スリランカ 光の島へ

《スリランカ 光の島へ》<17>レズビアンとしてありのままに

時間、約束さえも守ることがむずかしい南国スリランカの人々。LGBTである女性を友人の友人から紹介してもらった。待ち合わせ時間などメールのやりとりのみで、すっぽかされることもあるかもしれないな、と思っていた。でも待ち合わせ場所に彼女が現れたのは約束の時間の15分前だった。

中性的な眼差しはまっすぐにこちらをみつめる。彼女の名はキルティカ、35歳、レズビアン。スリランカ北部のジャフナで2歳まで暮らし、そのあとは家族とともにコロンボに引っ越してきた。

自分が完全に女性が好きだと気が付いたのが14歳のとき。相手は英語の先生だった。でもその当時は自分の周りには”レズビアン”という言葉はなく、ただ混乱するのみ。誰も教えてくれなかった。というか誰もが同性愛はあってはいけないものと扱っていた。

彼女はまだ一般的でなかったインターネットでなんとか自分の心を表す”レズビアン”という言葉を見つけた。両親に打ち明けると「それは一過性の病気」と言われ、彼女の両親も泣いたり、怒ったり。それから彼女は誰にも打ち明けることのないまま10代を過ごした。

彼女は「黙っていたことで私は強くなった」と言ったけど、10代の親友づくりに欠かせないのは恋愛や将来の希望や夢を語ること。そこに参加できないことはどれほど孤独な日々だっただろうか。

《スリランカ 光の島へ》<17>レズビアンとしてありのままに

左腕にはシヴァ神のモチーフ、右手は大恋愛したときに入れたタトゥー

彼女がやっと自分らしくなれたのは20歳を過ぎてから。普及してきたインターネットでLGBTについて学ぶことができた。21歳の時には初めてパートナーもでき、25歳からはまわりに公表するようにした。国外では結婚することも、家族を作ることもできる。そして何より自分は病気ではないし、周りと同じようにただのひとりの人間だから、恋愛もすれば失恋もする。日々働いて休日には好きなことをする。

「I’m natural(私はいたって普通なんだよ)」。でもなかなか世の中は厳しい。シンプルな言葉だけどそれが受け入れられるようになるまで、スリランカではまだまだ時間がかかりそうだ。
「なぜ私たちが偏見の対象になるのか、それは私たちのことを知らないから。きっと恐ろしい存在なんだと思う。人は自分の知らない世界は不気味だから」

今のコロンボはだいぶ変わってきたけれど、スリランカの地方やほとんどの学校で性について語ることはタブーだとキルティカが教えてくれた。家族の中で、同性愛者や性同一性障害の子がいたら、そのことは伏せられる。教科書には性教育のページはあるのだが、教師は教えずそのページは飛ばされる。

18歳以下はコンドームについて語ることは禁止されている(購入ではなく!)。そして性病やHIVのことをよく知らないまま大人になる。未知のそれは恐ろしい病気、それにかかることは人間失格というイメージがつきまとっている。HIVの検査に行くと、海外留学経験のある高学歴の医師にも、セックス産業に携わっている者であるという前提で高圧的に扱われることがほとんどだそうだ。

LGBTの彼・彼女たちは多様な個性や愛の形があると知って欲しいだけなのだ。身近にいないから接する機会がないと多くの人たちは思っているかも。でも言い出せない多くの人たちがきっと私たちの周りにいる。発展途上国のスリランカでは特に。LGBTについて話す機会がもっと増えれば、自分らしく生きられる人たちがきっと増えるんじゃないだろうか。

彼女は休日である日曜にわざわざ私と会う時間を作ってくれた。だから落ち合ったカフェでお茶くらいごちそうしたかった。でも彼女はそれをかたくなに固辞。持ち帰れるようにちょっといい値段のするビンに入ったオーガニックジュースを渡すと、少しだけ口をつけて持って帰らなかった。待ち合わせ場所までかかった交通費や取材の謝礼について一切何も言わなかった。歴史的背景も教えてもらいながらのインタビューはさながら勉強会のような硬めの雰囲気だった。1時間ちょっと話したけれど彼女が冗談を言ったのは1度あったかないか。

《スリランカ 光の島へ》<17>レズビアンとしてありのままに

名前の公表や撮影に関しても迷わずすぐOKと言ってくれたキルティカ

私がこのインタビューで感じたこと。彼女はずっと背負っている。増えたと言ってもまだ小さなスリランカのLGBTのコミュニティ、彼女は唯一のタミル人のLGBTとしてテレビのインタビューにも答えている。でもタミル人はスリランカの人口の20パーセント弱を占める。人口比率(*)からいったらたった1人なんてありえないのに唯一の人として注目される彼女は常に人の模範となるような自分でいなくてはいけない。

ヘテロセクシュアル(異性愛者)では見過ごされることが、ホモセクシュアル(同性愛者)がすれば予想外の批判の対象になったりする。「だからあの人たちは」と言われることもあるだろう。彼女は必死に「私たちはいたって真面目な人間なのだ」と伝えようとしている。だって彼女はまだ声を上げられないLGBTの人たちの代表なのだから。いつか彼女が周りなんて気にせず、誰が相手でもちょっと際どいブラックジョークやグチが吐き出せる日がきますように。

「もしあなたがパートナーと共に親になったら、何を一番子供に伝えたい?」と聞くと彼女は「ただあなたらしくいればいい。世の中で何が起こっても私たちはあなたのそばにいる。いつだって」と言った。きっとそれはかつて少女だったキルティカがずっと心の中に抱いていた願い。そして今も。

* 2018年の電通調査で日本国内のLGBTの人々の割合は人口の8.9%、2016年の世界的なデータでは約6.2%といわれている。

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。

http://akikoishino.com/
https://www.instagram.com/studiofortlk/
http://studio-fort.com/

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