わたしの みつけかた

<9>家族になること ~戦士のポーズ

<9>家族になること ~戦士のポーズ

撮影・篠塚ようこ

ヨガの先生兼スタジオオーナーであり、作家でもあるリザ・ロウィッツの自伝的小説 “In search of the Sun” からご紹介する連載。
ようやくかない始めた養子縁組への道が、義父からの突然の反対で閉ざされそうになる危機を無事乗り越えた第8回。今回は、めでたく認めてもらえたリザと省吾が、いよいよ未来の子どもと出会うところから始まります。

息子との出逢い

2月9日。私たちの未来の息子、信仁(しんじ)に会うため、孤児院を訪れた。
大きなガラスの扉を開けて中に通される。大きなパンダのぬいぐるみが待合室のベンチに寄りかかるようにしておかれていた。静かで、無駄な装飾のない空間には子どもの姿は見えない。
裏手にある遊び場に行くと、何人かの子どもたちがいて、その中の1人が信仁だった。

ちょっとぽっちゃりして、汚れた青いブカブカのダウンジャケットを着ている。おにぎりみたいな髪形で、ぷっくりとした真っ赤なほっぺ。足首まで裾を丸めたブカブカのジーンズをはいている彼に手を振ってみる。私たちに気付いた信仁は、笑うどころか反対側の角まで走って、物陰に隠れてしまった。まるで私たちと関わりたくない、と言っているみたい。

省吾と視線を交わして、無言でうなずく。これまで何度も裏切られてきた信仁に、初対面の私たちを信じろ、なんて誰が言える?

彼を追いかけることはせずに、ほかの子どもたちに混ざって遊ぶことにした。砂場で遊んだり、ブランコを押してあげたり、かくれんぼをして遊んでいるうちに、信仁も注意深く、恐る恐る距離を縮めてきた。けれども、一緒に遊ぶよりも前に私たちの訪問時間が終わってしまった。

帰りの車で、省吾が運転席から助手席の私の手を取って握りしめながら「心配しないで。きっとうまくいくから」と言ってくれた。

想像と違った。うまくは言えないけど、映画のワンシーンみたいに、子どもが私の腕の中に飛び込んでくるような、感動的な出会いを期待していたのかな。彼にとっては、想像していた母親像と私は全く違うことだけは確か。日本人じゃないし。外国人だし。白人だし。

「うまくいくはずない。挑戦したいなんて思ったのが馬鹿だったんだ」

抑えようとすればするほどに、涙が込み上げてくる。これって悲しみ? 今って悲しむべき瞬間なの? 幸せで満たされているはずじゃないの?

次から次へとあふれてくる感情や疑問を省吾にぶつけてみると、
「良いんだよ。ただ感じていることをそのまま受け止めれば」
手を握りながらそう言う。

省吾は、長期戦だって覚悟をしている。引き返す道もないって分かってる。悲しみも、無言も、彼は全て受け止める用意ができている。
私もそんな省吾に学びたい、と思った。

次の日2人で話し合って、たとえ30分だけだとしても、私たちの家に迎え入れるまで、毎日信仁に会いに行こうと決めた。

おやつ

会う回数を重ねるごとに、少しずつ距離が縮まっていくのを感じていたある日、おやつの時間に、別の部屋に信仁と一緒に通された。信仁の担当の中田さんのいない所で、私たちとだけでも彼がおやつを食べるか見るために。

1回目、信仁は周りの視線を気にしたのか、何も手をつけない。彼がどれだけ覚えているかは分からないけど、同じ過程を前にも経験しているはず。とても理解力があって、敏感で、周りをよく観察しているのが分かる。無理に食べさせるようなことはせず、次の機会を待つことにする。

2回目は、牛乳を一口飲んだ。3回目では、コップ1杯飲み干して、シュークリームを半分食べてくれた! 食べかけのシュークリームを見てこんなにうれしい気持ちになるなんて、思いもしなかった。

その次は、焼き菓子を丸ごと一口で食べた! ホッとする。後から聞くと、いつもお菓子は一口で飲み込むように食べているそう。だからぽっちゃりしているのかも。白砂糖がたっぷり入ったお菓子を食べること自体は、それほど喜ばしくないけれど、ここまでたどり着けたことがうれしい。信仁を我が家に迎える日が近づいているということだから。

永遠

4月19日。信仁の2歳の誕生日から数週間後、ようやく一緒に家に帰る許可が出た。――少なくとも家庭裁判所が、私たちが法的にも家族になるための申請を却下しない限りは。
家に着くまでの車の中で信仁が遊べるように、サルのぬいぐるみのアイアイを連れて行った。孤児院で、信仁に渡すと、腕の中でぎゅっと抱きしめている。
担当の中田さんの目には涙が光っていた。「幸せの涙です」と、涙を乾かすように、手のひらで仰ぎながら言うけど、寂しい気持ちも伝わってくる。この時は知らなかったけど、信仁は、中田さんが担当した初めての子どもだったそうだ。まるで自分の子のように育ててくれた。

中田さんが、おもちゃや服、絵本など、可愛らしく包まれた贈り物でいっぱいの大きな袋をくれた。きっと孤児院の決まりでは、贈り物はいけないことになってるに違いないけど、誰も止める人はいない。私たちも、心からの感謝を込めて丁寧に受け取った。

出発する時になって、信仁が待合室のジャイアントパンダの隣にアイアイを座らせて、置いていこうとする。私たちが「そのまま持って行っていいんだよ」と言っても、不思議そうな顔をする。今まで「自分のもの」が無かった信仁には初めての経験。

孤児院を車で去る時、私たちが見えなくなるまで、中田さんは何度もお辞儀をしては手を振ってくれた。
その時、自分でも気づいていなかったけど、私もお辞儀をして、手を振っていた。

ママ、パパ、信仁

子どもを家に迎えるときの、ユダヤ教ならではの祝福の言葉がある。家に着くと同時に、私もキャンドルに火を灯(とも)して、その言葉を唱える。大きな贈りものの袋を足元に置いた信仁と省吾も私を見つめる。

私たちの家が、いつもあなたの存在で充たされる聖域でありますように
お互いに愛を持って接し、心から向き合うことができますように
信頼と思いやりで結ばれて、
家族としてより強い絆を築くことができますように
命の源泉よ、あなたの光り輝く存在で、私たち全員を祝福して下さい

ずっと夢見た瞬間が、ここにある。信仁が、私たちと一緒にこの場所にいてくれることが、信じられない気持ちだった。
まだ慣れない信仁は、とてもお行儀が良い。皿洗いを手伝うし、バッグを運ぶのも手伝ってくれる。トイレにもついてくる。何をするにも、まず聞く。
「食べても、いいですか?」「終わりにしても、いいですか?」「犬に触っても、いいですか?」
この状態がいつまでも続かないのは分かっているので、今を楽しもうと思いながらも、一生懸命にお行儀良く、私たちを喜ばせようとする彼がいじらしくて、心が痛む。
頑張らなくても、良いんだよ。

だんだんと、私の愛情でこの小さな子の心を包み込めたらと願う。
夜、ベッドで私が絵本を読んで、信仁が眠りに落ちる寸前、尋ねるように何度もつぶやく言葉。
「ママ、パパ、信仁」
新しく彼が加わることになったグループを、心に刻みつけるかのように、
「ママ、パパ、信仁?」
「はい」と私。
「ママ、パパ、信仁?」、再び尋ねる。
「ママ、パパ、信仁」。眠りに落ちるまで、私もつぶやき続ける。

ユダヤのことわざをまた思い出していた。
《子どもの智慧も、立派な智慧》
ママ、パパ、信仁。私もこの言葉を心に刻まないと。私たちのおまじないの言葉。
私たちは家族。
ずっと一緒。
これからも。

ヨガティップス:戦士のポーズ2~ヴィラバドラーサナ

スタミナと自信を授けてくれる、パワフルなポーズです。シヴァ神の生まれ変わりであり、千の頭、千の目、千の足に、千の金棒を持ち、虎の毛皮を着ていると言われる戦士のイメージで名付けられました。

自分が強い意志を持った戦士になった気持ちでポーズを取りましょう。口元にはほんのり微笑みを。10呼吸した後、吸う息でポーズから出て、吐く息で腕を降ろします。
背骨から下半身の強化をすると共に、内臓の働きを助けて消化を促進します。心を平らかにし、勇気そして品格を養います。

*Message from Leza*
Waiting is a difficult skill, and when things arrive it’s easy to fall into the trap of expectation. I’m grateful to yoga and meditation for offering the practice of how to be with what is in the present moment, to rejoice in things as they are. To celebrate the wins.

何かが訪れるのをただ待つのは難しいことですし、訪れたものに多くを求めすぎてしまう、というのも私達が陥りやすい罠ですね。ヨガと瞑想を通じて、訪れてくれたものをそのまま祝福するということ、ありのままをただ受け止め、喜ぶ訓練ができたのはとてもありがたいことだと思っています。

PROFILE

  • リザ・ロウィッツ

    2003年設立、東京・五反田にあるヨガスタジオ「Sun & Moon Yoga(サンアンドムーンヨガ)」主宰。
    カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて文芸創作の修士過程を修了。来日し東京大学や立教大学においてアメリカ文学の講師として教鞭を執る。
    現在は執筆活動の傍ら、子供に大人、ガチガチに体の硬いビジネスパーソンからアカデミー賞受賞俳優まで幅広い層の生徒へ向けてヨガ、マインドフルネス、瞑想を25年以上に渡って伝えている。
    20冊以上の著作の中には受賞作品も多数。現在も定期的にヨガのクラスやワークショップを国内外で開催し、独自のヨガの世界を発信している。

  • 吉澤朋

    東京都の国際広報支援専門員を経て、現在はライター・文化を伝える翻訳者。子宮筋腫を患ったことをきっかけに自分の身体・健康と向き合うようになり、リストラティブヨガと出会う。
    自身も国際結婚の体験者であり、「女性になること」を楽しみ中。

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