花のない花屋

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

〈依頼人プロフィール〉
鈴木陽子さん 28歳 女性
東京都在住
主婦
    ◇

昨年は、私たち家族にとって忘れられない一年でした。それまで仕事一筋で生きてきた父が還暦を迎え定年退職。家事育児を最優先にして生きてきた母とのんびり過ごし始めた矢先に、父にガンが見つかったのです。

手術の日は家族総出で病院へ駆けつけました。幸い、12時間にもおよぶ大手術は成功し、他への転移もないということで、みんなで安堵(あんど)しました。

しかしほっとしたのもつかの間、数カ月後に父の様態が急変しました。体調が悪いというので病院に行ったところ、がんで切除した部分に菌が入り、膿(う)んでいるとのこと。。さらに腹水もたまっており、即入院。父はICUで人工呼吸器をつけ、体中管だらけで眠り続ける状態になってしまいました。

その後数カ月、父は何度も生死の境をさまよいました。母は毎日病院に通い続け、そんな母を同居していた弟が必死で支え、赤ちゃんが生まれたばかりの姉、3カ月の赤ちゃんがいた私もみんなで父を応援していました。

「今日か明日が山です」と医者に言われたときは、みんなで泣きました。怖さで震えたことを昨日のことのように覚えています。危篤の報を受け、姉は2歳の上の子と、生後10日ほどの下の子を、私は3カ月の娘を「じいじにお別れするよ」と病室に連れていき、父に手を握ってもらいました。

しかし、そこで奇跡が起きたのです。最後の手段として、「1%でも生きる可能性があるのなら、治療をしてください」と私たちは頭をさげ、より大きな病院に父を運んでもらったところ、それが功を奏しました 。「ここに来ても、命が危ないことは変わりません」と言われましたが、主治医は止まらなかった出血の場所を突き止め、止血が成功すると、父はみるみる回復していきました。これには先生たちも驚きました。

その後父は退院するまでに。自宅でリハビリにはげみ、今は自分で歩いて買い物に行けるようになりました。孫たちともたくさん遊んでいます。

父が奇跡的に助かったことは本当にうれしいです。でも、それ以上に涙が出るほどうれしいのは、以前は「離婚するのかな?」と思うほどケンカの絶えなかった両親が楽しそうに会話をしたり、仲良く出かけたりしていることです。どうやら、父は回復後に母の当時のメモを見て、「こんなに大変なことが起こっていたのか。自分には到底できない」と思ったようで、すっかり2人は仲良くなりました。

あのとき、父か母どちらかがあきらめてしまっていたら今の笑顔がないのかと思うと、2人に「がんばってくれてありがとう」「生きていてくれてありがとう」という思いでいっぱいです。

そこで、そんな気持ちをお花にしてもらえないでしょうか。がんばって生きてくれた父と、そんな父を毎日支え続けた母に、これからも自分の体とお互いを大切にして過ごして欲しい、という思いを込めて……。

できたらランタナを使い、イエローやピンクを基調に明るく、それでいて落ち着いた春らしい花束をつくっていただけるとうれしいです。

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

花束を作った東さんのコメント

お父様、本当に良かったです。奇跡的に回復されたということで、強い方なんだと思いました。花束は、お父さんの人間的な強さと、それを囲む娘さんたち家族を表現。いろんなタイプの花を使っており、動きのあるものにしました。賑やかな家族のようです。

花材はスノーフレーク、キルタンサス、チューリップ、ガーベラ、オキナグサ、アルストロメリア、フリージア、ラナンキュラス、トルコキキョウ、ミモザです。

春をイメージさせる花を選んでおり、ピンクは差し色に。柔らかい印象のある花束で、「これからまた1年を」というメッセージを込めています。

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

<304>「今日か明日が山です」と言われた父が奇跡の回復、頑張った父と支えた母に花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

 「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

<303>言葉の代わりに……夫への感謝と尊敬、そして「愛している」という気持ちを花束に

トップへ戻る

<305>強く憎み傷つけてしまったのに……母から感じた無償の愛

RECOMMENDおすすめの記事