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<109>名物はパンケーキ、長居も楽しめる図書館のカフェ 「Café Fermata」

その日はあいにくの雨だったが、十数人が入り口の前で開館を待っていた。ここはJR武蔵境駅前にある「ひと・まち・情報 創造館武蔵野プレイス」。東京都武蔵野市の公共施設で、図書館を中心に、生涯学習、市民活動支援などの機能を兼ね備えた複合施設だ。2011年7月に開館し、初年度から予想を大幅に上回る年間約100万人が利用。昨年度は195万人とさらに増加している。

駅前でひときわ目立つ建物は、真っ白でコーナー部分が曲線を帯びた、不思議な外観。大きな繭(まゆ)型の窓も印象的だ。中に入ると、柔らかなアーチ状の開口部分が隣の部屋とゆるやかにつながっており、また、吹き抜けによって上下の階も一体感がある。近未来的でありながら、ぬくもりも感じられる空間となっている。

「Café Fermata」は、オープン当初から1階で営業しているコミュニティ・カフェ。仕切りのない空間にカウンターとキッチン、その前にはテーブルが並べられている。図書館の本を持ち込んでもよし、店内の本を手にとってもよし。平日の日中はシニア層や子どもを連れた女性、近隣の大学生などが多く、日が暮れるにつれ、仕事帰りに立ち寄る人もちらほら。17時以降は酒類も提供しているので、帰宅前のクールダウンの場として活用している人も多いのだろう。

「オープン前に予想していたよりはるかに多くのお客さんにご利用いただき、驚きました。思っていた以上にこういう場が求められていたんですね」

同店を運営する株式会社レセルカーダの代表・松井隆雄さんは、武蔵野市出身で、今もこの地に暮らしている。武蔵境は新宿まで約20分というアクセスの良さと、生活環境が充実している上に自然豊かなことから、近年人気があるエリアとなっている。

「昔、団地があったところがマンションに変わり、人口流入が増えています。特にこの7~8年でがらりと変わりましたね」

幼少期に父の仕事の都合で欧州などに暮らし、会社勤めを経て経営コンサルタントとして独立した松井さん。独立2年後に、「地元で面白そうな施設ができる」という話を聞き、武蔵野プレイス1階カフェの運営事業者コンペに名乗りを上げた。

「武蔵野プレイスは、『ひと・まち・情報 創造館』という名前の通り、ここに来ればいろんなものがつながる施設です。私が幼少期を過ごしたヨーロッパでもカフェは街を行き交う人たちが立ち寄り、情報交換をするサロンのような役割を果たしていました。そこには上下関係はなく、かといって友達でもない距離感の関係性があり、そういうものがここにもできればいいんじゃないかと思ったんです」

松井さんは、カフェを作るからには、そこで提供されるものが「おいしくなければ意味がない!」と考え、目玉のメニューを考えることにした。仲間たちや、コンサルティング業務でつながりのあったフランス料理店のシェフなどとアイデアを出し合ってたどりついたのがパンケーキ。豆腐を加えることでもっちり感を出した手焼きのパンケーキは、雑誌などでも取り上げられるほどの人気メニューとなった。

「普通のカフェだと、お客さんの回転率を考える必要がありますが、ここはあえて逆行して、長居してもらいたいと考えました。その工夫の一つがテーブルです。一般的なカフェで使われている丸いテーブルって、実は長居しづらいものなのですが、ここでは少し高さのある家庭用のテーブルを置いています。安売りはせず、いいものを出す。そして、長く、居心地よく過ごしてもらいたいと思っています。お客さんもいい方ばかりで、混雑してきたら譲り合ってくださるので、お店として困ることはありません」

ただ、カフェという空間を作っただけで、自然とコミュニティが形成されるわけではないと考えた松井さんは、オープン当初からさまざまなイベントを開催してきた。その代表格が「武蔵野トーキン・アバウト」。本や映画好きが集まって、自分が好きな本や映画を紹介しあう座談会だ。

「はじめから集まりすぎなくらい大勢の方が参加してくれました。ただ来て帰るだけでもいいし、途中参加でも子づれでもいい。運営する側も頑張りすぎない。ただの茶話会だけど、名前をつければイベントになるし、それを続けていけばムーブメントになるんです」

今ではさまざまな話題を英語で語り合う「English Night」、関西弁でしゃべりたい人が集まる「おおさか’ンNight」、武蔵野市とホストタウン関係にあるルーマニアの食文化に触れる「ルーマニア料理とワインの夕べ」、カフェのキッチンを活用した薬膳食に関するワークショップ「養生ごはんの会」など、多彩なイベントを開催している。

「ここは武蔵野“プレイス”ですから、場を提供するのが目的。これからも多くの人が集う場でありたいです」

<109>名物はパンケーキ、長居も楽しめる図書館のカフェ 「Café Fermata」

おすすめの3冊

■おすすめの3冊

『9月0日大冒険』(著/さとうまきこ、絵/田中槇子)
夏休みなのに、ぜんぜん遊べなかった子にやってくる特別な日、それが9月0日。真夜中、家のまわりがジャングルになり、冒険が始まる!
「今回、冒険をテーマに3冊を選んでみました。これは夏休みに病気をしてしまい、楽しいことができなかった主人公とクラスメートが体験する冒険物語です。私には子どもが2人いて、寝る前に私が考えたストーリーを話すとすごく喜んでくれるのですが、この本はそのヒントとして非常に参考になりました(笑)」

『レヴィ=ストロース 悲しき熱帯Ⅰ』(著/クロード・レヴィ=ストロース、訳/川田順造)
「構造主義」の生みの親、レヴィ=ストロースの名著。1930年代にブラジルを旅行し、滞在した紀行文でありながら、未開社会の分析と、ヨーロッパ中心主義に対する批判がちりばめられた内容となっている。「さまざまな事象をひもとくことで社会のシステムを知ろうとしているのですが、非常に難解。でも、折に触れて読むとすごく面白いんです。文学であり、学術書でもある一冊です」

『南インド キッチンの旅』(著/齋藤名穂)
建築家・デザイナーの著者が南インド滞在中の3カ月間に、21のさまざまなキッチンを訪ねた記録。「これはインドのタラブックスから英語で出版されたものなのですが、本人が和訳して日本語版も刊行されました。キッチンの実測図や、そこで暮らす人が作る料理のレシピなどがていねいに記され、とても魅力的な本です。うちでも今年1月に齋藤さんをお招きしてイベントをやったのですが、大盛況でした!」


Café Fermata
東京都武蔵野市境南町2-3-18 武蔵野プレイス1F
http://www.cafefermata.net/

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写真 山本倫子

PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。

<108>大切なのは、自分が「いいな」と思えること 「kuutamo」

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