「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

ハイブランドのジュエリー、自然をモチーフにしたオブジェなど、独自の世界観から生まれるデザインの数々――。アーティストのハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさんは、バルテュスという名で知られる、画家であり父であるバルタザール・クロソフスカ・ド・ローラさんと、やはり画家である日本人の母のもと、ヨーロッパで生まれ育った。美しいものに心引かれた幼き日々、自然への畏敬(いけい)の念、そして、創作に込める思いを聞いた。(文・中津海麻子)

天然石に魅せられた子ども時代

――画家であるご両親のもと、ヨーロッパで生まれ育ちました。今の創作活動につながる「種」はありましたか?

両親からあえて何かを教えられる、ということはなかったように思います。でも、無意識の中で伝えられたこと、感じたことは、もちろんたくさんあったに違いありません。

5歳まではイタリアのローマで過ごしました。父である画家のバルテュスが、ローマにあるフランスの文化施設「ヴィラ・メディチ」の館長を務めていたからです。特に大切に思っていたのが、中庭に降りる階段の両脇に、まるでヴィラを守るように控える2頭のライオンの彫刻。父も私もネコ科の動物が大好きで、私の作品にもそうしたネコ科のオブジェが多いですね。ちなみに、今はサーバルキャットと猫のミックスと一緒に暮らしています。

父はイタリアの文化に造詣(ぞうけい)が深く、ルネサンス時代の画家であるピエロ・デッラ・フランチェスカやマサッチオの話などをよく聞かされました。そうしたこともあり、幼少期の私は、イタリアの美的なものに大きな影響を受けたと思います。

美しいものの中でも特に引かれたのが、天然石です。忘れられないのが、父が一緒に仕事をしていた画廊のオーナー、クロ・ドゥ・ベルナールを訪ねてパリに行ったときのこと。私は7歳でした。ベルナールさんは、何も加工していない、そのままの天然石をコレクションしており、それを特別な部屋に展示していました。私のちょうど目の高さに並んでいて、うっとりと見とれたことを覚えています。

ちなみにベルナールさんはとても変わり者でした。ご自宅に泊めていただいたのですが、お風呂やトイレになんとペロペロキャンディーやガムが山のように飾られているんです。子どもの私には夢のようでした。何日か過ごしたとき、母がこう言いました。「なんだかキャンディーとガムが減っているような気がするんだけど……」。もちろん、私の仕業です(笑)。そんな楽しい滞在の中、私は美しい天然石を眺めながら、森を想像し、大自然の中をあたかも旅しているような気分になったものです。

父がヴィラ・メディチの館長を辞したあとは、豊かな自然に抱かれたスイスの山荘に移り住みました。天然石だけでなく、私は普通の石ころも好きで、それを集めて動物の形に組み立て、両親や二人の兄にプレゼントしたりしました。ほとんどはゴミ箱行きになってしまいましたが(笑)、父だけは私からのプレゼントがうれしかったみたいで、いくつかは大事にとっておいてくれたようです。

――宝飾品やオブジェのデザイナーとしての活動を続けてこられました。発想の源、創作の原動力は?

やはり、幼いころの経験は影響していると思います。かつての父のパートナーがスイスの画家ジョヴァンニ・ジャコメッティのコレクターで、家にはそのコレクションがありました。また、その息子である彫刻家のアルベルト・ジャコメッティと父が友人だったこともあり、小さいころから彫刻など手を使うクリエーションにはとても引かれていたのです。

そして、欠かせないのは自然の存在です。私にとって自然は何よりも大切なもの。残念なことに、今は人間と自然が遠ざかっている。自然への畏敬の念を込めて、動物や植物をモチーフにした装飾品、オブジェを作ることを通じ、自然とのつながりや絆を再認識したい――。そんな気持ちが私を動かし続けてきたように思います。

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

展覧会「ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ~《自然の痕跡》」(2019年2月23日~3月8日 京都造形芸術大学 外苑キャンパス)

――ヴァン クリーフ&アーペルの支援のもと、パリに創設された「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が、2月23日から2週間にわたって東京で開講したのを機に、ハルミさんの展覧会が開催されました。動植物をモチーフにした作品の数々には、どんな思いを込めましたか?

「ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ~《自然の痕跡》」の「痕跡」には二つの意味があります。一つは足跡。もう一つは、何もかもがなくなった後にわずかに残ったもの。果たしてどちらの意味になるのか――。それは、これから人間がどういう道に進むのかによって変わってくるのだろうと思っています。自然の美しさを表現した作品を通じ、自然が非常に危険な状況にあり、私たち人間が環境破壊をやめない限り、次の世代はないかもしれないという危機感を、見てくださる方々に認識していただけたら幸いです。

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

【AGLAIS IO】 アフリカに生息するアンコール牛の角を素材としたリング。黒檀インクルージョン、ファイアオパール、ダイヤモンド、サファイヤ、ガーネット、アメジストをセッティングし、繊細なディテールを際立たせている。蝶は、ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラのインスピレーション源として特別な地位を占めているという

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

【APATURINA ERMINEA】 ダイヤモンドが華を添える、アンコール牛の角を素材としたイヤリング

伝統文化、手仕事が潰えないために

――レコールの取り組みについて、どのように感じていますか?

質よりも量、そしてスピードばかりが求められる今の時代、昔から引き継がれてきた技術やノウハウが失われつつある。手間も時間もかかり、大量生産できないからです。たとえば日本においては、漆のような手工芸が潰(つい)える危機的状況にある。これは、ヨーロッパにおいても同じです。

ヴァン クリーフ&アーペルは、手仕事や手工芸といったものを非常に大切にし、そうした技術から生まれる一点ものの作品に対して高い感受性を持っているメゾンです。レコール(学校)という形で、一般の方々でも気軽に文化や芸術を学び、体験できるレコールは、本当に素晴らしい取り組みですし、ヴァン クリーフ&アーペルだからこそできることだと感じています。

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

【GENERA CALLITHRIX】 サルの頭蓋をネックレスで取り巻き、ダイヤモンドとホワイトゴールドをセッティングしている

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

【OCYURUS CHRYSUURUS】 魚の骨格をかたどった、18Kゴールド製ブレスレット

――これからどのような創作活動を続けていきたいですか?

今回の展覧会にも出品した「MASQUE BALAM」は、まず私が土台となる面を作り、それをイタリアの職人に「打ち出し」という製法を使って仕上げてもらいました。そのように、私が手がける作品はオブジェも宝飾品も、フランスやイタリア、スイスの職人に依頼する、一点ものや数が少ない限定品です。それは、伝統的な文化を守りたいという思いが強く、自分のクリエーションにおいても手仕事にこだわっているからです。

これからもヨーロッパに古くから伝わるノウハウに基づいた手仕事を生かし、残していく創作をしていきたい。そうした活動を通じて、微力ではありますが、地球環境保全に貢献できればと願っています。

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

【MASQUE BALAM】 マヤとインカの文明にインスピレーションを得た仮面の作品。24Kゴールドを使用

「自然の痕跡」をジュエリーに ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん

ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさん(撮影=山田秀隆)

ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ

1973年、画家バルテュスと日本人の母のもとに生まれ、ヨーロッパを拠点に活動を続けているアーティスト、デザイナー。過去に数々の老舗メゾンとコラボレーションして制作されたジュエリーは、ゴールドや木、牛の角などの希少な素材とダイヤモンドをはじめとするさまざまな貴石を融合させたユニークな作品が多く、独自の自由で誌的な世界観が反映されている。野性味あふれる自然と繊細な環境、謎めいた生物となじみのある実在の生物、極小の創造物と巨大なクリエーション、静かな動物と活発な動物などを多様に組み合わせて、作品を制作している。

湘南最後の蔵元で、ビールもハムもパンも。「熊澤酒造」

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