スリランカ 光の島へ

<18>結婚12年目の夫婦のかたち

&wの連載「ブックカフェ」やインタビューでもおなじみの写真家、石野明子さんが2017年、30代半ばにして移住したスリランカでのライフスタイルを伝える「スリランカ 光の島へ」。第18回は、スリランカに一緒に移住した夫との「12年間」をふり返ります。

<18>結婚12年目の夫婦のかたち

私たち夫婦は今結婚12年目。結婚した27歳から考えると環境は大きく変わっている。スリランカへ移住して、写真スタジオを立ち上げているのだから。夫はそれまで企業に属し、ハードウェアエンジニアの仕事をしてきた。私はフリーランスのフォトグラファーだった。

移住のきっかけは、私の子宮外妊娠だった。(第一回目コラム)。その出来事があったことで、一度きりの人生ならば、やりたいことにトライしてみようと今に至る。

話は少しさかのぼるが、まだ私が不妊治療していたころ、年上のフリーランスの独身女性2人と食事をしたときのこと。子供を授かったとしても仕事を変わらず続けたいと言ったら「それは無理!」「高望み」だと言われた。同じ女性にそう言われたことがとても悔しく、逆に「やってやる!」と思った。

何かを選びとりたいときにどうして何かを諦めなくちゃいけないのか。優先順位やスピード感は変わるかもしれないが、きっと何かしら方法はあると思っている。今その形を作るために夫と実践しているといっていい。でも今思えばその女性たちは、何かを諦めなければいけない状況にあったのかも。

<18>結婚12年目の夫婦のかたち

私たちの経緯を聞かれることが多いのだが、たまに「理解のある旦那さんですね。優しい旦那さんですね」と言われることがある。でも私はこの言われ方が好きではない。もちろん相手に悪意がないことはわかっている。でもまわりまわって逆に罪悪感を感じる。彼は彼でこの挑戦に価値を見出しているのでここにいるのであり、私だけの考えにただ乗っているわけではない。

これは「私たちの挑戦」なのだけれど、個々の「私」「僕」の挑戦でもある。私はフォトグラファー、彼はスタジオの営業、企画、経理を担当している。私が前面に出るわかりやすいポジションで、彼が黒衣に徹しているだけだ。私が取材に出ている間は彼が娘をみることになるのだけど、そうするとその声はさらに増す。

だから彼にもいろいろ聞いてみた。

2人でずっと同じ空間にいて、同じ仕事をするのはどう?
「居心地は悪くないよ。意見が食い違う事も多いけど、お互いが同じ目的に向かっていると思うのでそこにストレスは感じてない。目指すところはどこか常に話し合うようにしているし」

スタジオで、女性フォトグラファー(私)、女性スタッフのシャミ(スタジオ専属のメイクアップアーティスト)が楽しそうに働いているというイメージが気に入っているそうだ。

「子供がいても働ける、女性が技術を持って働ける会社を作りたいから。スリランカは男社会だから、交渉ごとは僕がやった方がいいし」

職種が変わったことで、自分のキャリアが断絶した気がする? と聞くと、
「以前の職種(エンジニア)は最新のIT技術の知識が必要なものだし、少し離れるだけでもその遅れを取り戻すことはすごく大変。ブランクがある今即戦力になるとは言えないし、そういった点では断絶してるかも」
という。

「でも今は新たな分野のキャリアがスタートしたし、新しいことに挑戦できてるので落胆はないよ。ゼロから始めたこの会社が、数字で少しずつ右肩上がりになっているのが見えるのは嬉しいし、自分が多角的に関わっていけるのはすごくエキサイティングなこと。それに以前の仕事よりも外に出るから、出会える人の数が格段に増えた」

子供との時間について、どう思っているか聞いてみたら、「必然的に子供との時間が増えたことで、母親がいなくてもなんとかできるとわかった」そうだ。

「育児は大人も子供もお互いに『慣れ』! 一緒にいる時間が長いことで彼女がどんな世界を持っているかよくわかるのが楽しい。送り迎えの際に保育園の先生と話す機会も多いし、こんなにじっくりと彼女の成長がみられるのは喜びでしかないなぁ。でもずーっと2人だけだと正直しんどい。可愛いのは変わらないけど、気が抜けないから」

じゃあ、“いい旦那さん”と言われることは?
「嫌だとまでは思わないけど、少し複雑な気持ち。彼女の世話をすることは特別なことじゃないし、それが僕たちの形。子供との時間が欲しくても取れない人もいるし、いいとか悪いとか言えないかな」
とのこと。

<18>結婚12年目の夫婦のかたち

夫とふたりで同じビジネスをするということはぶつかることもたくさんあるだろうし、近い距離感だけにものすごく傷つけあってしまうことがあるかもしれない。そんなことが積み重なってお互いを異性として見られなくなるかも……という不安もあった。

ぶつかることが増えるというのは予想通り。将来の「不安」や「焦り」がのっかってヒートアップすることもある。だけど違和感を感じた時は必ず話し合うようにしている。そして相手への気持ちも言葉でちゃんと伝えるように。愛情表現や正直な話し合いが「慣れないこと」にならないように気をつけている。

同じ船に乗っているけど、物事に対する価値観が同じわけではない。若いときには「わかりあえるはずだ」にとらわれてしなくていいケンカも多かった。今もたまにびっくりするほど意見が合わないことがある。

突き放されたような気がして悲しくなるけれど違う人間なのだからしょうがない。「ここは彼とはわかりあえない」とわかったことを「良し」とする。家族だろうと絶対の理解者ではないから。でも、それでも絶対の味方。

スタジオを始めてからしてきた種まきがやっと少しずつ芽が出てきたような気がする。これからどんな風にその芽が育っていくだろうか。私たちの夫婦のかたちもどんな風になっていくのか。お互いおじいさん、おばあさんになって「あのスリランカ時代は最高に攻めてたね」って笑って話せる日々が来たら、最高に幸せだ。

>>写真の続きは画面下のギャラリーへ

PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。

http://akikoishino.com/

<17>レズビアンとしてありのままに

トップへ戻る

<19>スリランカの名物経営者、“出る杭”ムニさん、空を飛ぶ

RECOMMENDおすすめの記事

Recommended by Outbrain