特集

福田春美さん「旅した先の空気とストーリーを添えて」

『おくりもの』をテーマにお届けしている3月の特集。2回目にご登場いただくのはブランディングディレクターとして活躍する福田春美さん。
公私ともに旅をすることが多いという福田さん、旅した先の空気とストーリーを添えて贈りたい、とっておきの品について伺いました。

旅した先の空気をおすそ分けするように

新しい店舗やホテルなど数多くのブランディングを手がけ、いつも国内外を飛び回っている福田春美さん。「おくりもの」と聞いて一番に思い浮かぶのは、特別なシチュエーションで贈るものではなくて、旅のおみやげだそうです。

「誰に買っていくというのは決めていなくて、いつも「いいな」と思ったものがあったら気持ち多めに買っておいて、友人や仕事で会った方にさりげなくお渡しするというのが多いですね。自宅に友人を招いた時には『これ、持って行って』といった感じで」

こうした習慣が身についたのは30代後半から。

「仕事の先輩や、同年代でもすてきだなと思う方は、お目にかかると必ずどこかのお土産をちょこっと出してくださる方が多くて。ああ、こういう心配りが自分には足りないなと思いましたし、何よりうれしかったんです」

最近は公私ともに北海道に足を運ぶことが多いそう。中でも魅了されているという根室を訪れた際に、必ず持ち帰るのが「VOSTOK labo」のクッキー。

「ここは東京から移住された方が営んでいる小さなカフェで、地元の食材を使った軽食もとてもおいしいのですが、お土産に絶対買って帰るのがクッキー。シマフクロウやオジロワシといった根室に住む動物たちを丁寧にかたどったもので、彼らがその土地の自然や生き物に強い尊敬の念を抱いていることが伝わってくるんです」

クッキーを手渡す際には、作り手の想(おも)いや、実際にその土地を旅して感じた気持ちもそっと添えます。

「根室など道東の森は日本のどこの森とも違う独特の雰囲気があるんですよね。そこにオジロワシの姿を見つけたときの感動は忘れられません。ただ『おいしい』だけではなくて、その土地だけが持つ空気も一緒に贈れたらといつも思っています」

福田春美さん「旅した先の空気とストーリーを添えて」

根室のシンボル的存在であるオジロワシをかたどったカラメルクッキー。
素材もできるだけ根室産のものを使用し、地元の食と文化を伝えています。
10羽入り648円(税込み)/VOSTOK labo(北海道根室市光和町2-10 アトリエをカフェとして営業中に販売。営業日時については、インスタグラムでお知らせします。Instagram:@VOSTOK_labo )
※東京では青山の「call」にて週に1度入荷。
東京都港区南青山5-6-23(SPIRAL5階)tel. 03-6825-3733

「かわいい」だけじゃない、本物を

「この仕事をしていると、すてきなもの、かわいいものというのはたくさん目にするんです。だからこそ、ものの『本質』という部分は大切にしたいといつも思っています。それは贈り物を選ぶ時も変わらなくて、その品ができるまでの過程やそこに込められた作り手の想いを自分で聞いて、本当に『いい!』と思ったものをプレゼントしたいんです」

北海道土産の中でも私の定番になっているのは、六花亭の包装紙と同じデザインのマスキングテープ。

「六花亭の包装紙に描かれている植物は、すべて北海道ゆかりの山野草なんです。描いたのは坂本直行さんという北海道出身の画家で、山岳家でもありました。彼はかの坂本龍馬の子孫。釧路に生まれて、その後まだ未開だった十勝の原野に入って開拓をされた方なんです」

六花亭の包装紙のデザインの話から、福田さんの話はどんどん熱を帯びていきます。

「私は札幌の出身ですが、地元、特に私の周りでは『六花亭は北海道の真心』と言われています。お菓子のおいしさはもちろんですが、その歴史や創業の背景、いつの時代も変わらないホスピタリティー、私はそのすべてに対して勝手に誇りを持っているんです。だからお土産を渡す時も、ついつい色々と話してしまって(笑)。でも、こういう話を通して、見慣れた六花亭のデザインのすてきなところや、北海道の魅力を感じてもらえたらいいなと思います」

福田春美さん「旅した先の空気とストーリーを添えて」

坂本直行さんが描いた北海道ゆかりの山野草をちりばめたマスキングテープ。/六花亭 420円(税込み)
六花亭オンラインショップでも購入できます。

人と土地を結ぶ「おくりもの」

「札幌を訪れた時に必ず立ち寄るのが「二番通り酒店」。店主が毎年1~2カ月間フランスに滞在して厳選した自然派ワインを扱うワインショップで、日本全国探しても、ここでしか手に入らないものがたくさんあるんです」

一番のお気に入りは、「モ ミンタラ」というアルザスの白ワイン。アイヌ語で「静かな庭」という意味で、エチケットには北の大地に根付く草木が描かれています。

「アルザスの作り手を直接訪ねた店主が、その素晴らしさに感動して、ある分を全部分けてもらったそうで、つまりこのワインは世界中で二番通り酒店でしか扱っていないんですね。フレッシュですがすがしくて、どこか可憐(かれん)な味わいは北の大地に芽吹く草木を思わせて、なぜ店主が『静かな庭』というアイヌ語の名を付けたのか、飲んでみるとよくわかるんです」

そこにはやっぱり北海道への自然に対する畏敬(いけい)の念が込められています。

「VOSTOKのクッキーも六花亭のマスキングテープも二番通り酒店のワインも、品は違えど、そこには自分たちが暮らす土地への誇りと尊敬が込められているんだなと感じます。そうした作り手の想いに触れるにつけ、自分もまた同じ気持ちを持っているんだということに気づかされますし、東京で暮らす大切な人たちにも、そのすてきさ、素晴らしさを伝えたいと思っているのかもしれません」

福田さんが旅先から持ち帰る小さな「おくりもの」は、遠い土地と東京で暮らす友人をそっと結ぶような存在なのですね。

「そうなってくれたらすてきですね。自分でも続けて買いたいなと思ってもらえたり、その土地に足を運ぶきっかけになったりしたら、そんなにうれしいことはありませんね」

福田春美さん「旅した先の空気とストーリーを添えて」

写真左:フランス・アルザスのクリストフ・リンデンラーブの白「モ ミンタラ」。無添加、無濾過(ろか)のヴァン・ナチュール。
中央:ル・ソ・ド・ランジュ ロゼ・ソティス ペティアン・ナチュレル。
右:クロ・フォンティーヌ フォジェール・トラディション2016年。/二番通り酒店(北海道札幌市中央区南7条西12丁目3-20 TEL 011-211-4498)

撮影・野川かさね 文・小林百合子

>>伊藤まさこさんの『おくりもの』のお話はこちらから

>>4月の特集『出会いと別れ』はこちら

PROFILE

福田春美
ブランディングディレクター
ファッションディレクターを経て、ライフスタイル全般をブランディングするディレクターとして活躍。2018年秋に北海道・十勝にオープンした「MEMU EARTH HOTEL」のブランディングを担当。隈研吾監修の実験住宅群をホテルにするという画期的プロジェクトで注目を集める。著書に『ずぼらとこまめ』(主婦と生活社)

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高山都さんの手放した考え方と、新しく始めた習慣。

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