このパンがすごい!

開店は不定期! ワインの「肴(さかな)」としてのパン/さかなパン店

開店は不定期! ワインの「肴(さかな)」としてのパン/さかなパン店

商店街の電信柱に貼った急造看板

学芸大学あたり、住宅が連なる狭い路地。夏の夜の街灯に虫が集まるごとく、店頭に男たちが蝟集(いしゅう)している。彼らの背中から発せられる静かな興奮と熱気はなんだ?

覗(のぞ)き込む。販売窓口に沿って並べられた大型のパン。そして彼らの手に握られたグラス。パン屋の店先で、パンを食べながら飲んでいる!?

開店は不定期! ワインの「肴(さかな)」としてのパン/さかなパン店

客と談笑する、店主の西野文也さん。店先が立ち飲みワインバルに

「食べますか?」と店主から差し出された一切れのフォカッチャ。自家培養発酵種による大きなパン。

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フォカッチャ

口に入れるや、あふれる旨味(うまみ)のとりことなった。鍋料理の最終局面で、肉も野菜も、エキスがぜんぶ煮詰まったスープを想起させるような、まろやかで芳醇(ほうじゅん)な旨味。小麦もオリーブオイルもともに醸され(発酵され)、垣根がなくなったぐだぐだ感覚。もっちりな中身がとろけると、やさしくすーっと喉(のど)を通って胃袋へ落ちていく。

もう、こうなったらアレがほしい。悶(もだ)える心中を見計らったように目の前へ、勝沼の自然派「ドメーヌ・オヤマダ」の白。まろやかさとまろやかさが出会い、酒精の力でびんびんと香りが脳天へ突き抜けていく。

開店は不定期! ワインの「肴(さかな)」としてのパン/さかなパン店

きのこのパン、青森産種ありスチューベンぶどうパン、全粒粉のパン。サービスで振る舞われたワインは、山梨県勝沼のドメーヌ・オヤマダ「BOW! Blanc」

「さかなパン店」は、西野文也さんによる謎のパン屋。ワインの「肴(さかな)」としてのパン、店主の推しワインをいっしょに手渡す。月に1回、焼菓子店などを借りて神出鬼没的に開催。会場まで、カートをごろごろ引いて、生地をもっていき、現場で焼く。

インスピレーションの源もワインだ。俗に「ダシっぽい」といわれるワインがある。果実味やタンニンの渋みよりも、やさしい旨味を感じるタイプ。そんなパンができないかと考えた。

「発酵に関する本をいろいろ読んでいくうちに、長野の『すんき漬』を知りました。ゆでたかぶの葉っぱを水につけて発酵させたもの。成分分析したら、ワインの乳酸発酵と同じ成分。その旨味は塩のない状態で出やすいらしいんです。ワインも塩がないですよね?」

狙うは塩のない発酵。だが、パンは、こねるとき小麦と水と酵母(発酵種)、そして塩を入れる。ではどうする? その前の段階で、旨味を作りだせないか。デラウェア(ぶどう品種)をワインにするときの搾りかすから起こして継ぎつづけるブドウ種に加え、なんと水も発酵させてから入れる。

「水に1%ぐらい小麦粉を入れて3日、4日置くと、しゅわしゅわしてくる。ほのかな酸味ややさしい旨味がいっぱいある」

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きのこのパン

西野さんが作る「きのこのパン」は、小麦感とダシ感が融合している。シイタケ、舞茸(まいたけ)、エリンギ、シメジのコンフィから、ぴゅっぴゅとダシ感や香りが現れる。それが呼び水になったように、小麦を醸したダシ感にも気づくのだ。きのこへの意識はいつしか小麦の旨味へと持っていかれ、小麦に目を向けるといつしかきのこの旨味へと接続。まるで、茶わん蒸しの中で、卵とダシが別々にありながら融合しているように。

このパンでいちばん好きなのは、具材とパンの波打ち際である。具材から滲(にじ)みだした香り、パンの香りが両方とも感じられ、せめぎあい、ゆらゆらしている。ここにダシ感のあるワインを注げば……あふれる旨味に身も心ももっていかれてしまう。

もうひとつの波打ち際アイテムが「青森産種ありスチューベンぶどうパン」。

「青森のスチューベンを、60℃ぐらいのオーブンでセミドライに。オイルコーティングもないし、酸化防止剤も入ってないので、ドライレーズン特有のいやな臭みがなく、自然派ワインにも合います」

ぶどうの鮮烈なる甘酸っぱさ、歯と歯で噛(か)み潰された種がぷちぷちはぜる音。パンを噛めば小麦といっしょに醸されたぶどうジュースが滋味をにじませ、でありながらやっぱり小麦である。「小麦がフルーツである」という新次元。いわずもがな、この口にはワインを注ぎ込むしかない。

パンとワイン、すごい世界を発見したものだ。この情熱はどこからくるのか? もともとパンク系のバンドでボーカルをしていたところに「できちゃった結婚」。生活のため、音楽をあきらめてパンの道に入ったが、やりがいを感じられない。そんなとき、私が「パンラボblog」にて職人の生き様を書き綴っていた「東京の200軒をめぐる冒険」と出会い、そこで知った「パンとワイン」のパイオニア的一軒「パーラー江古田」の門を叩いた。その後、「清澄白河フジマル醸造所」にて、ワイン作りと料理とパン作りを経験。それが「さかなパン店」にいきている。

「どれにもなりきれないけど、逆にいうとどれでもある。三本の矢、3つあったら強くなる。中途半端を極める。それが自分らしさ」

音楽に打ち込んでいた熱い日々は、いま「さかなパン店」で取り戻しているのだろうか?

「自分を表現できる手段。パンとワインでも歌えるんだ」

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■さかなパン店
不定期に都内で開店。スケジュールは下記をチェック。
https://www.webstagram.me/sakana_bakery

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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