花のない花屋

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

〈依頼人プロフィール〉
田辺真由美さん 48歳 女性
北九州市在住
会社員

小学校に上がる前に父と母が離婚しました。原因はいろいろと大人の事情があったのでしょうが、決定的だったのが父の酒乱と暴力でした。

タクシードライバーだった父は普段はとてもやさしく、一人娘の私をとてもかわいがってくれましたが、お酒を飲むと豹変(ひょうへん)。あるとき、父が酔って母と言い争いをしていたので私が止めようと間に入ると、玄関のドアに投げ飛ばされ、軽いけがをしました。この一件で母は私を連れて実家に戻り、その後離婚に至りました。

母や母方の親戚からは父と連絡を絶つようにと言われていましたが、気になっていた私は、幼い頃の記憶をたどって家を見つけ、こっそりと父の様子を見に行っていました。

それから時が経ち、私の結婚が決まったときは、母に内緒で結納の写真と手紙を送ったこともあります。周りからは「父と関係を持つと老後の面倒をみることになる」「借金を背負うことになる」などと言われ、距離を置くように忠告されていましたが、出産後は子どもの入園、卒園、入学など節目節目で連絡をとり、こっそりと会うこともありました。父はその都度、子どもたちへのお祝いを持ってきてくれました。

そんな父はずっと独りで暮らしていましたが、昨年末、77歳で亡くなりました。晩年はガンを患い入退院を繰り返していたそうですが、「迷惑をかけるから」と、私たちには秘密にしていたのです。

お葬式が終わり遺品を片付けていると、さまざまな家族の思い出の品々が出てきました。私の小さい頃の写真、洋服、お人形、父に書いた手紙、似顔絵、落書き……結納時に送った手紙と写真も大切に保管されていました。聞けば、父は老人会などでよく私の写真を見せては、小さい頃の思い出話をしていたそうです。

ぜいたくをすることもなく、年金で細々と暮らしていた父……。周りに「いつか借金を背負うことになる」と言われていた父は、実際には私の名義でわずかながらの貯金をしてくれていました。通帳の中には、角が擦れて色が変わった、赤ちゃんの私と父が写った写真が挟まっていました。

これまではずっと母側からの話ばかりを聞いてきましたが、父が亡くなってからは、そんな遺品や父の友人たちの話から、私の知らない父の姿が浮かび上がってきた気がします。真由美という名前も、父がつけてくれたそうです。
もっと父に会いたかった……今となっては後悔ばかりがわきおこってきます。もう会うことはかないませんが、せめて天国へいる父へ、ありがとうの気持ちを込めてお花を贈りたいです。

父はお花が大好きで、幼い頃ドライブに連れて行ってくれると、よく道ばたのタンポポやコスモス、マーガレットなどのお花をつんでは私の髪に挿してくれました。ロマンチストなところがあり、母と仲が良かった頃はバラを贈ることもあったそうです。ぜひ、ピンク系の花を使い、ぱっと華やかでかわいらしい花束を作っていただけないでしょうか。

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

花束を作った東さんのコメント

自分も九州男児なのでわかるのですが、つつましく生きていくことに共感できました。別れてしまったにもかかわらず一生懸命、娘さんのことを思い続けていたのだと思います。
自分の知り合いのお父さんが思い浮かんだり。応募者の方はお父さんのことをしっかり理解できているので、素晴らしいと感じました。そういった魂みたいなものを表現したいと思いました。

花材はマーガレット、レースフラワー、アスター、ヒペリカム、カーネーション、エピデンドラム、アルストロメリア。

ご仏前に供えることができるのであれば、お父さんは娘さんの気持ちを感じとれるのではないでしょうか。

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

「借金を背負うことになる」の忠告も……。こっそり会いにいった離婚した父親へ花束を

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

PROFILE

  • 宇佐美里圭

    1979年、東京都生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌、『週刊朝日』編集部を経て、『アサヒカメラ』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

  • 椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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<305>強く憎み傷つけてしまったのに……母から感じた無償の愛

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