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戸田恵梨香さん「ひとりの人間として、女性として心豊かであるために」

『SPEC』ではIQ201の頭脳をもつガサツな天才捜査官、『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』ではプライドは高くも仕事熱心で心優しい医師。また、昨秋のドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』では若年性アルツハイマーに冒された医師を演じるなど、柔から剛まで様々な役柄に挑戦し、確かな演技力を評価されてきた俳優の戸田恵梨香さんにお話を伺いました。

戸田さんが最新映画『あの日のオルガン』で演じるのは、保母(現在の保育士)さんたちのリーダーで、責任感の強い熱血保母さんの板倉楓(かえで)。太平洋戦争末期、迫りくる空襲から防空壕(ごう)に避難する生活が続く1944年に、東京・品川区の戸越保育所が日本で初めて保育園を疎開させることを選んだ。園児たちを連れて、集団で疎開した保母たちの奮闘を描いた実話の映画化。戦時下で子どもたちの命を守るために、保母たちが行動を起こしていく姿は見る者の心を熱くする。

戸田恵梨香さん「ひとりの人間として、女性として心豊かであるために」

(C)映画「あの日のオルガン」製作委員会

子どもたちを思う真摯(しんし)な姿勢は時に涙を誘い、戸越保育所の「怒れる乙女」とからかわれてしまうほど正義感が強い楓。意外にも「この映画の出演には迷った」と話す。

「戦争を題材にした映画に出演することは、わたし自身の責任も大きく、一身に担うことになるという不安がありました」

そこで戸田さんは撮影に入る前に、平松恵美子監督と話をする機会をもらった。監督と話をするうちに「平松さんと一緒にお仕事がしたい!」という思いと1995年に起こった阪神・淡路大震災。神戸市出身の戸田さんが「6歳の時に被災して感じてきたものを役に投影できるのではと思えた」と振り返る。

「私の場合は、戦争ではなく自然災害ですが、今でも当時の情景は鮮明に覚えています。子どもながらに目に見えない恐怖心や、すべてがなくなってしまった虚無感と絶望感を実感しました。また、以前あるドキュメンタリー番組でミャンマーへ行かせてもらったときに、孤児の子どもたちを学校に行かせる先生方と出会いました。事情がわからず、両親から引き離される瞬間の子どもの顔や姿を見て感じたことも、この映画で楓を演じることに生かせるのかなと思いました」

戸田恵梨香さん「ひとりの人間として、女性として心豊かであるために」

(C)映画「あの日のオルガン」製作委員会

他にも『二十四の瞳』をはじめとする戦争映画を見たり、その当時に上映されていた映画を見たり。共演者の大原櫻子さんほか保母役の俳優たちと一緒に、実際の保育園で保育体験もしたと言う。正義感の強い楓は、戸田さん自身にどれくらい近い役だったのだろうか。

「私は意外と涙もろいんです(笑)。楓のように、疎開保育園から最後の子どもが親御さんに引き取られるまで、涙を見せないという強さは私にはありません。お芝居をしながら涙が出そうになる瞬間もあり、『楓はすごい』と思いながら演じていました。『子どもたちを守る』という信念があるから、感情をぐっと抑えながら凛(りん)として立っていられたのかもしれませんね。その重圧も計り知れないものだろうなと思います」

戸田恵梨香さん「ひとりの人間として、女性として心豊かであるために」

(C)映画「あの日のオルガン」製作委員会

撮影中に平松監督から思わぬ「面白い演出」を受けたのだとか。東京大空襲が起きた後、東京の様子を見た楓が、同僚に状況を説明するシーンのセリフを「歌舞伎のように言ってほしい」と。

「そう言われても『えっ!? 随分ざっくばらんな』と(笑)。シーンにしても言葉遣いにしても、歌舞伎のようなものではありません。撮影の2日前に言われたので、YouTubeで検索し急ピッチで歌舞伎を見ました。『平松さんがおっしゃっていることは、どういうことなのだろう、答えはどこなのだろう』と私なりに考えて現場に行き、提示しました」

でも、平松監督は何も言わなかった。

「『今の感じでいいですか』と尋ねたら『いい』と。『歌舞伎のように』って独特ですよね。面白いな、これが平松さんの世界観なのだと思いました。多分、『違和感を残す』ということだったと受け取っています。今まで、そういう演出を受けたことがなかったので、不思議な現場でしたね」

戸田恵梨香さん「ひとりの人間として、女性として心豊かであるために」

インタビュー撮影 植田真紗美

今秋から放送されるNHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』では、信楽焼の陶芸家を演じる。

「一つの役に集中できるというぜいたくな時間を、いかに有意義に過ごすか。1年を通してひとりの人生を演じることは、なかなか体験できないことだと思っています。毎回、演じることになった役を、精いっぱい演じきることをずっと考えてきました。仕事だけではなく、ひとりの人間として、ひとりの女性として心豊かであるために、楽しいことを見つけたい、体験する世界をみてみたい。そんな思いを大事にしています」

その積み重ねによって「些細(ささい)なことも幸せなことだなと感じられるようになりました」と笑顔をみせた。

幸せを感じるのは自分次第――。そんな忘れがちな事実を教えられた気がした。

戸田恵梨香(とだ・えりか)俳優
1988年生まれ。兵庫県出身。2005年のドラマ『エンジン』(CX)や『野ブタ。をプロデュース』(NTV)で注目を浴び、『デスノート』2部作で映画デビュー。ドラマ『ライアーゲーム』(CX)、『SPEC』(TBS)、『コード・ブルー』などの大ヒットシリーズに出演。昨秋の『大恋愛~僕を忘れる君と』では若年性アルツハイマーに侵される主人公を好演。2019年度後期のNHK連続テレビ小説『スカーレット』でヒロインを演じる。その他、映画『駆込み女と駆出し男』、『無限の住人』など出演作多数

『あの日のオルガン』公式サイトより引用

映画『あの日のオルガン』

東京も安全ではなくなっていた太平洋戦争末期、国の決定を待たず日本で初めて保育園を疎開させることに挑んだ保母たちの奮闘を描いた物語。1944年、東京・戸越保育所の主任保母・板倉楓(戸田恵梨香)をはじめ20代を中心とした若手保母たちは53人の園児を連れて埼玉県南埼玉郡平野村へ集団疎開を敢行する。立派なお寺のはずが雨戸はボロボロ、ガラス戸さえないお世辞にも立派とはいえない荒れ寺だった――。

監督・脚本:平松恵美子
出演:戸田恵梨香 大原櫻子 佐久間由衣 三浦透子 堀田真由 福地桃子 白石糸 奥村佳恵 萩原利久 山中崇 田畑智子 陽月華 松金よね子 林家正蔵 夏川結衣 田中直樹 橋爪功ほか。 2月22日から公開中
公式サイト https://www.anohi-organ.com/

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

アカデミー賞2019 受賞者たちが語った言葉

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あぁ、いい映画を見た。映画『グリーンブック』

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