花の役割があると思っています。花を贈るときは、その人のことを思いますし、いろんな感情を再確認できます。花が人間同士のコミュニケーションを取り持っているシーンかと思います。

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

 「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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