東京ではたらく

校正者:小出涼香さん(27歳)

職業:校正者
勤務地:新宿区
仕事歴:4年目
勤務時間:11時~20時
休日:土日

この仕事の面白いところ:自分の知らなかったジャンルの本や世界に触れる機会を得られるところ
この仕事の大変なところ:世の中の物事を広く知っていなくてはいけないところ、集中力が必要なところ

新宿区にある校正専門の会社「鴎来堂」で働いています。校正というのは、書籍や雑誌になる前の原稿を読んで、文字の誤りがないかどうか、文章の整合性が取れているかどうか、また書かれていることの事実関係などが正しいかどうかを確認するというのが主な仕事です。

本や雑誌とひとくちに言っても幅広い分野がありますが、私が働いている校正専門の会社ではジャンルを問わず、多くの分野の本を扱っています。私の場合はライトノベルや読み物が多いですが、かっちりと分野別に担当者が決まっているわけではなく、そのときどきでさまざまな内容を担当します。

私は大学卒業後、新卒採用で入社したので、まもなく5年目になります。じつは就職活動をするまで校正という仕事についてほとんど知識がなくて。普段読んでいる本や雑誌の文字の誤りなんかを正す人はいるんだろうなとは思っていましたが、あまり深く考えたことはありませんでした。

校正者:小出涼香さん(27歳)

文字のサイズがわかる専用のシートを使って、レイアウトされた文字の大きさが間違っていないかどうかも同時にチェックする。誤字脱字の他にも気を配るポイントはたくさんある

校正という仕事に興味を持ったのは、就職活動をしている最中でした。大学では社会学を専攻していましたが、大学に入るときも就職活動が始まってからもこれといって就きたい職業というのがはっきりしなくて。

最初のうちはさまざまな職種にエントリーしていたのですが、就職活動を進めるうちに、「こんなにやみくもに応募していてもダメなんじゃないか……」と思うようになりました。それからはいったんエントリーするのを止めて、自分が将来どんなことをしたいのか、じっくりと考える時間を持つことにしたんです。

はじめは「自分に何ができるんだろう?」と考えてみたのですが、考えれば考えるほど「自分にできる仕事なんて何もないな……」と思えてきてしまって(笑)。まだ大学生ですから当然と言えば当然なのですが。

それで考え方を少し変えて、「自分が好きな分野はなんだろう?」と。その時に思い浮かんだのが「本」だったんです。

大学ではサークルに所属せず、どちらかというと真面目に学校に通う学生でした。学生時代に打ち込んだものもこれといってなかったのですが、唯一学生時代に楽しく続けていたのが書店でのアルバイトだったんです。

校正者:小出涼香さん(27歳)

歴史背景の記述や専門的な用語に出くわしたときはネットや会社の資料コーナーで逐一調べる。「『まあ、いいか!』と思ったら校正者失格。自分の甘さを律して、小さな疑問もそのままにしないのが鉄則」

とくに好きだったのが漫画です。うちは親も漫画が好きで、小さい頃から家に漫画がたくさんあったんです。それで気づけば自分も好きになっていて、趣味は何かと聞かれたら、やっぱり漫画かなあ、と。

それで本に関わる仕事に絞って就職活動をやり直して、出版社の編集者なんかにも応募したのですが、そっちはなかなかうまくいかなくて。私はおしゃべりは好きなのですが、話すことはそこまで得意ではなくて。

外に出て人とどんどんコミュニケーションを取っていく仕事よりは、もくもくと集中してできる仕事の方が向いているなというのも、採用面接を受けていく中でだんだんとわかってきました。

そんな時、就活向けのサイトで見つけたのが「校正者」という仕事でした。早速エントリーして試験に臨んだのですが、びっくりしたことに通常の試験に加えて、実際の原稿を読みながら文字の誤りや文章の整合性に指摘を入れていく「模擬校正」の実技試験があって!

校正者:小出涼香さん(27歳)

「若いけど実力派」と先輩が太鼓判を押す小出さん。就職試験では専門的な技術が発展途上でも、真摯(しんし)に校正に取り組む姿勢と集中力の高さが評価されることがありうるそう

たぶん他の受験者の方々はそんな試験があることをご存じだったと思うのですが、私はまったく専門的な準備をせずに試験に臨んでしまって(笑)。校正作業というのは専門の「校正記号」というものを使って指摘を入れていくのですが、その知識もゼロ。

間違っている箇所はわかっても、どんな風に指摘を入れたらいいのかわからず、自己流で指摘を入れて試験を終えました。あまりの準備不足に「これはいくらなんでもダメだろう」と見切りをつけていたので、後日会社から連絡をいただいた時はびっくりしました。

といっても一発合格ではなくて(笑)。「しばらく会社に通って校正記号の使い方などを練習してから、再度試験を受けてみませんか」と。就職活動にこんな敗者復活戦みたいなことがあるなんてと驚いたのですが、おかげで今、こうして校正者として仕事をさせていただいているというわけです。

読みやすく、やさしい本を作る。縁の下の力持ち

校正者:小出涼香さん(27歳)

一日デスクに向かって原稿を読む日々。「小説の突き合わせなら1日に読めるのはだいたい40ページくらい。新人の頃はペース配分がわからなくて、仕事を家に持ち帰ったこともありました」

入社してからは模擬原稿を読みながら指摘を入れ、それを先輩にチェックしてもらうという練習が数カ月続きました。基本的なことができるようになると、実際の仕事に入っていくわけですが、校正というのは基本的にはひとりで行う作業。新人だからといって、先輩が一緒に作業してくれるなんてことはありません。

初担当は小説で、単行本だったものを文庫化するということで、その原稿をチェックする仕事でした。校正作業にもいろいろと種類があって、元原稿とデザイン原稿(本の体裁に合わせて元原稿が流し込まれた状態のもの)を見比べて、一文字一文字間違いがないか確認するのが「突き合わせ」という作業。

例えば私の初仕事のように、すでに単行本として発売されている小説を文庫化する場合は、単行本が発売される前に校正が入っていますので、「文字の間違いなんてないのでは?」と思われるかもしれません。

でもそんな場合でも、文字をデザインに流し込む際に間違いが発生してしまうことがまれにありますので、慎重な校正が欠かせません。「突き合わせ」は文章の流れで読むのではなくて、本当に一文字一文字照合していくので骨が折れますが、これが校正の基本となる作業なんです。

校正者:小出涼香さん(27歳)

原稿に指摘を入れる際に使う「校正記号」。新人の頃はまずこれらを覚え、適切に使いこなせるよう練習を重ねた

最初は単純な「突き合わせ」の作業だけでぐったりしていたのですが、経験を積むにつれて、校正の本当の大変さが徐々に身にしみてわかってきました。それは、「校正」というのはただ文字の間違いを確認するだけではないということ。ではほかに何をチェックするかというと、原稿に書かれている内容なんです。

例えばある歴史小説で、江戸時代に使われていたとおぼしき地名が出てくるとします。でもその地名、本当に本の舞台となっている時代に使われていた名称なんだろうか。江戸時代といっても期間が長いですから、そのあたりも含めて再度確認が必要になってきます。

地名だけでなく、人名や食べ物の名前、乗り物の名前、数え上げたらきりがありませんが、そういう細かい部分に気を配って、原稿に書かれている内容の背景まで掘り下げて事実確認をするのも校正の大切な仕事なんです。

こういう風に表現すると、「原稿の隅から隅まで裏とりしていたら、いつまでたっても校正が終わらないのでは?」と言われることがあるのですが、本当にそうだなと思います。もし一冊の本にいくらでも時間をかけていいと言ってもらえるならどこまででも調べてあげたいと常々思います。

じつは校正の仕事の難しさはそこにあって、やっぱり仕事ですから納期というのがあるんですよね。だから気になるからといっていつまでもどこまででも調べ尽くすということは残念ながらできません。

校正者:小出涼香さん(27歳)

オフィスには社員が担当した書籍や、調べ物用の書籍が並ぶ。「担当した本を読んで、自分の指摘が反映されているとわかったときはやっぱりうれしいです。自分も役に立っているんだなあって(笑)」

そんな時は優先順位を決めて作業することも大切ですし、ある程度のところまで調べて、あとは著者や編集者に委ねるという判断も必要です。その辺りの案配といいますか、仕事のペース配分というのはなかなか難しくて、今もって仕事の課題のひとつになっています。

校正者にはフリーランスで仕事をされている方も多いですが、私は会社員ということで、職場にたくさん先輩がいるというのはありがたいことだと日々感じます。何か判断に迷ったりした時は質問したりもできますので。

先輩に教わったことの中でいつも心に留めているのは、「できるだけきれいな文字で指摘を入れる」ということです。著者も編集者も人間ですから、指摘が混み合ってくればくるほど、きれいに書いてある方が気持ちよく読んでいただけるでしょうし、その分見落としも減ると思うんです。

校正が入った原稿をパッと見たときに乱雑な文字で指摘が入っていると「うわ~、指摘多いな!」と思ってしまうものです(笑)。少しでも気持ちよく指摘を受け止めてもらえる努力は誤植を防ぐことにつながるはずと信じて、「できるだけきれいに、丁寧に」と自分に言い聞かせて作業しています。

この仕事の大変なところと楽しいところですか? ちょっとヘンかもしれませんが、それらは表裏一体のような気がします。色々な本を担当しますから、自分がこれまで興味を持ってこなかった分野に触れる機会が多いのはとても楽しいですし、日々世界が広がります。

校正者:小出涼香さん(27歳)

指摘は原則手書きで入れる。原稿に引き出し線をつけるときは定規を使い、できるだけ整然と美しい印象にしているそう。愛用の鉛筆は消し痕が残りづらく、スキャンしても文字がはっきり見える2B

でもその半面、全く門外漢のジャンルを担当するときは本当に大変で(笑)。例えば以前、野球をテーマにした小説を担当したことがあったのですが、当時は野球のルールさえ知らなくて。

試合の描写があるシーンの校正をする際には、その描写が正しいのかどうか全くわからないですし、辞典や専門書で調べても、基本的なことがわからないので、その説明文を読み解くのにまた別の調べものが必要になったりして。それはそれは苦労しました。サイエンスをテーマにした新書なども同様で、「細胞」や「DNA」など、なじみのない専門用語と格闘したこともありましたね。

目標とする校正者像ですか? まずは文字や内容の間違いを完璧に指摘できるということを徹底したいというのが目下の目標ですが、長い目で見たときの理想でいうと、その本を読んだとき、傷つく人がいないような気配りができる校正者になりたいなと思います。

例えば以前とある小説の中に、医者を目指している人に「お前なんか医者としてまだまだだ!」という意味を伝えるためのせりふで「お前は医者どころか、歯医者にもなれない」みたいな表現があったんです。

校正者:小出涼香さん(27歳)

◎仕事の必需品
「同じ言葉でも辞書によって説明の内容や表現はさまざまなので、電子辞書と紙の辞書は必携」

もちろん著者の方のご意向があるので、最終的な判断はお任せしたのですが、私のほうでは「この表現だと、歯科医師の方が傷つくのでは?」というような指摘を入れさせていただきました。

校正するにあたっては明らかな差別用語というものがあって、そうした単語はある程度統一して使用を控えるという傾向にあるのですが、先ほどの表現の部分では決まったルールというのがないんです。だからこそ校正にあたっては、「この表現が誰かを傷つけたり、尊厳を損なったりしないだろうか」、そこをあらゆる方面から検討していくことが大切なんじゃないかと思っています。

最近ではパソコンに文章校正機能もありますし、そのうちAIが校正をやってくれるんじゃないかみたいな話も耳にします。でも、その表現や言い回しが、どんな風に読み手に受け取られるか、受け手に寄り添った文章校正をできるのはやっぱり人間だからこそじゃないかなと感じます。

そんなふうに、自分が関わった本が、少しでも受け手にとって読みやすく、やさしいものになってくれたら校正者冥利(みょうり)に尽きますし、陰ながらですが、そんな本作りに携わっていけたらうれしいですね。

http://www.ouraidou.net/

PROFILE

  • 小林百合子

    編集者
    1980年兵庫県生まれ。出版社勤務を経て独立。山岳や自然、動物、旅などにまつわる雑誌、書籍の編集を多く手がける。女性クリエイター8人から成る山登りと本づくりユニット〈ホシガラス山岳会〉発起人。著書に『最高の山ごはん』(パイ・インターナショナル)、『いきもの人生相談室』(山と溪谷社)、野川かさねとの共著に『山と山小屋』(平凡社)など。

  • 野川かさね(写真)

    写真家
    1977年神奈川県生まれ。山や自然の写真を中心に作品を発表する。クリエイティブユニット〈kvina〉、自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット〈noyama〉の一員としても活動する。作品集に『Above Below』(Gottlund Verlag)『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)など。
    http://kasanenogawa.net/

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