パリの外国ごはん

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao’s Buns」

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

イラスト・室田万央里

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

イラスト・室田万央里

産休に入っていたこの連載の相方、室田万央里さんが今回から復帰することになった。ほぼ半年ぶりで2人揃(そろ)って食べに行くのに、何が良いだろう? 考えて、せっかく2人なのだから、シェアしたら楽しいものにしたいと思った。

ちょうど、蒸してから揚げ焼きした中華まんのようなものを出すらしい店で気になっているところがあった。早速彼女に情報を送る。「いいよ~」と同意を得て向かったその店は、Jixiao’s Buns。左岸のセーヌ川沿いにあり、表に包子の食べ方をイラストで記したパネルを掲げている。通りに面した窓ガラスは店内の熱気によってか、白くくもっていた。

オープンキッチンをカウンター席が囲っている。そこは厨房(ちゅうぼう)のライブ感があり楽しそうだったけれど、かなり暑そうでもあった。それで、窓側に座ることにした。久々の2人での外国ごはんにやはりうれしくて、はやる気持ちを落ち着かせようとしながらコートを脱ぎ、でも目はメニューに向いていた。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

どうやらこの店には2大柱となる料理があるようだ。ひとつは「生煎」とあり、上海のフライパン焼き包子。もうひとつは重慶のスパイシーヌードル。こちらは選び方の順序まで書いてあり、まずは麺か、春雨か、ワンタンを選択。次に、汁無しかありか。そしてオプションの具。最後に辛さである。

包子にはありがたいことに、豚肉入りとベジタリアンが二つずつ入った一皿があったので、注文することにした。同じページの下に、四川料理も4品載っている。それも試してみたい。特に餃子(ぎょうざ)。包子と同時に食べ比べてみたい気がした。そしてサラダも頼むことにした。具体的にどんな野菜で味付けなのかは出てきてからのお楽しみだ。

麺は汁無しとありで1品ずつ頼むことにする。いずれもベジタリアン。汁ありの方にオプションで五香粉風味のゆで卵をつけ、辛さは2を試すことにした。汁無しの方には、発酵させたサヤインゲンをつけて辛さは1に。

メニューを見ているだけですっかり興奮していた。コンスタントにお客の出入りがありそのたびにドアは開けられるのに、全然寒さを感じないほど、店内には湯気の熱が充満していたのだろう。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

まず最初に運ばれてきたのは、包子。上から見ると地味な見た目だったけれど、横から見れば、下の方に随分はっきりと焼き色がついている。それでひっくり返してみると、焼き色というには随分と明るい、赤みがかった、揚げたような色だった。皿には2本、ストローが添えられ、さらに食べ方の書かれた紙も渡された。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

それには、1)最初にひと口小さくかじる。2)中のスープを吸う。3)酢に浸す。4)めしあがれ、とある。でも、この解説の通りに食べたら、ストローの出番がない。と、突っ込みたくなる気持ちは抑え、示されたとおり、まずは少しだけかじり、穴をあけ、そこからスープを飲んだ。

たしかにたっぷりとスープが包んであり、中華の蒸し物ならではの、期待を裏切らない楽しみを味わえた。餡(あん)の豚肉は脂っ気がなく、さっぱりしている。対して、ベジタリアン包子にはほとんどスープはない。でも、コーン、チンゲンサイ、しいたけ、たまねぎ、にんじんと具だくさん。口の中でコーンの甘みがはじけ、包子では食べたことのない食感も楽しかった。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

続けてやってきたサラダは、少し太めのくらげのような形状をしていた。干し野菜なのはわかるけれど、大根ではないし、私には何かわからなかった。万央里ちゃんは、瓜(うり)っぽいと繰り返していた。黒酢をベースに感じるタレで料理と料理の合間のひと口にとてもよかった。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

目にはしていなくとも、厨房はフル稼働だろうと推測できるペースで料理は運ばれてくる。お待ちかねの麺も、程なくしてやってきた。汁ありの方は、ラー油をそのままスープにしたような色をしている。たっぷりのコリアンダーとピーナツが基本の具のようだ。

太めの麺は、スープと相性がよかった。見た目だけでなく、香ばしくておいしいラー油味のスープという形容が当てはまる味だ。食べ進めていくうちに、どこかで食べたことのある味だという気がしてきて、パリで人気の水煮牛肉が有名な店の、まさにその水煮牛肉のスープとそっくりだ、と思い出した。

食べるうちに鼻の頭と額に汗をかき、鼻をかむ必要性が出てくる経過まで共通していた。パンチのあるスープにつかっていても、しょう油ベースのタレにつけたかんじのゆで卵は、ちゃんと五香粉のかおりをまとったままだった。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

オプションの具としては、このゆで卵よりも、汁無し麺に加えたサヤインゲンの方が強烈な存在感を示していた。サヤインゲンを塩漬けして発酵させたかのような、まさに漬物の味で、高菜漬けが好きな私は大いに気に入った。たっぷりのピーナツやネギに覆われてすっかり隠れていた麺を、下から引き出し、具と共によく混ぜて食べる。この食べ方も好きである。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

が、いやぁ楽しいなぁと食べていたら、徐々に体が反応を示し始めた。アレルギーであるかのような鼻水、極端な眠気。最終的には、だるさに打ち勝てず「もう、これ無理だ。食べられない」と言ってしまった。

最後に出てきたゆでた餃子は、少し食べて、完食は諦めた。

途中までは半ば興奮しながら、本当に楽しくて、おいしかったから残念だった。
いつから私の体はこんなふうに添加物やら調味料やらに敏感になってしまったのだろう。原因は必ずしも粉末の調味料とは限らない。液体の調味料にすでに加わっている旨味調味料でやらで頭痛や耳鳴りも始まるから厄介だ。少しであれば大丈夫なのだけれど、ある程度の量を超えると、途端に、尻尾を引っ張られたドラえもんのようになってしまう。
仕事も落ち着いて、用事もない日に、あの楽しさをもう一度確認しに行きたいといまは思う。

興奮の焼き包子とスパイシーヌードル「Jixiao's Buns」

Jixiao’s Buns(ジシャオズ・バンズ)
19, quai des Grands Augustins 75006 Paris
01 42 02 77 37
12時~21時(日~16時)
無休

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

  • 室田万央里(イラスト)

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

料理人

私はいまパリのチュニジアにいます。「Chez Bob de Tunis」

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《パリの外国ごはん そのあとで。》Jixiao's Bunsの発酵ササゲ麺

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